ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第九章辺境の聖女

30.成長

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古の時代より、強い魔法を用意るには対価が必要だった。


偉大なる大魔法使いや、魔導士も強い魔力は持っているが、限度がある。
その限度を超えると自分の命すら落としかねないのは誰もが知っていることだった。


魔法とは万能ではなかったのだ。


呪いに関しても同様に、他者を呪い殺す為には必要な対価があった。

そして一番危険極まりないのは、呪いをかけた術者は呪い返しをされると同じような呪いを受けて死んでしまうこともあれば、強すぎる呪いをかけると自身の身も滅ぼしてしまう可能性がある。


今回の魅了魔法も、その可能性が高かった。


「頭のいい人間なら一度に強い魅了魔法は使わないわ」

「ええ、魅了魔法は万能ではありませんから」

授業でも魅了魔法に関しては習ったが、魅了魔法は自分に関心があるか、好意的であるならば術にかけるのは簡単だが、一度だけ魅了しても意味がない。

定期的に魔法をかける必要があるし。
最初から強い魅了をかけてはいけないのが鉄則だった。

「心を操る魔法は体に負担が大きいですから」

「私達だって人を惑わしたりするけど、完全じゃないわ。なのにあの女…」

アリアナの取り巻きだった男子生徒はかなり強い魅了魔法をかけられていた。
真面な思考ができなくなるように麻薬で侵された末期症状と同じならば術者もかなりの負担を感じているはずだ。

「あの女、自覚がなさそうだったけど」

「むしろ知らないのでは?」

「ありえますね」


魅了魔法の使い方を理解しているわけではなく本人は自分の魅力だと思っている可能性がある。


(絶対理解してないわね!)


エステルは根拠がなかったが、すとんと頭に入っていた。


「その証拠に、今日は授業中に居眠りをしてたわね」

「極度の疲労が見えました。このまま自滅していただいてもいいのですが、それでは面白くありません」


「「「は?」」」

僅かにアリスの表情が冷たくなる。


「あっ…アリス」

エステルは冷や汗を流す。
純粋で優しく頑張り屋のアリスが腹黒くなっていることに顔を引きつらせていた。


「アンタも言うじゃないの」


「これでもかなり我慢していたんです。あろうことにもエステル様に石を投げるなど…」

(((怖っ!!)))

アリスの表情は魔王のように恐ろしかった。
普段は温厚であるが、エステルがかかわった時には豹変することが最近多くなってきた。


「昔のアリスさんが恋しいですね」

「ええ、出会った頃は…まぁ」

遠い昔を思い出すようにホロリと涙を流すジークフリートとルーク。
純粋だった頃のアリスがとても懐かしく思えてならなかったのだったが、それはアリスに限ったことではない。


「フンッ、優しいだけじゃ生きていけないのよ。もっと強かになりなさい」

「はい、ミシェル様…そうして大人になります!」


この時エステルは思った。
このメンバーの中で誰よりも逞しく成長したのはアリスではないかと。
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