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第五部 学園ギルド編
第五部 第5話 パーティー結成
しおりを挟む「アズサ、マリア! 久しぶり……そっか、そういえば2人とも教会系のギルドに所属しているって言っていたもんな。研修期間中全く合わなかったから、ランク違いか何かなのかと思ってたよ」
9月から研修のため地元限定で簡単なクエストをこなしていたが、ギルド内で2人の姿を見かけることはなかった。てっきり、先にギルド入りしている2人はすでにランクが高いクエストに出ているのかと思っていたのだが……。
もしかしたら、クエストに出発する時間帯が被らなくて、出会わなかっただけかもしれないが。
「いえ、私たちは勇者コースと違ってフリーの冒険者として登録しているんで。ランク制限のあるクエストを受けるほどは、まだ活動していないんですよ」
「そうそう、エルフコースに来る依頼ってお使いクエストの少し難しいやつくらいだからさ。けど、今回のクエストは訳が違う。怪我人の数から見て分かる通り、この辺りって結構モンスターが強いだろう? 2人組じゃこのくらいが限界かなって……。これでも、エルフコースじゃアタシが1番攻撃に向いてるって言われているんだけどさ」
やはり、モンスターのランクが高いことも足止めの原因となっているようだ。攻守のバランスが取れていれば、2人組でもこなせるクエストらしいが。
「そっか……オレより早くギルドデビューしている2人でも、クエストの限界を感じているのか。じゃあ、よけいオレとアイラの2人だけじゃ厳しそうだな」
「回復役の白魔法使いのマリアさんがいても、厳しいなんてね……」
まさかの1回目クエストからリタイア……という不吉な考えが頭をよぎった瞬間、アズサの方からオレたちに提案をしてきた。
「なぁイクト、もし良ければあたし達と組んでクエストに行かないか? アタシとマリアだけじゃ、この辺のモンスター相手に手こずってさ」
「エースランクのチーム以外は殆どが3人組以上の人数で組んでいますし。それに、同じ学校の生徒だけじゃなく他校生の姿もあるし……。何となく、誘いやすい人が限られちゃって……」
コテージ内は学園ギルドに所属している生徒達の姿がチラホラ見られて、異世界に来たことを一瞬忘れさせられる。
時折、ライバル校的な存在のアロー魔法剣士学校の生徒を見かけるが、やはりうちの生徒の方が数が多い。
このコテージは、ダーツ魔法学校が異世界クエスト攻略の為に建てたものだから、当然なのだろう。
アズサ達は同じ学校の上級生、普段も会う可能性もあるのだが、聖女ミンティアがパートナーになってからは、不思議と一緒に行動する機会が減っていた。
「ねえ、お兄ちゃん。アズサさん達と一緒なら、結構バランスの良いパーティーになるんじゃないの」
妹アイラの言葉に、バトル的な構成をふと考える。
勇者であるオレ、格闘家妹アイラ、エルフ剣士アズサ、白魔法使いマリア。まるで、旅立つ勇者の初期メンバーのような職業構成だ。
「確かに、回復役も足りないし、剣士がいた方が前衛が硬くなっていいよな。それに、アズサやマリアはオレより1年早くギルドクエストに参加しているわけだし……レベルだってきっとオレたちより上だよな。頼る場面が多くなっちゃいそうだけど」
「ふふっ。エルフコースや白魔法使いコースは、バトル向きじゃない生徒が多いからこれでも結構上位者扱いなんだぜ」
「へぇさすがアズサさん! エルフで剣士って、うちの学校じゃ数が少ないものね」
エルフという保守的な種族でありながら、斬れ味の良い太刀筋の持ち主という噂でアズサは、学園でもそれなりに有名である。
いわば、エルフコース期待のルーキーといったところだろうか。
「アタシ達もこの1年間、ギルドクエストを通してスキルを上げていたんだけどなぁ。まぁ、ギルドクエストって言っても勇者のメンバーとして活動している訳じゃないし、クエストに制限があったから……」
「何て言うか、白魔法使いとかエルフ剣士ってだけで、受けられるクエストが限られていて。傭兵的なものとかおつかいクエスト的なものとかがメインでしたね。けど、基本的なスキルを上げるのって大切だって実感出来ましたよ」
いわゆる勇者付きのギルドパーティーというのは、魔獣討伐を最終目標として組むのが前提となっているためクエスト内容がハードだという噂だ。と言っても、オレ自身が勇者という職業であるため今後はそういうクエストが増えるのだろう。
まぁ本格的な魔獣討伐クエストは卒業後のプロ勇者になってからなので、まだ先の話だが。
一方、マリアのような白魔法使いは医療機関の手伝いがメイン、アズサのような剣士は傭兵的なバトルの助っ人業務がメインだ。
その2人が組むクエスト内容は、そのどちらかに重点を置いたものが多いのだろう。
「いいのか……? 勇者と組むと、将来的に重い任務とかあるかもしれないけど。例えば魔獣討伐とか……命懸けになるし、人の役に立つクエストは他にもたくさんあるし……」
