婚約者候補を見定めていたら予定外の大物が釣れてしまった…

矢野りと

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18.その後は…

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あれから順調に婚約期間を過ごしている。

王子妃教育という名の奴隷教育?も必死に頑張っていると、なぜか教師陣から『もういいです…、来ないでください!』という王子妃教育終了のお墨付きを早々に貰うことができた。

『えっ!もう終わりですか?
数年掛かると聞いていましたが…』

『エミリア様は手遅れ…、い、いいえ、そのままでよろしいかと思います。
なんと申しますか…、手に負えなっ、いいえ!言い間違えました!
もうすでに完成された器、完璧な王子妃です!!
ですからもう来てくださらなくて大丈夫でございます!!』

何故か涙目になって教師達が叫んでいる。

なんだか無事終了というよりは追い出されるような気がする。

ただの勘違いだろうか。

 むむむっ…。
 なぜにそんなに必死になっているの…。
 なぜに無事終了って感じが全くしない?
 
 誰かがなにかしたのかしら?
 一体誰が…。


疑問を抱えたまま盛大な拍手と別れを惜しむ涙?と最後には万歳三唱までされて王子妃教育は終了となった。

…なんか変。



あまりにも早かったので裏でトナが手を回したのではないかと疑ってしまった。

「ねえ、トナ。王子妃教育が終わるのがいくらなんでも早すぎるんじゃないかしら?
いくら後継者でない第三王子の妃とはいえ普通なら数年掛かるものでしょう?
もしかしてトナが裏で何かやったの?
ちょっと毒を盛ったとか、偶然を装って馬車で轢いちゃったとか」

常々私と会う時間が足りないと嘆いているトナならやりそうだ。

「はっはっは、俺は何にもしてねーよ。
というか三日後にやろうと思っていたけどその必要がなくなったな。
ったく俺を疑うより一番やらかしているやつがいるだろうがっ」

「……えーっと、お祖父様?」

トナでないならば祖父しか思いつかなかった。

「クックック、あの狸爺じゃねぇな。まあ分からないならいい。
それよりも流石エミリアだ、と優秀だったようだな。早くたっていいじゃねーか、教育終了のお墨付きを貰ったんだから。
誰にも文句は言わせねぇ。なにかほざく馬鹿がいたらきっちり沈めてやるから大丈夫だ」


トナの発言にちょっと引っ掛かることもあるが、まあ王子様がそう言うのなら終了で問題はないのだろう。
昔の人も『終わりよければ全てよし』と言っているから良しとする。
それにトナが褒めてくれたから気分はいい。


 うふふ、優秀なんて、照れちゃうわ。
 いつも通りにしていただけなんだけどな。
 いったいなにが良かったのかな?
 うーん、全然分からない。
 まあ、いいかっ♪ 



とにかく教育は終わったしこれからはもっとトナと一緒にいる時間も取れる。

それからは婚約者であるトナと愛を育む毎日を過ごす。
お茶会や夜会への参加の回数は増えて面倒だったけど、それもトナと一緒なら面倒よりも嬉しさのほうが勝る。
うるさい外野はどこにでもいるけど、別に困ることはないから放っておけばいいだけのこと。




そして最近私は絶賛ギャップ萌えにハマっていてキュンキュンしている。

トナは私の前では乱暴な口調で俺様の素のままだけど、人前では物腰が柔らかく丁寧な口調の第三王子を見事に演じている。

私限定の俺様なトナに正真正銘の王子様なアトナ殿下。

『ワイルドとマイルド』
似ているけど全くちがーう!

このギャップがたまらなく良い。
この差を私だけが知っているのもたまらない。



そんな事を考えていたらお茶会中なのによだれが出てしまった。

ジュルルっ…。


誰かに見られていたら大変と周りを確認していると暇な令嬢達うるさい外野に囲まれてしまった。
今日はトナが隣にいないので言いたい放題言ってくる。
面倒なので伏し目がちの儚げ令嬢のフリをして乗り切ることにする。

 う…ん、面倒くさいな。
 これ最後まで聞くべき?
 それで私に得はあるのかな…。
 そもそもこれって誰得になるのかしら?

キャンキャンと吠えている令嬢達は何の為にこんなことをしているのか不思議だなと思いながら聞き流しているとトナが颯爽と現れ、暇な令嬢達を追い払ってくれる。

『どうしたの?囲まれて困っていたようだが…』

人前だからトナは王子様のバージョンで聞いてくる。


ドキンッ!!

久しぶりの王子様バージョンに胸が高鳴る。
 

いつもワイルドな素顔を見せてくるトナが、私に対して王子様バージョンを見せてくれるのは貴重だ。
思わず私もそれに合わせ儚げ令嬢で応えてみる。

どうしてってそのほうが絶対に場が盛り上がるから。
いつもと違う二人ってなんか非日常って感じがしてこれもなかなかだ。


 誰得って、私得だった♫
 ありがとう、さっきの令嬢達!
 貴女達のお陰です!!


心の中でさっきの令嬢達にお礼を言っているとトナが私をお茶会から連れ出しもう一度訊ねてくる。


「エミリア、本当に大丈夫だったか?あいつらに何を言われたんだ?」

「……うーん、何かしら?キャンキャンって言っていた気がする?」


首を傾げながらそう言うとトナは『庇うなんてエミリアは本当に優しいな』と言いながら私の頬にそっと口付けを落としてくる。
顔を真っ赤にしてワタワタしているとトナが何かを呟いている。

『……彼奴等は…さん』 

よく聞こえなくてもう一度言ってもらおうとしたら今度は唇を塞がれそれどころではなくなった。

甘い口づけに酔ってしまい自分が何を聞こうとしていたのかすぐに忘れてしまう。

なんだか最近こんなことが多い気もする。
その度に怒っているふりをするをするけど、本当は…嫌じゃない。
というかもっとして欲しいくらいだ。

『そろそろまた私から襲ってもいいかな』と考えていることはトナには内緒だ。
 




私は第三王子であるアトナ殿下の婚約者として大変な毎日が待っていると覚悟していたけれども、拍子抜けするくらい普通の日々を送っている。

彼の役に立っていないのが心配でこれでいいのかなと相談したこともあったけど『もう十分して貰っている』と笑いながら抱き締められた。

お互いのぬくもりで心まで暖かくなる。
私達だけの特別で平凡な幸せがここにある。


だけど私は知っている。
彼の壮絶な過去とそれが今も続いていることも。
そしてその心についた深い傷がまだ血を流し続けていることも。
転寝しているトナは時々うなされている。
幼子に戻って助けを求めている。

彼の肉親である王族は彼を助けない。
夢の中でも現実でも。


でも今は私がいる。

王族を敵にしても私だけはあなたの味方でいる。

どうしてって答えは簡単だ。

愛しているから、それだけだ。
だから絶対に守ってみせる。



ただの第三王子と普通の子爵令嬢。
噂にもならない平凡以下の組み合わせと馬鹿にするものもいる。

でもそんなことは関係ない。
気にもならない。

大切なのは私達にとっての真実。
それを知っているのは私とトナだけでもいい。

私達ならこの先何があっても幸せを築いていける、不幸なんて笑いながら蹴飛ばしていく。
ついでに陛下もいつか蹴り飛ばしてみようと心の中で固く誓う。


私は彼の手を離さないし、トナも私の手を離さない。最高の幸せと最強の絆を手に入れている私達は負ける気がしない。






(完)



**********************

これにて完結です。
最後まで読んでいただき有り難うございました♪






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