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第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜

臨海デート・聖女編3:恋心は桜貝の色

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 ついに始まった臨海学校、夏休みの間は海辺での魔法訓練や臨海地域の施設などで勉強をする。
 臨海学校と並行して、デートクエストを行い封鎖されたデートスポットが安全であることを確認するのが、今回の仕事だ。

「はぁ……そろそろ臨海学校の宿泊施設に到着するな。ミンティアは、泊まる場所も他の生徒とは別なんだっけ」
「うん。仕事がスムーズにいくように、向こうのホテルを使うんだ。初日の授業に出られなくて寂しいけど、これも家の仕事を守るためだしね。16時にはデート出来るから、港のカフェテリアで待ち合わせしよう!」
「分かった。16時にカフェテリアで……」

 臨海学校行きのバスを終点の1つ手前で途中下車して、ミンティアは先に高級ホテルの集まる地域で降りてしまった。白いワンピースの後ろ姿を見送り、切ない気持ちになる。

 第1週目のデートクエストの相手であるミンティアは新社長に就任した関係で、ほとんど授業には出られないらしい。お互い時間が空く夕刻を利用して、海岸沿いのデートスポットを巡るデートプランに落ち着いた。

「では、今日から宿泊する部屋にそれぞれの荷物を置いたら、海岸に集合です! 初日は、海岸ならではの採取について学びます」

(昼間はデートの相手であるミンティアと会えなくて、予想外の展開だけど。楽しませてあげられるように、プランをうまく練ろう)

 臨海学校専用のバスを降りて、宿泊する施設の部屋に荷物を置く。部屋は4畳ほどで小さめだが、ベッド、デスク、簡易型のミラーと必要最低限の家具は揃えられている。

 水着に着替えながら、姿見タイプの簡易型ミラーが気になって、自分の容姿を映す。斜め前髪の栗色ヘア、アバターならではのグリーンがかった大きな瞳、身長172センチほどの細身の体型は、地球の自分と比較的近しい。

(ミンティアへのプレゼントは、手鏡や十字架はNGなんだっけ? 吸血鬼疑惑がかけられた一族出身だからって、そこまで避けなくてもなぁ)

 オレの記憶が確かなら、聖女ミンティアはよくコンパクトタイプの鏡で自分の容姿を確認していたし、教会にも度々訪問していたから十字架だって平気なはずだ。
 むしろ、そこまでそれらのアイテムを避ける理由とは何だろう? それとも、ミンティアはオレが知らないだけで変わってしまったのだろうか。

 釈然としない気持ちがあるものの、取り敢えずは講義を受けなくてはいけない。時間に遅れないように、部屋を出て海岸へと向かう。


 * * *


 最初の授業は、魔法アイテムの手作り講座だという。場所は、今日ミンティアとデートをする予定の海岸エリアだ。午前中は素材になりそうな物を採取して、午後にそれらを使った魔法アイテムの製作を行う。

「よぉイクト! 今日から臨海学校だな。頑張ろうぜっ」
「イクトさん! おはようございます。あら、ミンティアさんはご一緒じゃないんですか? 第1週目のデートクエストの相手はミンティアさんだったような……」

 オレが受ける予定の魔法アイテム講義を受講するらしい、エルフ剣士アズサと賢者マリアに声をかけられる。

 アズサはウェーブがかった金髪をエルフ耳の下あたりでツインテールに結び、フリル付きの白と紺色のツートンビキニ。マリアは普段はおろしている髪をポニーテールに結び、水色のビキニはFカップのグラマラスなボディを際立たせていた。
 セクシーな2人に思わず女アレルギー持ちのオレとしては、ドキリとしつつも身構えてしまう。だが、両者ともに薄手のパーカーで肌の露出は多少なりとも抑えられており、セーフと言えるだろう。

「アズサ、マリア、おはよう。実は、ミンティア……新社長に就任した関係で、ほとんど今回の臨海学校には出られないんだってさ。その代わり、夕刻以降にデートをすることになったんだ」

 簡単に、この場にミンティアがいない理由を2人に話す。

「そういう事情だったんですか、ミンティアさんも頑張りますね。そうだ! 1日目の講義は魔法アイテム作りなんですけど、ミンティアさんにプレゼントを作ってみては?」
「一緒に勉強出来ないぶん、サプライズを提供すると喜ぶかも知れないぜっ」

 確か、ミンティアのパーソナルデータにも手作りのアクセサリーなどをプレゼントして、親密度を上げるのが良いとアドバイスがあったな。レア度の高いアイテムを製作するのは無理かもしれないが、心がこもっていていいだろう。

