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第2章 京極正人 5

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「どうして私が貴方と一緒に暮らさないといけないんですか?いい加減にして下さい!」

飯塚は叫ぶと、ハアハア肩で息をしながら京極を睨み付けた。しかし、京極は何を考えているのか・・黙って飯塚を見つめていたが・・・やがて口を開いた。

「飯塚さん・・・僕は貴女の身元引受人です。一緒に暮らすのは必然だと思いませんか?」

「いえ!少しも思いませんよっ!」

すると京極は言った。

「こんな言い方をすると・・・貴女を傷つけてしまうかもしれませんが・・犯罪履歴のある人物は・・ほぼ賃貸契約時に審査で落ちますよ?」

「え・・?」

飯塚はその言葉に耳を疑った。

「そ、そんな・・・嘘ですよね?」

「いいえ。残念ながら事実です。9割がた審査で落とされます。」

「そ、そんな・・・。」

飯塚はがっくりと肩を落とした。

「ひょっとして・・何も知らなかったのですか?」

「・・・。」

飯塚は返事をしない。余程ショックだったのだろう。顔色が青ざめていた。

「僕の名義でもう一軒アパートを借りても良かったのですけどね・・色々面倒な事になりかねない。なので僕のマンションに一緒に住むのが一番効率的なんですよ。幸いここはセキュリティもしっかりしているし・・マンションの住人同士も全く交流が無い。干渉される必要が無いので・・都合が良いと思いませんか?」

「・・・分かりましたよ・・・。それでは・・宜しくお願いします。」

京極と一緒に暮らす・・・それは飯塚にとって、とても屈辱的な事であり・・耐えがたい事ではあったが、家族からも・・親族や親友・・何もかもから見捨てられた飯塚にはもはや京極に頼るしか術が無かった。

「そうですか。納得して頂けたようで良かったです。」

一方の京極は機嫌が良さそうに返事をすると言った。

「では飯塚さんのお部屋を案内しますよ。僕について来て下さい。」

「・・・はい。」

渋々返事をすると飯塚は京極の後について行く。

「この部屋ですよ。」

京極がドアを開けて案内した部屋を見て飯塚は目を見張った。広い部屋に大きな窓からは太陽が降り注いでいる。窓にはレースのカーテンと品の良い淡いモスグリーンのカーテンがかけられ、部屋には大きなベッドが置かれている。しかも布団まで揃っていた。

「え・・これは・・・。」

(まさか・・私の為に部屋を用意したのかしら・・?)

戸惑っていると背後から京極が声を掛けてきた。

「部屋にはクローゼットが備え付けてあるので用意はしませんでした。多分これだけあれば収納は可能だと思うのですが・・・もし必要があれば仰って下さい。用意しますので。」

言いながら京極は入口の向かい側の壁の収納を開けた。その収納棚はとても大きく、以前飯塚が一人暮らしをしていたワンルームマンションに置いてあった洋服ダンスとは比較出来ない程の大きさであった。

「どうも有難うございます。服なんて・・殆ど持ってきていないので、むしろ収納棚なんか・・・いらない位ですよ。」

本当は嬉しく感じたのに、素直に慣れない飯塚はつい可愛げのない言い方をしてしまう。

「それで・・この部屋はどうですか?気に入って頂ければ幸いですけど。」

京極は飯塚に笑顔を向けて尋ねてきた。

「これほどの部屋を用意して貰って気に入るも何も無いでしょう。」

京極の笑顔が眩しく感じた飯塚は視線を逸らせながら言う。

「良かった・・それは気に入って貰えたと言う事ですよね?それじゃ・・僕は少し席を外すので、どうぞ部屋の整理をして下さい。」

「・・・。」

飯塚は返事をしなかったが、京極は気に留める様子も無く部屋を出て行った。

パタン・・・

ドアが閉じられると飯塚はポツリと言った。

「何で・・・ここまで私にしてくれるのよ・・。」

こんな事をしても・・何の特にもならないのに・・・と飯塚は思うのだった―。
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