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第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜
雨雫の女勇者3:アバターと呼吸を合わせて
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いよいよ始まった女勇者ガチャ限定チュートリアルクエスト。いわゆるバトルテストで、アバターの攻撃数値を割り出すのが目的だ。このクエストの達成度によってケインのジョブも確定してしまうため、より一層緊張が走る。
「へぇ……ここがテストの会場かぁ。見たところ草原っぽいけど、青空に天井があるな……ってことは室内か、ここ」
「そうみたいだね。ほら、冒険者スマホの現在地が訓練場になってる」
一見するとごく普通の草原フィールドのように感じられるが、実は草原に見せかけた訓練場のようだ。冒険者スマホで現在地を確認すると【訓練場・草原モード】と表示されている。
『これより、勇者向けチュートリアルクエストを開始します。フィールド上の敵を指定武器各種で、指定時間内に討伐してください。まずは、雑魚モンスタープルプルを擬態した数値モニターを、五体。指定武器はノーマルソード』
訓練場の室内放送からクエスト概要が説明される。どうやら、敵といっても本物のモンスターと戦うわけではなく、擬態モニターみたいだ。
(自分1人のテストじゃないんだ。頑張らないと!)
強張っているのが伝わったのか、ケインが私の肩を軽くポンッと叩いて緊張をほぐしてくれる。剣道の大会の時も、そうやって励ましてくれていたっけ。
「まぁ気合を入れすぎずに、剣道の稽古くらいの気持ちでやろうぜ。オレもレインの棚ぼた状態に協力することで、勇者になれるように戦うよ。おっ……早速敵が出たぞ」
「指定の武器って、あれっ? いつの間にか、腰に剣が」
「おおっ! つまり、装備は自動で切り替えってことか。来るみたいだぜっ。構えろよっ」
『プルルルル~! 僕たち試験官だよ!』
『プルルルル~。意外と僕たち素早いから油断しちゃダメだよ~』
『プルプルプルルルル~!』
場を盛り上げるためなのか、訓練場内にバトルテーマが流れ始めてチュートリアルクエスト開始! リズミカルなサウンドは、素早い動作が要求される剣にテストにはもってこいだろう。
ボールのように飛び跳ねながら、突進してくる擬態プルプルたちを次々と剣で凪いでいく。
「はあぁあっ! とりゃァァ!」
「行くわよ! はぁ!」
『プル~! 降参だよ~』
ヒュッ! 風を斬る音が鳴り、擬態プルプルたちがポワンっと音を立てて、消えて行った。バトルそのものは、それほど難しくないように設定されているようだが……。
「うっ……重い剣を振り回したせいで、なんだか腕が痛い」
「えっ……? 確かに竹刀とは勝手が違うかも。大丈夫か、無理ならそこまでして女勇者に拘らなくても……」
そう。剣道の竹刀と違い、この武器は重たい鋼で出来た剣だ。女である私には、いささか重すぎる。私の腕の具合を心配してケインが、棄権をやんわりと勧めてきたが首を横に降る。
「大丈夫、まだ頑張れる。もしかすると、次の武器は重くないかも」
「そうか、辛くなったらいつでも言えよ。あれっ? さっきの剣が消えて無くなってる」
あまり合わない武器だったこともあり、鋼製の剣が突然消えてもホッとするだけだった。ケインは器用に使っていたから、ちょっと惜しい気がしているみたいだけど。
『次の敵は、擬態モニターふわふわたぬきです。先ほどのプルプルタイプと異なり、宙に浮かぶモンスターを擬態しています。武器は、飛び道具もしくは軽量のものから3種類選ぶことが可能です』
「よかったな、レイン。次の武器は軽いってさ……なになに、銃、レイピア、弓の中から選んで下さい……か。支給品の投石が一応飛び道具として使えるけど。メイン武器は、どうする?」
支給品である皮の袋の中には、投石が20個ほど入っているが、これで全ての敵を倒すのは不可能だろう。
となるとメイン武器でトドメを刺すことになるが、銃なんてゲーセンでシミュレーションをしたことが数回ある程度だ。レイピアは、剣道というよりフェンシングの武器と言えるし、応用が効くかどうか……。
もう1つの武器は弓だが、弓道経験者ならともかくいきなり弓を使いこなすのは難しい。
「剣道の突きが出来る武器を使いたいから、レイピアにする。銃や弓で当てられるかどうか自信ないし」
「そっか。じゃあ、オレもレイピアで……もう来たのか、第2回戦、いくぞ!」
『ふわふわ~! 攻撃当たるかなぁ』
『ふわわ! 魔法攻撃行くよ』
『たぬたぬたぬー』
ぼん、ぼん、ぼわん!
