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第3章 九条琢磨 5
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(ん?あの親子は・・・。)
水道場に向かう途中、琢磨は他の保護者たちとは少し離れた場所にレジャーシートを敷き、仲良くお弁当を食べている母子の姿を見つけた。そこに座っていたのは先ほど琢磨が朱莉だと勘違いした女性であった。彼女の傍らには体操着を着た男の子が座り、美味しそうにおにぎりを食べていた。2人はとても仲がよさそうで、大きな声で会話しながら食事を楽しんでいた。すると不意に2人の会話が琢磨の耳に飛び込んで来た。
「舞ちゃん。このおにぎり、すっごく美味しいね?」
「そうでしょう~?レンちゃんの為にねぇ・・・大好きなタラコを入れたんだよ?」
「うん!僕タラコだ~いすき!」
レンと呼ばれた少年はニコニコしながら言う。その会話を聞いて琢磨は首を傾げた。
(妙だな・・・母親の事を名前で呼んでいるのか?それに・・父親もいないように見えるし・・。)
その時・・・
女性は顔を上げ、琢磨と視線が合ってしまった。
(うっ!ま、まずい・・・!あまりにもぶしつけにジロジロ見てしまったか?!)
すると女性は軽く会釈をしたので、琢磨も慌てて会釈をし、足早にその場を立ち去った。
(ふう~・・・驚いた・・まさか目が合ってしまうとは・・でも・・。)
琢磨は思った。
綺麗な女性だったな―と。
****
お昼休みも終わり、プログラムも終盤に差し掛かろうとしていた。
「琢磨、もうお前帰ってもいいぞ。」
突如競技を見物していた二階堂が琢磨に視線を向けることなく言った。
「え・ええっ?!い、いいんですかっ?!」
思わず琢磨の声が喜びで声が弾む。
「何だ?随分嬉しそうに見えるが・・?」
ぐるりと首を回して琢磨を見る二階堂。
「い、いえ・・・気のせいですよ?」
「ふ~ん・・・そうか・・?」
しかし、琢磨には理由が分からなかった。まだ運動会のプログラム終了までは演目が残っているはずなのに、何故突然帰るように言い出したのか理由を尋ねたくなった。
「あの、でも・・何で帰るように言ってるんですか?」
すると二階堂は溜息をつくと、琢磨に運動会プログラムを差し出してきた。
「ほら・・プログラムの最後の演目を見て見ろよ。」
「?」
受け取った琢磨プログラムを眺め・・尋ねた。
「この・・一番最後の演目ですよね?」
「ああ、そうだ。」
「親子でペアダンス・・・ってなっていますけど?これがどうかしたんですか?」
すると二階堂は急に不機嫌そうな顔つきになった。
「どうかしたじゃない。本当は俺がその最後の演目に出るつもりだったんだ・・・。なのに、栞ときたら、『絶対ペアダンスはたっくんと踊るっ!』て言い出したんだ。だから・・。」
「え・・?え?ま、まさか・・・?」
「ああ、お前がいなければ・・・栞も諦めて俺とペアダンスを踊るだろう?」
二階堂はニヤリと笑みを浮かべた。それを見た琢磨は背筋が寒くなった。
(うわっ!な・・・何て恐ろしい先輩なんだっ?!親馬鹿だっ!いや・・こういうのは親馬鹿って言わないのか・・?で、溺愛しすぎだっ!まだたった4歳の娘に・・・本気で嫉妬しているなんて・・お、恐ろしすぎる・・・。)
「ほら、九条。これ・・やるよ。」
二階堂は持っていたカバンから細長い封筒を渡してきた。
「何ですか?これ?」
「ああ、ビール券だ。ほんのお礼だよ。」
「え・・ええっ?!こ、こんな・・・受け取れないですよっ!」
慌てて突き返そうとすると二階堂は言った。
「いいから受け取れって。来年も頼むつもりなんだから。」
「え・・ええっ?!」
「何だ?嫌なのか?それなら・・・インド・・・。」
「ワーッ!も、貰いますっ!来年も喜んで参加させていただきますっ!」
琢磨は慌ててビール券を持っていた黒革の財布に突っ込むと言った。
「それじゃ・・・本当に俺は帰りますからね?」
琢磨は立ち上がり、スニーカーを履くと言った。
「ああ。いいぞ。」
二階堂はシートにすわったまま返事をする。
「それでは・・。」
琢磨は頭を下げ、幼稚園の門を目指して歩き始めた時・・・。
「絶対に嫌ですっ!」
人気の無い園舎の陰で女性の声が聞こえてきた―。
水道場に向かう途中、琢磨は他の保護者たちとは少し離れた場所にレジャーシートを敷き、仲良くお弁当を食べている母子の姿を見つけた。そこに座っていたのは先ほど琢磨が朱莉だと勘違いした女性であった。彼女の傍らには体操着を着た男の子が座り、美味しそうにおにぎりを食べていた。2人はとても仲がよさそうで、大きな声で会話しながら食事を楽しんでいた。すると不意に2人の会話が琢磨の耳に飛び込んで来た。
「舞ちゃん。このおにぎり、すっごく美味しいね?」
「そうでしょう~?レンちゃんの為にねぇ・・・大好きなタラコを入れたんだよ?」
「うん!僕タラコだ~いすき!」
レンと呼ばれた少年はニコニコしながら言う。その会話を聞いて琢磨は首を傾げた。
(妙だな・・・母親の事を名前で呼んでいるのか?それに・・父親もいないように見えるし・・。)
その時・・・
女性は顔を上げ、琢磨と視線が合ってしまった。
(うっ!ま、まずい・・・!あまりにもぶしつけにジロジロ見てしまったか?!)
