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25.踏み出す勇気①

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姉なのに妹の笑顔を喜ぶことができない。
小さな…、とても小さな黒いなにかが胸の奥でざわつくのを感じる。

妹は悪くない、そんな事は分かっている。

 あの子はただ秘かに思っていただけ。
 あんなことがなかったら一生隠し通していたわ、絶対に…。

それを疑うことはない。 

でも同時にあの子が私の婚約者に恋をしていなかったら魔術はここまで強くは掛からなかったはず…と思ってしまう。
 

悪いのは自己保身に走った者達だ。

それなのに脳裏にくだらないことがよぎる。
『もしもルーシーのがなかったら…』どうなっていたのだろうと。

今更考えても意味のないことなのに。

妹が愛する人を奪うために仕組んだわけではないと頭では分かっていても、妹を突き放したくなってしまう。
傷つけたくないはずのに…。

 どうしてこんなことを考えるのっ。
 あの子のせいじゃない。
 あの子が私の婚約解消を望んだわけじゃないわ。

 本当に……?
 まさか心の中ではずっと望んで…いた?
 いいえ、そんな子じゃない!
 でもあの子はずっとガイアのことを想っていたわ。
 ……それが事実よ。


慌てて『ちがう』と否定をする。
……ではいったい何が違うのか。


人の心の中なんて誰にも分からない。


私とガイアが一緒にお茶を飲んでいた時、あの子はいつも彼から離れたところに座っていた。自分から話すことはなく、ただ私達の会話に耳を傾けていた。
『ルーシー、学園ではもう親しい友人はできたかい?』
『………』
困った表情をして何も言わないままのルーシー。
ガイアは気にする様子もなく、答えを待たずに優しく話し掛ける。
『まあ焦って作る必要もないさ。君にはこんなに素敵な姉がいるのだから』
『はい、私も…そう思ってます』
そう言いながらルーシーはとても嬉しそうに笑っていた。


私はあの時も、妹の笑顔の裏にあった『秘めたる想い』に全く気づかなかった。

ではそれ以外に気づかなかったことはないと言い切れるのか…。

 …………。

胸の奥に芽生えた黒いものがまたざわつく。


私も自分勝手なのかもしれない。
巻き込まれた妹を傷つけてでも元に戻りたいと願っている醜い自分がいる。
そしてそんな自分からは目を背けようとしている。


正解がないなんてあんまりにも残酷だ。
心がぐちゃぐちゃで整理できない。

私もいざという時は誰かを踏みつけてでも自分を優先するのだろうか。
自己保身しか考えなかったあの人達と同じなのだろうか。

 違う、同じなんかじゃないわ。
 私は、私は……。
 ルーシーを踏みつけたりし……。

その後に続く言葉がすぐには出てこない、まるで心が2つに分かれてしまったようだ。


そんな私に救いの手を差し出してくれたのはやはりルカ様だった。
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