初級炎系魔法が空中に舞い散り、2人を襲う。2人ともレイピアを選んだことを確認して、攻撃が届かないように距離を作る作戦に出たらしい。
スマホをふと見ると、メッセージが表示されている。
擬態ふわふわたぬきの魔法攻撃! ケインに5のダメージ!
擬態ふわふわたぬきの魔法攻撃! レインに7のダメージ!
どうやら、バトルの様子は客観的にスマホで確認出来るようだ。
「うっなんか、あのたぬきたち可愛いけど案外手強いなっ。しかも真ん中のデカイの……もしかしてアイツがボスか? 魔法がこんなに強力なんて聞いてないぞ」
「本当、私たちも何かしらスキル攻撃が出来ると良いんだけど。冒険者スマホで確認して……」
先ほどの擬態プルプルと異なり、空中戦という慣れないバトルのせいかなかなか思うようにいかない。この世界がスマホRPGを基準として設定されているのであれば、自分たちにも攻撃スキルが備わっているはず。
擬態ふわふわたぬきと距離を取り、もう一度冒険者スマホで画面を確認すると、バトルの詳細が表示されている。自分自身がアバターとして戦っているのに、その一方でスマホゲームのユーザー視点でスキルチェックが出来るのだから不思議なものだ。
ケインが手際よくアバターのデータ画面を探り出して、スキル解放画面を見つけ出した。
「スキル……もしかして、これかな? さすらいの剣士の所持スキル……突き装備の場合は一閃突き、斬装備の場合はさみだれ斬り。今は、レイピアで突き装備だから一閃突きか……。よし、オレが投石であの空飛ぶたぬきの気を引いてるから、隙が出来たらお前がスキル攻撃でトドメだ!」
「えぇっ? トドメの攻撃を私が?」
「ああ。なんたってこのクエストは、女勇者レイン誕生のためのクエストなんだからさ。オレは親戚のお兄さんらしくサポートにまわるよ。ほらっ。早速攻撃が来るぞ」
話し合いの時間を与えないようにしているのか、再びボン、ボンボンと炎の魔法攻撃を仕掛けてくる擬態ふわふわたぬき。スマホ画面越しならこんな雑魚モンスターのことなんか、なんとも思わないはずなのに、リアルな魔法攻撃に動揺が隠せない。
(落ち着いて、動揺しちゃダメ。よく相手の動きを見て……)
すると、スマホ画面のアバター【レイン】から、ユーザーである【レイラ】に向けてメッセージが送信される。
今の自分自身がレインであるはずなのに、こんなことがあるのだろうか?
『勇気を出してレイラ、一緒に女勇者になろう! さぁ……私の動きに合わせて。一歩踏み出して、地面を蹴って……突くっ』
アバターから伝わってくるメッセージに合わせて、私の身体が自由に動くようになってきた。
思考と動きが完全にシンクロする……地球人の少女高凪レイラには出せないような極めて高い身体能力。これは……このチカラは、まさにスマホRPGの勇者そのもの!
「はあぁあああっ! 必殺スキル一閃突きっ!」
ドゥンッッ!
