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第2章 京極正人 4

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「え・・ここに今日から住むんですか?」

京極と共にタクシーを降りた飯塚は目の前の高級マンションを見上げて、驚いたように目を見開いた。

「ええ、そうです。さあ、行きましょう。」

京極は戸惑う飯塚をよそに、建物の中へ向かいながら飯塚に言った。

「このマンションはオートロックなので僕と一緒に入らないと締め出されますよ。」

「え?そ、それはちょっと困ります!」

飯塚は慌てて京極の後を追った。

エントランスを抜けてエレベーターホールの前に着くと、京極は上行きのボタンを押すと言った。

「このマンションは12階建てになっています。ちなみに僕たちが住む部屋は12階にありますから。」

「え・・・?僕達・・?」

飯塚がその言葉の意味を考える前に、エレベーターが到着して目の前でドアが開かれた。

「さぁ、乗りましょう。」

「は、はい・・・。」

京極に促され、飯塚はエレベータに乗り込むとすぐに京極もその後に続き、ボタンを押した。京極に質問するタイミングを飯塚は失ってしまったが、思った。

(まあいいわ・・・。多分同じ12階に私と京極さんの部屋があるって事でしょう。)

京極は無言でエレベータに乗り、階層ランプが上の階へ移り変わっていくのを難しい顔をしながら黙って見つめている。

(何だか話しかける雰囲気じゃなさそうね・・・。)

飯塚はそんな京極を横目で見ながら思った。普段の京極は気さくな人柄に見えるが・・ふとした瞬間に近寄りがたい雰囲気を発する時がある。

(本当に・・不思議な人よね・・・何より自分の妹を刺した人間の身元引受人になるのだから気が知れないわ・・・。この人には気を許さないように注意しなくちゃ・・。)

チーン

やがてエレベーター無いに到着を知らせる音が鳴り響き、スーッとドアが開いた。

「さあ、降りましょう。」

京極は振り返る事も無く、さっさとエレベーターを降りる。

「あ・・もうっ・・・!」

(全く・・さっさと1人で行動してしまうんだから・・もう少しこっちを気遣ってくれてもいいんじゃないかしら・・・?)

不満を口に出せない飯塚はわざと思い切り不機嫌そうな顔つきでエレベーターを降りると、既に京極は部屋の前でカードキーをかざしてドアを開けている処だった。

「飯塚さん、早くこちらへ来てください。」

京極に呼ばれて飯塚は無言で近づいてくると言った。

「ここが・・・私の部屋になるんですか?」

「ええ、そうです。この部屋が僕と飯塚さんの部屋になります。」

言いながら京極はガチャリとドアを開けた。目の前にはフローリングの明るく広々とした廊下が見えていた。

「・・・は?」

飯塚は一瞬京極の言葉の意味が理解出来ずに首を捻った。

「あの・・・今・・私と京極さんの部屋・・・って言いませんでしたか?」

まさか2人で住むはずは無いだろうと思いつつ、飯塚は尋ねた。

「ええ、言いましたよ?ここは私と飯塚さんの住む部屋になります。さ、どうぞ上がって下さい。」

京極は靴を脱いで上がり込み・・・まだ玄関で立ちっぱなしの飯塚を振り返りると尋ねた。

「どうしました?飯塚さん?」

「・・・冗談ですよね?」

「何がですか?」

「ですから・・・今日からここで貴方と2人で暮らす事がですよ?」

「あいにく・・・僕は冗談を言うタイプの男じゃないんですよ。」

あくまで真面目に返事をする京極。

「は・・?本気で言ってるんですか?」

イライラした口調で飯塚は尋ねる。

「はい。」

何所までも淡々と答える京極に飯塚はついに切れてしまった。

「ふ・・ふざけないでくださいよっ!」

気付けば飯塚は声を荒げていた―。



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