嬉しい誘いだが、近い将来……とても危険なクエストに赴く可能性の高い勇者という職業。本来危険を侵さなくても良いアズサたちまで、万が一の可能性が及ぶと考えると遠慮が生まれる。
「いいんだよ。この学校にイクトが転校したての頃に約束しただろう? 今回こそアタシがエルフ剣技でイクトを助けるってさ」
「アズサ……ありがとう。その約束、覚えていてくれたんだ」
どちらかというとオレとアイラだけじゃパワー系のパーティーだ。マリアという回復役がいる分、アイラと2人で行動するよりは、だいぶ楽だろう。
「じゃあ、今回のクエストはこのメンバーで……。先に、ミンティアに知らせてこないと……」
急患の人達を治療する為の部屋で回復を手伝っているミンティアに、クエストについて伝えに向かう。すると、そこにはベッドに横たわって休むミンティアの姿があった。
ぐったりとした様子のミンティアの元へ駆けつける。
「えっ……ミンティア! 大丈夫か? すごい熱だ……具合が悪いなら言ってくれればいいのに」
ミンティアの白い手を握ってやると、弱々しくミンティアがオレの手を握り返す。いつに間にか熱が高く、顔色が悪い。
「……イクト君……ごめんなさい。ちょっと魔法力が切れたみたい……私、魔力が切れるといつもこうなの。何でだろうね?」
よく考えてみれば、クエストに出る時からミンティアはフラフラとして転んでいたし……あれは体調不良だったのか? どうして気がつかなかったんだろう……。
「キミ、この子のパートナー勇者君? どうやらこの子は、ずっと聖女の回復魔法を発動させ続けていたようで。慣れない異世界転移で、限界が来たみたいね」
「えっ……治すにはどうしたらいいんですか? 薬とかは……」
「今回の初期クエスト報酬の聖なる薬草は、聖女の特別な魔力を回復することができるの。持ってきてくれればここで薬にして、煎じて飲ませてあげられるわよ。ただし、報酬以外にプラスで納品しないといけないから……通常のクエストより少し難しい禁足地に足を踏み入れることになるけれど……」
コテージの女医さん曰く、ミンティアの体調不良は魔力の使いすぎとのこと。しかも、クエストの目標である特別な薬草で回復する事が出来るようだ。
「じゃあ余計、今回のクエスト頑張らないとな! 」
「ミンティアさんの為にも、このクエスト成功させましょう」
相変わらず、強気な表情で頼もしいアズサと優しく微笑むマリア。前世での旅仲間、こんなにも頼もしいとは……過去からの縁に感謝である。
コテージ受付で改めて、今回のクエストのメンバー編成を登録する。禁足地はランク制限がかけられているエリアだが、学年が1つ上のアズサとマリアがいることや4人組構成のパーティーとなったため許可がおりた。
以下、マリアとアズサが加わったオレたちのステータスデータ。
【メンバー:1】
勇者イクト 職業:学園勇者(ランク星3)
レベル:10
HP:980
MP:40
攻撃武器種:棍・剣・槍
装備武器:冒険者の棍
装備防具:勇者コースのマント・ダーツ魔法学園防具セット・初心者ブーツ
装飾品:携帯用バッグ・呪いよけのペンダント
呪文:回復魔法小、攻撃魔法初級
【メンバー:2】
白魔法使いマリア 職業:学園白魔法使い
レベル:15
HP:960
MP:100
攻撃武器種:杖・鞭
装備武器:回復の杖
装備防具:初心者白魔法ローブ・学園ギルドシューズ
装飾品:琥珀の髪飾り
呪文:回復魔法(中)、補助系魔法
【メンバー:3】
エルフ剣士アズサ 職業:学園剣士(サブ職業:調合士)
レベル:15
HP:970
MP:50
攻撃武器種:剣・弓・短剣
装備武器:駆け出しロングソード
装備防具:学園エルフの胸当て・冒険者用ショートパンツ・学園ギルドシューズ
装飾品:天然石のペンダント
特技:エルフ剣技、調合で回復可能
【メンバー:4】
格闘家アイラ 職業:学園格闘家
レベル:8
HP:750
MP:35
攻撃武器種:ナックル・飛び道具
装備武器:初心者ナックル
装備防具:ダーツ魔法学園女子用チュニック・冒険者ショートパンツ女子用・冒険者シューズ
装飾品:キュートシュシュ
特技:攻撃スキル初級
【備考】
一足早くギルドデビューを果たしていたマリアとアズサが加わり、レベルもバランスもアップしたパーティー。
攻撃役が3人に増えたため、一気に攻撃力は安定したと言える。念のため攻撃役のうち1人を後方に入れて、体力の温存をはかるのが賢い戦略。
回復専門役がマリア1人になってしまうので、MPの温存を心がけると良い。いざとなったら、アズサの調合やイクトの回復魔法も使えるがバトル時には使用せずに、バトル終了後に使うことをオススメする。
最終的にはミンティアも加えた5人体制のパーティーを基本とし、ギルド待機のサポート役も増やすといいだろう。
* * *
「では、チームイクトに禁足地への入山許可を……お気をつけて!」
こうしてオレはかつての旅仲間達とパーティーを結成し、ミンティアを救うべく禁足地へと向かう事になった。
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