「海岸で集められる素材なら、綺麗な貝殻を使ったアクセサリーが作れるのか。ありがとう、2人とも。良いヒントになったよ」

 いよいよ始まった採取作業は、海岸のモンスターに気をつけながら砂浜に散らばるお宝を探す作業だ。日差しが強くなる時間帯だが、みんな麦わら帽子やサングラスを装備して紫外線対策もバッチリだ。

 寄せては返す小さな波にちょっぴり足をつけながら歩くのは、授業中であることを忘れてしまいそうなくらい気持ち良い。チャプチャプとした海水が、程よい冷たさを与えてくれる。

(こういう自然の中で過ごす授業は、本当ならミンティア大好きだったはず。せめて、綺麗なものを贈ってあげて……)

 小さな巻貝は、ペンダントの素材にも使えるだろう。まあるい形の白い貝殻もアクセサリーにはちょうど良い大きさである。

 ミンティアに似合いそうな貝殻を小瓶に少しずつ集めていくうちに、キラリと光る天然石のような輝きを見つける。

「これは……なんだろう? 淡いピンク色で透明がかっていて。これも貝殻の一種なのか?」

 すると、一緒に貝殻集めを行なっていたマリアがピンク色の貝殻について、説明してくれた。

「ああ、それは【桜貝】って言うんです。ほんのり透けたピンク色で、女性の間で人気の貝殻なんです。ペンダントにしたりストラップにしたり、用途も幅広いですよ」
「へぇ! こんな綺麗な貝殻があるなんて、浜辺は凄いな。よし、この桜貝をメインに何かアイテムを製作しよう!」

 午前中の採取作業が無事に終わり、臨海学校で初の昼食タイム。海の家で好きなご飯を注文して食べるため、メニューは豊富だ。
 アズサ、マリアと一緒に3人で、海辺のご飯を頂くことに。本来ならば、この場にミンティアも加わっていたのだろう。

 オレはシラスがたっぷりのどんぶりセット、アズサはシーフードカレーセット、マリアはスパムと卵の南国丼セットだ。

「んー海の景色を眺めながら食べるご飯は美味しいですね!」
「日差しも屋根のお陰で避けられるし、エルフ族のあたしでも楽しめて嬉しいよ」
「過ごしやすいし海の家から見られる景色も含めて、浜辺のご飯って感じだな」

 冒険の時は、ギルドメンバーでワイワイ食事をしていたため、それほど女の子たちと食事をしても意識しなかったが。今回は、夕刻以降にデートする予定のミンティアのことが気になってしまい、心の中で謝る。

(ごめん、ミンティア! でも、なんとか埋め合わせするからな)

 それとも、こうやって少しずつデートクエストというものに慣れていくのだろうか。
 スマホを確認すると、何ポイントかアズサとマリアとの親密度が上がっていた。ククリが他の女の子たちの好感度が上がる可能性があると説明していたが、今回の攻略ルートの本質というか業の深さを感じざるを得ない。

 その後は、水着から私服に着替えて室内の教室で魔法アイテム作りの実習授業だ。
 ピンク色の女の子らしい桜貝は穴を小さく開けて加工し、魔法アクセサリー用素材で出来たブラウンカラーの紐を通してペンダントに。巻貝タイプや丸く白い貝殻はストラップやチャームに加工。

「では、仕上げに魔法エネルギーの儀式を行います。テキスト10ページの精霊の詠唱の中から、欲しいスキルを選んで下さい」

 魔法スキルが特別得意というわけではないが、なんとか詠唱を成功させて魔法アイテムとして認定される。白い箱にペンダントを収めて、ミンティアへのプレゼントが完成。午後の授業が終わるとすでに時刻は、15時半。

「えっ……約束の時間まであと30分しかない。結構、スケジュールギリギリだったな。急がないと!」

 
 臨海学校の校舎を慌てて飛び出し、路地を抜けて海岸のカフェテリアへと急ぐ。テラス席には、ミントカラーの髪に白いワンピースの美しい少女の姿。

「あっ……イクト君! こっちだよ」
「……ミンティア! お待たせっ。実は、渡したいものがあるんだけど……これ、授業で作ったもので……」
「えっ? なになに……わぁ可愛い! 桜貝のペンダントだね。イクト君が作ったんだ。私にくれるの? うふふ、早速つけてみても良い?」

 彼女の胸元を飾るのに相応しいピンク色の桜貝は、恋心を現しているようで。

 オレとミンティアのデートが、淡い恋の色で始まりを告げた。
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