私は大切にされていますか~花嫁修業で知る理想と現実~

矢野りと

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20.親切な忠告①

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あれよあれよいう間に商談の時間になり、私は今、トムと一緒にカローア商会代表リチャード・ドエインの前に座っている。

今日は本格的な商談というよりはお互いに商品の売り込みと取引をした場合のメリットとアピールする場だったので、和やかな雰囲気のなか話が進んでいた。トムはさすが古参従業員という貫録を見せていたが、それより驚いたのは若いドエイン氏の対応だった。人懐っこい笑顔を保ちながらもトム相手に一歩も引かず、最後にはトムが納得してしまうように上手に話しを運んでいくのだ。

商談が終わった後は、トムが嬉しそうに白旗を上げていた。

「いやいや、ドエイン氏には参りました。こんな気持ちが良くて悔しい商談は久しぶりでしたよ」
「いいえ、こちらこそ良い時間を持たせてもらい有り難うございました。今後はぜひ良きお付き合いを出来ることを期待しています」

二人は商談を通して気が合ったようで、別れの挨拶もにこやかにしている。

「そういえばそろそろお昼の時間ですね。良かったらご一緒にどうですか、近くで美味しい料理を出すお店があるんですよ」
「いいですね。是非!」

トムからの誘いをドエイン氏は快諾し、私も含め三人で昼食を食べようと商会の建物を出たところで一人の若い従業員が慌てた様子で走ってきた。

「トムさん、待ってください!ちょっと聞きたい事が…」

何か急ぎの案件で若手が判断できないようなことがあったようだ、トムは一通り話を聞くと申し訳なさそうな顔でドエイン氏に謝ってきた。

「すみません、ちょっとトラブルがありまして。昼食は二人で言ってもらっていいですか?」
「ええ私は構いませんが、カリナさんが大丈夫でしたら」
「私もドエイン氏が構わないのなら大丈夫ですよ」

私とドエイン氏の返事を聞くと、トムは『接待よろしくお願いしますね、カリナ様』と私の耳元で囁きながらお財布を渡してきた。私は慌てて返そうとしたけど、そんな間もなくトムはドエイン氏に平謝りしながら建物の中へと慌ただしく戻っていった。


「ではカリナさん、案内をお願いしてもいいですか」
「はい、美味しいお店なので期待してくださいね」

そうして二人で昼食を食べに行く事になった。歩きながらドエイン氏は『堅苦しいのは嫌いなので、私のことはリチャードと呼んでください』と気さくに言ってくれた。私は最初、商会の代表にそんな呼び方はちょっと言っていたが、最終的にはリチャードさんと呼ばせてもらう事で落ち着いた。

私とリチャードさんは昼食を食べながら、様々な事を話し盛り上がっていた。彼は隣国出身で子供の頃にこちらに留学をした後、母国に帰らずにこちらで働いていて最近商会を立ち上げ今に至るようだ。

「リチャードさんは努力家なんですね。でも母国にいるご家族は淋しがっていませんか?」
「そうですね、私の両親は離縁後それぞれ再婚をしているので大丈夫だと思いますよ。特に父は数年前に再婚をして二年前には異母弟も生まれたのでまだまだ頑張るぞと若返っているみたいですし」
「あっ、私ったら踏み込んだことを聞いて失礼しました」

私は何気なしに聞いたことが失礼なことだったと気づき慌てて謝罪したが、リチャードさんは『全然大丈夫ですから』と屈託なく笑ってくれた。
そして彼は自分の生い立ちを話し始めた。

「私は隣国のドエイン商会が実家なんですよ。色々とあり両親が離縁した後にこちらに留学をしました。母は今伯爵夫人として幸せに暮らしていますし、父も気の強いしっかりした年下の女性と再婚し今は尻に敷かれながら幸せそうです」
「ご実家の商会は継がないんですか?」
「ええ、私はこちらの空気が合っているし、異母弟が生まれたので有り難いことに自由にさせて貰っています。私の伝手は実家のドエイン商会と母の実家のカローア子爵家と母の再婚先の伯爵家なんですよ。恵まれたお坊ちゃんでしょう」

リチャードさんは『立派な働きをしてと言えないのがお恥ずかしいことですが』と頭を掻いている。

「ああ、だからカローア商会なんですね」
「はい、ドエイン商会同士で取引するとややこしいので母の実家のカローアの名を借りています」

さらりとリチャードさんは話しているが、彼にも色々と事情があったことが察せられる内容だった。

---今のリチャードさんは様々なことを乗り越えてきたのね。伝手はあるようだけど、それを活かして上手く商会を回しているのは彼の努力だわ。


「こんな私ですが、子供の頃の失敗から学んだこともあるんですよ。それは周りをよく見るという事です。
カリナさん、貴女無理していませんか?」

さっきまでの笑顔ではなく彼は真面目な顔をして、私にそんな質問をぶつけてきた。




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