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第二部 第二章

第03話 亡国の王太子

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『一万エレクトロン……これ以上はないですね。では……落札、決定ですっ!』
『おぉ~!』

 久方ぶりのオークションは予想以上の盛況ぶりで、ベテランからビギナーまで納得のいく品が多数出品された。通貨は大陸の共通通貨である【エレクトロン】で取引されるため、海外からの参加者も取引しやすくなっている。

『ねぇ、私さっきテクタイト様から直接、ブレスレットを腕につけてもらっちゃった!』
『えぇ~ズルい。たった五千エレクトロン払っただけで、アクセサリーにサービスまでっ。私も、アトランティスモチーフのブレスレットを狙えば良かったなぁ』

 特に、新進気鋭のイケメンジュエリーデザイナーであるテクタイト氏が、自ら出品した古代アトランティスモチーフのアクセサリーは女性を中心に大人気だ。錬金術で作り出したアクセサリーの美しさはもちろんだが、女性達が端正な顔立ちのテクタイト氏のファンであることも窺われる。

「如何ですか、テクタイトさん。社会情勢の影響から、何となくオシャレからは離れていた方も多い昨今ですが。アクセサリーの類が売れるのはやはり好景気の前触れでしょうか」

 残すオークションアイテムはあと一つ、となったところで、壇上に立つテクタイト氏に司会者がコメントを求める。

「アクセサリーでありながらお守りでもあるので、抵抗なく身につけられる品だと思いますよ。今回はお試しで、オークションハウス用に幾つかアトランティスモチーフのアクセサリーを出品しましたが。こんなに好評なら、いずれ物販コーナーで常設しても良さそうです」
「おぉ! コスモオーラなどの錬金アクセサリーが常設されるわけですね。我がオークションハウスの物販コーナーも、一気に華やかになります! 是非」

 どうやら、元からオークションハウスの物販コーナーに出品を検討していた品が幾つかあったらしく、今回の盛況ぶりで本決まりになった様子。隕石衝突事件からオークションハウス機能を閉鎖し、食糧や日用品の取り扱いがメインとなっていたことを踏まえると、贅沢品の部類を常設して取り扱う流れは経済的な前進と言えるだろう。

「ふふっ。これから忙しくなりそうだ。さて、いよいよ最後のアイテムになります。隣国メテオライトの遺産……神殿にて眠っていた【ギベオンのナイフ】です」

 ギベオン……即ち、隕石を切り出してナイフの形状に加工したその品は、メテオライト国神殿の魔術的象徴とも言えるアイテムだ。銀色に鈍く光るナイフは、隕石特有のザラザラとした質感を帯びていて宇宙からの魔力が感じられる。
 また、メテオライト国の王太子には予言に応じて数百年一人は隕石を意味する『ギベオン』の名が与えられるとされており、最後の王太子の名もギベオンであった。


『広告に載っていたギベオンのナイフか。本当に、出品されるなんて……』
『けど、私達みたいな民間人が、あんな高価な者に手を出して平気かしら?』
『博物館とか大物コレクターが狙っているって噂だけど……』

 本来ならば、隣国の国宝であってもおかしくない品が、オークションハウスに出品されている現状に、疑問を抱く者も少なくない。動揺の声がざわざわと客席からも漏れ出していて、なかなか入札が進まない。

「皆さん、入札前に出品者のテクタイトさんから、ご説明があります」
「流石に、突然このような特別な品を落札する勇気のある人もいないでしょう。皆さんが安心してオークションに参加出来るように、僕の方からギベオンのナイフを入手するに至った経緯をお話しさせて頂きます。実は……」


 * * *


 テクタイト氏によると隕石衝突事件以降、無法地帯となったメテオライト国には、家屋や商業施設に放置された高価な品を狙う集団が度々出入りするようになったそうだ。
 美術品や骨董品などの価値のある品を保護するべく、テクタイト氏が所属するジュエリー団体などに回収作業の依頼があったという。

 回収依頼をした団体は世界的な美術品を保護するための組織で、メテオライト国もかつては所属していた団体である。万が一、メテオライト国に何かがあった場合には、遺された美術品などを回収するように、予め契約が結ばれていた。

 ギベオンのナイフを回収した時点では、メテオライト国の住民は殆どが帰らぬ人になってしまったと思われていた。だが、つい最近になってメテオライト国の地下シェルターが発見され、一部の住民達の無事と王族の生存を確認済みだ。
 とはいえ、地上に放置された遺物は契約により既に美術団体に所有権が一度移動しており、オークションハウスを介して国宝レベルの品を保護する能力を持つ新たな持ち主を探すことになったという。


「ここまでお話しすれば、安心してオークションに参加出来るでしょう! では、ギベオンのナイフ……スタートは百万エレクトロンからっ」
「百五十万!」
「百九十万!」
「二百万!」

 材質はギベオン隕石ではあるが国宝級の品だけあって、驚きの百万エレクトロンから開始となった。それでも、歴史的背景や魔術的価値を踏まえれば格段に安いと言える。

「五百万!」
「くっ……ななひゃく、七百万でどうだっ」
「まだまだ、一千万!」
「ならば、うちは二千万だ」

 金額が上がるにつれて次第に一般参加者の数は減っていき、いわゆるプロ、美術館や博物館、名の知れた個人だけが残っていった。

「三千五百万!」
「四千万!」
「下手をすれば国宝だぞ、もっと高くても安いもんだ。五千六百万」
「ははは……では七千万!」

「そろそろ手を挙げる方も減ってきました。七千万以上の方がいなければ、この辺りで……」

 すっかりプロ達の戦場と化したオークション会場だが、おそらく本来の相場よりは安いであろう七千万の額がついたところで、打ち止めの空気が漂う。

 ――その時、これまで沈黙を続けていた男が、凛とした透き通る声で高々に桁を跳ね上げる。

「……一億!」


 思い切った金額、見ようによっては本来の価値に近い金額を提示した男に、一同が注目する。そして、次第に別の意味で驚きの騒めく声が其処彼処であがるようになる。

『えっ……あの人まさか、ギベオン王太子様?』
『生きていらっしゃるという噂だったけど、まさか自らオークションに参加されていたなんて』
『やだっ。写真で見るよりずっとイケメン!』


 メテオライト国の遺産を見事に落札したのは、今では亡国扱いとなっているメテオライト国の王太子『ギベオン・メテオライト』に他ならなかった。
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