すると女性は軽く会釈をしたので、琢磨も慌てて会釈をし、足早にその場を立ち去った。
(ふう~・・・驚いた・・まさか目が合ってしまうとは・・でも・・。)
琢磨は思った。
綺麗な女性だったな―と。
****
お昼休みも終わり、プログラムも終盤に差し掛かろうとしていた。
「琢磨、もうお前帰ってもいいぞ。」
突如競技を見物していた二階堂が琢磨に視線を向けることなく言った。
「え・ええっ?!い、いいんですかっ?!」
思わず琢磨の声が喜びで声が弾む。
「何だ?随分嬉しそうに見えるが・・?」
ぐるりと首を回して琢磨を見る二階堂。
「い、いえ・・・気のせいですよ?」
「ふ~ん・・・そうか・・?」
しかし、琢磨には理由が分からなかった。まだ運動会のプログラム終了までは演目が残っているはずなのに、何故突然帰るように言い出したのか理由を尋ねたくなった。
「あの、でも・・何で帰るように言ってるんですか?」
すると二階堂は溜息をつくと、琢磨に運動会プログラムを差し出してきた。
「ほら・・プログラムの最後の演目を見て見ろよ。」
「?」
受け取った琢磨プログラムを眺め・・尋ねた。
「この・・一番最後の演目ですよね?」
「ああ、そうだ。」
「親子でペアダンス・・・ってなっていますけど?これがどうかしたんですか?」
すると二階堂は急に不機嫌そうな顔つきになった。
「どうかしたじゃない。本当は俺がその最後の演目に出るつもりだったんだ・・・。なのに、栞ときたら、『絶対ペアダンスはたっくんと踊るっ!』て言い出したんだ。だから・・。」
「え・・?え?ま、まさか・・・?」
「ああ、お前がいなければ・・・栞も諦めて俺とペアダンスを踊るだろう?」
二階堂はニヤリと笑みを浮かべた。それを見た琢磨は背筋が寒くなった。
(うわっ!な・・・何て恐ろしい先輩なんだっ?!親馬鹿だっ!いや・・こういうのは親馬鹿って言わないのか・・?で、溺愛しすぎだっ!まだたった4歳の娘に・・・本気で嫉妬しているなんて・・お、恐ろしすぎる・・・。)
「ほら、九条。これ・・やるよ。」
二階堂は持っていたカバンから細長い封筒を渡してきた。
「何ですか?これ?」
「ああ、ビール券だ。ほんのお礼だよ。」
「え・・ええっ?!こ、こんな・・・受け取れないですよっ!」
慌てて突き返そうとすると二階堂は言った。
「いいから受け取れって。来年も頼むつもりなんだから。」
「え・・ええっ?!」
「何だ?嫌なのか?それなら・・・インド・・・。」
「ワーッ!も、貰いますっ!来年も喜んで参加させていただきますっ!」
琢磨は慌ててビール券を持っていた黒革の財布に突っ込むと言った。
「それじゃ・・・本当に俺は帰りますからね?」
琢磨は立ち上がり、スニーカーを履くと言った。
「ああ。いいぞ。」
二階堂はシートにすわったまま返事をする。
「それでは・・。」
琢磨は頭を下げ、幼稚園の門を目指して歩き始めた時・・・。
「絶対に嫌ですっ!」
人気の無い園舎の陰で女性の声が聞こえてきた―。
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