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11.一難去ってまた一難①
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「君達またこんな所で油を売ってるの? いいのかなー、第一のヤルダ副団長に知られたらまずいんじゃないかな。あの人身分なんかに忖度しないからさ」
聞き覚えのある軽い口調に振り返ると、戸口には笑顔のルイトエリンと厳しい表情のテオドルがいた。
彼らの登場に小心者二人は分かりやすく狼狽する。所属する騎士団は違えど序列関係は変わらないようだ。
ルイトエリンの発言が本当だとすると、この新米騎士はかなり身分が高く、かつサボりの常習犯。
第一に所属なのに第二の副団長にも知られているとは、相当な問題児なのだろう。
さあ、遠慮なくお説教してやってください。
私が出る幕ではないなと気を利かせて一歩下がった。
「うっ…、ライカン副団長。えーと、私達は油を売っていたわけじゃなくて、薬草の在庫の確認に来ただけで……」
「在庫の確認は薬師の仕事だ。それとも騎士を辞めて、黒き薬師殿に弟子入りするつもりなのかな? 仮にそうだとしてもおかしいよね。お茶を飲んで寛いでいるのが、師匠でなく弟子の方なんてさ」
シドロモドロに答える騎士の手を指差すルイトエリン。口調はいつも通りに軽く、笑みを浮かべたままだけれど、その目は笑っていない。
これは怒鳴られるよりも、ある意味効果てきめんなやつだ。美形の冷笑とはこれほどまでに恐ろしいとは、私まで背筋が寒くなる。
「こ、これは、この卑しい孤児が身分の高い私達に媚を売ろうと、勝手に淹れただけです。私達が命じたわけではありません!」
お茶を手にしていた小心者は、一口も飲んでいないのコップを慌ててテーブルの上に戻す。
あっ、……惜しかったな。
私は表情を変えずに心のなかで本音を呟く。
「そっか、それなら上に報告する必要はないね。良かったよ、ちゃんと君達に確認して。でもさ、あまり長居してたら誤解されちゃうから、さっさと戻りな」
「「はいっ!」」
ルイトエリンはさっきまでの冷たい笑みを消し去り、優しく彼らの肩を叩いて退出を促す。
私が思っていたのとは違う対応だった。
そうか、そうだよね……。
すべてを分かった上で大人の対応を見せているのだろう。つまり、私への暴言など些細なことだから見逃すということだ。
寛大なのか、それとも余計な揉め事を避けたいのか。
どちらにせよ、ルイトエリンの対応は彼ら寄りだ。現にさっきまで顔色を失っていた小心者達は、今は勝ち誇ったよう口角を上げて私を見ている。
――こんな顔は今までもたくさん見てきた。
誰かが悪さをした時、大人達は自分の子供ではなく近くにいる孤児のせいにして問題を解決させる。
きっと家に帰ったら我が子を叱るのかもしれないが、とりあえずは周りの目もあるから自分の子を守る。
『違う!』と言っても、誰も耳を貸さないと知っているから孤児は黙って耐えるのだ。
そんな時、決まって親がいる子は勝ち誇った顔をしていたのを思い出す。
正義なんてどこにもなかった。
悔しい思いをして私は学んだはずだった――期待なんてするもんじゃないと。
いつだって世の中は理不尽で不公平だった。それは今世だけではなく、前世でも同じ。
馬鹿だな、私って……。
ルイトエリン達との旅が楽しかったから、距離が縮まったと自分に都合良く勘違いをしていたようだ。
彼らのあれは仕事。やっと見つけた薬師を逃さないために、ちゃんと任務をこなしていただけ。
――勝手に浮かれていたのは私。
唇をきつく噛みしめ、ルイトエリン達から目を逸らす。がっかりしているなんて意地でも悟られたくなかった。
聞き覚えのある軽い口調に振り返ると、戸口には笑顔のルイトエリンと厳しい表情のテオドルがいた。
彼らの登場に小心者二人は分かりやすく狼狽する。所属する騎士団は違えど序列関係は変わらないようだ。
ルイトエリンの発言が本当だとすると、この新米騎士はかなり身分が高く、かつサボりの常習犯。
第一に所属なのに第二の副団長にも知られているとは、相当な問題児なのだろう。
さあ、遠慮なくお説教してやってください。
私が出る幕ではないなと気を利かせて一歩下がった。
「うっ…、ライカン副団長。えーと、私達は油を売っていたわけじゃなくて、薬草の在庫の確認に来ただけで……」
「在庫の確認は薬師の仕事だ。それとも騎士を辞めて、黒き薬師殿に弟子入りするつもりなのかな? 仮にそうだとしてもおかしいよね。お茶を飲んで寛いでいるのが、師匠でなく弟子の方なんてさ」
シドロモドロに答える騎士の手を指差すルイトエリン。口調はいつも通りに軽く、笑みを浮かべたままだけれど、その目は笑っていない。
これは怒鳴られるよりも、ある意味効果てきめんなやつだ。美形の冷笑とはこれほどまでに恐ろしいとは、私まで背筋が寒くなる。
「こ、これは、この卑しい孤児が身分の高い私達に媚を売ろうと、勝手に淹れただけです。私達が命じたわけではありません!」
お茶を手にしていた小心者は、一口も飲んでいないのコップを慌ててテーブルの上に戻す。
あっ、……惜しかったな。
私は表情を変えずに心のなかで本音を呟く。
「そっか、それなら上に報告する必要はないね。良かったよ、ちゃんと君達に確認して。でもさ、あまり長居してたら誤解されちゃうから、さっさと戻りな」
「「はいっ!」」
ルイトエリンはさっきまでの冷たい笑みを消し去り、優しく彼らの肩を叩いて退出を促す。
私が思っていたのとは違う対応だった。
そうか、そうだよね……。
すべてを分かった上で大人の対応を見せているのだろう。つまり、私への暴言など些細なことだから見逃すということだ。
寛大なのか、それとも余計な揉め事を避けたいのか。
どちらにせよ、ルイトエリンの対応は彼ら寄りだ。現にさっきまで顔色を失っていた小心者達は、今は勝ち誇ったよう口角を上げて私を見ている。
――こんな顔は今までもたくさん見てきた。
誰かが悪さをした時、大人達は自分の子供ではなく近くにいる孤児のせいにして問題を解決させる。
きっと家に帰ったら我が子を叱るのかもしれないが、とりあえずは周りの目もあるから自分の子を守る。
『違う!』と言っても、誰も耳を貸さないと知っているから孤児は黙って耐えるのだ。
そんな時、決まって親がいる子は勝ち誇った顔をしていたのを思い出す。
正義なんてどこにもなかった。
悔しい思いをして私は学んだはずだった――期待なんてするもんじゃないと。
いつだって世の中は理不尽で不公平だった。それは今世だけではなく、前世でも同じ。
馬鹿だな、私って……。
ルイトエリン達との旅が楽しかったから、距離が縮まったと自分に都合良く勘違いをしていたようだ。
彼らのあれは仕事。やっと見つけた薬師を逃さないために、ちゃんと任務をこなしていただけ。
――勝手に浮かれていたのは私。
唇をきつく噛みしめ、ルイトエリン達から目を逸らす。がっかりしているなんて意地でも悟られたくなかった。
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