『勝負ありッ! おめでとうございます。職業【女勇者】の権利を獲得しました。つきましては、お2人の転生地は【勇者を育てる山奥の里】になります。準備はよろしいでしょうか……5、4、3……』
「えっ? 転生地ってどういうこと?」
「うっ……意識が遠のいて……」
クエストを達成すると、間髪入れずに不思議な光に包まれて【転生の準備】が始まってしまう。
私たちの魂とアバター体は、此処ではない別のどこかへと転送されて行くのだけは確かだった。
それはまるで、ゲームのデータを送り込むようなスピードで。いつしか自分が本当に異世界人であるかのように錯覚するようになっていった。
自分自身が地球からの転生者であることを思い出すのは、ダーツ魔法学園に転入し……勇者イクトと出会いを果たした頃からである。
「へぇ……ここがテストの会場かぁ。見たところ草原っぽいけど、青空に天井があるな……ってことは室内か、ここ」
「そうみたいだね。ほら、冒険者スマホの現在地が訓練場になってる」
一見するとごく普通の草原フィールドのように感じられるが、実は草原に見せかけた訓練場のようだ。冒険者スマホで現在地を確認すると【訓練場・草原モード】と表示されている。
『これより、勇者向けチュートリアルクエストを開始します。フィールド上の敵を指定武器各種で、指定時間内に討伐してください。まずは、雑魚モンスタープルプルを擬態した数値モニターを、五体。指定武器はノーマルソード』
訓練場の室内放送からクエスト概要が説明される。どうやら、敵といっても本物のモンスターと戦うわけではなく、擬態モニターみたいだ。
(自分1人のテストじゃないんだ。頑張らないと!)
強張っているのが伝わったのか、ケインが私の肩を軽くポンッと叩いて緊張をほぐしてくれる。剣道の大会の時も、そうやって励ましてくれていたっけ。
「まぁ気合を入れすぎずに、剣道の稽古くらいの気持ちでやろうぜ。オレもレインの棚ぼた状態に協力することで、勇者になれるように戦うよ。おっ……早速敵が出たぞ」
「指定の武器って、あれっ? いつの間にか、腰に剣が」
「おおっ! つまり、装備は自動で切り替えってことか。来るみたいだぜっ。構えろよっ」
『プルルルル~! 僕たち試験官だよ!』
『プルルルル~。意外と僕たち素早いから油断しちゃダメだよ~』
『プルプルプルルルル~!』
場を盛り上げるためなのか、訓練場内にバトルテーマが流れ始めてチュートリアルクエスト開始! リズミカルなサウンドは、素早い動作が要求される剣にテストにはもってこいだろう。
ボールのように飛び跳ねながら、突進してくる擬態プルプルたちを次々と剣で凪いでいく。
「はあぁあっ! とりゃァァ!」
「行くわよ! はぁ!」
『プル~! 降参だよ~』
ヒュッ! 風を斬る音が鳴り、擬態プルプルたちがポワンっと音を立てて、消えて行った。バトルそのものは、それほど難しくないように設定されているようだが……。
「うっ……重い剣を振り回したせいで、なんだか腕が痛い」
「えっ……? 確かに竹刀とは勝手が違うかも。大丈夫か、無理ならそこまでして女勇者に拘らなくても……」
そう。剣道の竹刀と違い、この武器は重たい鋼で出来た剣だ。女である私には、いささか重すぎる。私の腕の具合を心配してケインが、棄権をやんわりと勧めてきたが首を横に降る。
「大丈夫、まだ頑張れる。もしかすると、次の武器は重くないかも」
「そうか、辛くなったらいつでも言えよ。あれっ? さっきの剣が消えて無くなってる」
あまり合わない武器だったこともあり、鋼製の剣が突然消えてもホッとするだけだった。ケインは器用に使っていたから、ちょっと惜しい気がしているみたいだけど。
『次の敵は、擬態モニターふわふわたぬきです。先ほどのプルプルタイプと異なり、宙に浮かぶモンスターを擬態しています。武器は、飛び道具もしくは軽量のものから3種類選ぶことが可能です』
「よかったな、レイン。次の武器は軽いってさ……なになに、銃、レイピア、弓の中から選んで下さい……か。支給品の投石が一応飛び道具として使えるけど。メイン武器は、どうする?」
支給品である皮の袋の中には、投石が20個ほど入っているが、これで全ての敵を倒すのは不可能だろう。
となるとメイン武器でトドメを刺すことになるが、銃なんてゲーセンでシミュレーションをしたことが数回ある程度だ。レイピアは、剣道というよりフェンシングの武器と言えるし、応用が効くかどうか……。
もう1つの武器は弓だが、弓道経験者ならともかくいきなり弓を使いこなすのは難しい。
「剣道の突きが出来る武器を使いたいから、レイピアにする。銃や弓で当てられるかどうか自信ないし」
「そっか。じゃあ、オレもレイピアで……もう来たのか、第2回戦、いくぞ!」
『ふわふわ~! 攻撃当たるかなぁ』
『ふわわ! 魔法攻撃行くよ』
『たぬたぬたぬー』
ぼん、ぼん、ぼわん!
