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第八話父と娘、愛の死闘
27.生贄
しおりを挟む貴族派達を睨みつけ、立ちはだかるリズベット。
「どういうつもりですの」
「何がですの?」
貴族派の令嬢の一人が、リズベットを睨みつける。
「他人の背中に隠れていればいいと思っているなんて、なんて卑怯な」
「言葉を慎みなさい。無礼者!」
リズベットは厳しい声を言い放つ。
立場で言えば王国貴族の監督義務のあるリズベットに声を荒げることは許されないのだ。
「何時から貴方はそんなに偉くなったのかしら?」
「リュミエール公爵令嬢に食い下がるとは何様ですの?」
リズベットの傍でローニャ―が冷静に言い放つ。
二人は王族派貴族として対峙し、無礼な態度を取ることを許さなかった。
「何を!」
「格下の貴方には理解できませんわね…薄汚い娼婦の娘」
こっそり耳打ちして蔑むような言葉を言い放つ。
「なんですって!!」
耐え切れなくなった令嬢こと、ミルフィオリ伯爵令嬢は手を振りかざそうとする。
バシッ!
「おやめください!」
「放しなさい!無礼者!」
エステルが前に出て、ローニャを守る。
「貴族令嬢として暴力を振るうことは許されません」
「何よ…アンタなんて!出来損ない令嬢の癖に!」
怒りで我を失い、ミルフィオリ伯爵令嬢は暴言を繰り返す
「捨てられた令嬢と妾腹の王子とお似合いだわ!」
「おい、グリセラ!!」
ここは社交の場、暴言を吐き続ければどうなるか解らなわけがないのに続ける。
「ミルフィオリ伯爵、随分な教育をなさっていらっしゃるのね」
「それは…」
「貴方は王家を軽んじ、公爵令嬢である私を侮辱しているのかしら?」
冷たい目で見据える。
どんな理由があっても王族を侮辱することは許されない。
「申し訳ありません!」
「第一王子殿下をも馬鹿にするとは、貴族派の考えは良く解りましたわ」
「決してそのような!」
公の場で醜態をさらす娘を睨みつけるも、暴言を吐いた本人は自分の失態に気づかない。
冷静になれば解るのだが、ローニャの囁きと、蔑むような目を向けられ、自分の出自の悪さを批難されているように見える。
(私を馬鹿にして!)
涼し気な表情をするエステルに憎悪を抱く。
彼女はエステルに対して強い劣等感を抱いていたのだから。
名門貴族でありながら両親は社交界でも強い影響力を持つ女性。
婚約者は第一王子で、将来は王太子殿下と王太子妃の傍付き護衛を任され将来をされているのだから。
エステルは血筋が悪かろうがさえ済むような真似をしないが、その清廉潔白な態度が血筋が良くない人間からしたら嫌味に見えて仕方なかった。
「詫びるのは私ではなくアルスター令嬢におっしゃってうださい」
ローニャの言葉は屈辱的なものだった。
(冗談じゃないわ!)
かつては社交界で冷遇されていたエステルに頭を下げるなんてプライドが許さなかった。
エステルを無言で睨みつける。
その視線にローニャが気づかないわけもなく、さらに追い打ちをかける。
「あら、それが貴方の態度ですの?困りましたわ」
「令嬢は反省の色が見えませんわ。これは由々しき事態ですわね」
「申し訳ありません!」
娘の失態は親の失態となる。
父親が必死で頭を下げていながら、娘は謝る気は一切なかったのだが…
「お前も頭をさげぬか!馬鹿者!」
頭を思いっきり掴まれ床に叩きつけられ土下座をさせられる。
(どうしてこの私が…こんな!)
頭を下げさせられ恨みを込めるが、なすすべもない。
「クスッ…」
その時、少しだけ頭をあげるとローニャが笑みを浮かべているのが見えた。
(この女!ワザと!)
全ては解っていながら計画的に行われた茶番劇にようやく気づく。
この場で破滅させるべく生贄にされ晒し者にされたと解った時は既に手遅れだった。
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