初級炎系魔法が空中に舞い散り、2人を襲う。2人ともレイピアを選んだことを確認して、攻撃が届かないように距離を作る作戦に出たらしい。
スマホをふと見ると、メッセージが表示されている。
擬態ふわふわたぬきの魔法攻撃! ケインに5のダメージ!
擬態ふわふわたぬきの魔法攻撃! レインに7のダメージ!
どうやら、バトルの様子は客観的にスマホで確認出来るようだ。
「うっなんか、あのたぬきたち可愛いけど案外手強いなっ。しかも真ん中のデカイの……もしかしてアイツがボスか? 魔法がこんなに強力なんて聞いてないぞ」
「本当、私たちも何かしらスキル攻撃が出来ると良いんだけど。冒険者スマホで確認して……」
先ほどの擬態プルプルと異なり、空中戦という慣れないバトルのせいかなかなか思うようにいかない。この世界がスマホRPGを基準として設定されているのであれば、自分たちにも攻撃スキルが備わっているはず。
擬態ふわふわたぬきと距離を取り、もう一度冒険者スマホで画面を確認すると、バトルの詳細が表示されている。自分自身がアバターとして戦っているのに、その一方でスマホゲームのユーザー視点でスキルチェックが出来るのだから不思議なものだ。
ケインが手際よくアバターのデータ画面を探り出して、スキル解放画面を見つけ出した。
「スキル……もしかして、これかな? さすらいの剣士の所持スキル……突き装備の場合は一閃突き、斬装備の場合はさみだれ斬り。今は、レイピアで突き装備だから一閃突きか……。よし、オレが投石であの空飛ぶたぬきの気を引いてるから、隙が出来たらお前がスキル攻撃でトドメだ!」
「えぇっ? トドメの攻撃を私が?」
「ああ。なんたってこのクエストは、女勇者レイン誕生のためのクエストなんだからさ。オレは親戚のお兄さんらしくサポートにまわるよ。ほらっ。早速攻撃が来るぞ」
話し合いの時間を与えないようにしているのか、再びボン、ボンボンと炎の魔法攻撃を仕掛けてくる擬態ふわふわたぬき。スマホ画面越しならこんな雑魚モンスターのことなんか、なんとも思わないはずなのに、リアルな魔法攻撃に動揺が隠せない。
(落ち着いて、動揺しちゃダメ。よく相手の動きを見て……)
すると、スマホ画面のアバター【レイン】から、ユーザーである【レイラ】に向けてメッセージが送信される。
今の自分自身がレインであるはずなのに、こんなことがあるのだろうか?
『勇気を出してレイラ、一緒に女勇者になろう! さぁ……私の動きに合わせて。一歩踏み出して、地面を蹴って……突くっ』
アバターから伝わってくるメッセージに合わせて、私の身体が自由に動くようになってきた。
思考と動きが完全にシンクロする……地球人の少女高凪レイラには出せないような極めて高い身体能力。これは……このチカラは、まさにスマホRPGの勇者そのもの!
「はあぁあああっ! 必殺スキル一閃突きっ!」
ドゥンッッ!
『勝負ありッ! おめでとうございます。職業【女勇者】の権利を獲得しました。つきましては、お2人の転生地は【勇者を育てる山奥の里】になります。準備はよろしいでしょうか……5、4、3……』
「えっ? 転生地ってどういうこと?」
「うっ……意識が遠のいて……」
クエストを達成すると、間髪入れずに不思議な光に包まれて【転生の準備】が始まってしまう。
私たちの魂とアバター体は、此処ではない別のどこかへと転送されて行くのだけは確かだった。
それはまるで、ゲームのデータを送り込むようなスピードで。いつしか自分が本当に異世界人であるかのように錯覚するようになっていった。
自分自身が地球からの転生者であることを思い出すのは、ダーツ魔法学園に転入し……勇者イクトと出会いを果たした頃からである。
応援ありがとうございます!
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