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第1章 11 私の決意
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「何処のどなたか存じませんが、助けて頂いてどうもありがとうございました」
お礼を述べて頭を下げ、再び顔を上げると、男性は何処か寂しげな目で私を見つめていた。
な、何だろう…?何かまずい事を言ってしまったのだろうか?
「どうかしましたか?」
「何処のどなたか…か…」
男性の小さな呟きは、ばっちり私の耳に聞こえてしまった。
「え?あ、あの…」
「あ~ごめん、今の言葉は忘れて。ほら、俺の事…覚えていないかな?」
突然彼の口調が変わった。
何?ひょっとして…ナンパ?
「すみません…見覚えが無いのですが…それでは失礼します」
くるりと背を向けると、私はスタスタとその場を足早に離れた。
「え?ちょ、ちょっと待って…」
その言葉に一瞬背を向けた時、男性の顔に戸惑いの表情が浮かんでいたけれども…。
確かに椎名さんから助けてもらったことは感謝するけど、ナンパはゴメンだ。私は男にだらしない母親を見て育ってきたので、あまり男性を信用しない事にしている。まして軽々しく声を掛けてくる男性なら尚更だ。
再び私は踵を返して彼に背を向けた。
そして背中に感じる視線を意識しつつ、私は駅へと向かった。少し失礼な態度を取ってしまったかもしれないけれど、構うことは無いだろう。おそらくもう会うことは無いだろうから…。
けれど…これから先も私は彼と何度も会うことになるとは、この時の私は思ってもいなかった―。
****
午後7時過ぎ―
ガチャン
アパートの裏手にある駐輪場に自転車を止め、2階の外階段を登るためにアパートの正面に周った時、驚いて声をあげそうになってしまった。
何と、たっくんがアパートの外階段に座っていたのだ。
「た、たっくん…?何してるの?こんなところで…」
驚きながらたっくんに声を掛けた。
「あ…お姉ちゃん、お帰りなさい」
たっくんはニコリと笑って私を見た。
「うん、ただいま…って言うか、一体どうしたの?!夜なのにこんな所にいて…しかも寒空の下で…」
4月になったばかりの夜はまだまだ寒い。なのにたっくんは上着も着ないで外階段に座っていたのだ。
「う、うん…今日、児童相談所ってところから…大人の人達がやってきて、お父さんに会いに来たんだけど…虐待なんかしていないし、今僕は家にいないからってお父さん、追い返しちゃったんだ」
「児童相談所の人が…」
メディカルセンターの先生が通報したから早速来たんだ…。
「それで、その人達が帰った後…お父さんが怒って暫く外に出て反省していろっ!て追い出されて…」
「え?そ、それって…何時頃の話なの?」
「うん…お昼を食べた後だったから…1時頃だったかな…。それで追い出されちゃったんだ。その後、駅の近くに図書館があったのを思い出して、そこに行って本を読んでいて…もう図書館がしまっちゃったから仕方なく家に帰ったら鍵がかかっていて入れなかったんだよ。ドアを叩いても、チャイムを鳴らしても出てこなくて…それで今は部屋が真っ暗なんだ。だから…何処かに出かけてしまったのかも」
「な、何ですって…?」
私は自分の身体が震えるのを感じた。何て無責任な親なのだろう?まだたった10歳の子供を上着も着せずに追い出した挙げ句、自分は何処かへ出掛けてしまうなんて…。もう、我慢出来なかった。
「たっくん、お姉ちゃんの部屋へおいで。お腹空いたでしょう?お姉ちゃんもこれから夜ご飯なんだ。2人で一緒に食べよう?」
私はたっくんの右手を握りしめた。
「え…?で、でも…」
たっくんの目に戸惑いが浮かぶ。
「大丈夫、お姉ちゃんに任せて?こう見えても料理…意外と得意なんだから。さ、行こう?」
繋いだ手に力をこめて、たっくんを見つめた。
大丈夫…何があっても必ず私が守ってあげるから…。
私は心に、そう決めた―。
お礼を述べて頭を下げ、再び顔を上げると、男性は何処か寂しげな目で私を見つめていた。
な、何だろう…?何かまずい事を言ってしまったのだろうか?
「どうかしましたか?」
「何処のどなたか…か…」
男性の小さな呟きは、ばっちり私の耳に聞こえてしまった。
「え?あ、あの…」
「あ~ごめん、今の言葉は忘れて。ほら、俺の事…覚えていないかな?」
突然彼の口調が変わった。
何?ひょっとして…ナンパ?
「すみません…見覚えが無いのですが…それでは失礼します」
くるりと背を向けると、私はスタスタとその場を足早に離れた。
「え?ちょ、ちょっと待って…」
その言葉に一瞬背を向けた時、男性の顔に戸惑いの表情が浮かんでいたけれども…。
確かに椎名さんから助けてもらったことは感謝するけど、ナンパはゴメンだ。私は男にだらしない母親を見て育ってきたので、あまり男性を信用しない事にしている。まして軽々しく声を掛けてくる男性なら尚更だ。
再び私は踵を返して彼に背を向けた。
そして背中に感じる視線を意識しつつ、私は駅へと向かった。少し失礼な態度を取ってしまったかもしれないけれど、構うことは無いだろう。おそらくもう会うことは無いだろうから…。
けれど…これから先も私は彼と何度も会うことになるとは、この時の私は思ってもいなかった―。
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午後7時過ぎ―
ガチャン
アパートの裏手にある駐輪場に自転車を止め、2階の外階段を登るためにアパートの正面に周った時、驚いて声をあげそうになってしまった。
何と、たっくんがアパートの外階段に座っていたのだ。
「た、たっくん…?何してるの?こんなところで…」
驚きながらたっくんに声を掛けた。
「あ…お姉ちゃん、お帰りなさい」
たっくんはニコリと笑って私を見た。
「うん、ただいま…って言うか、一体どうしたの?!夜なのにこんな所にいて…しかも寒空の下で…」
4月になったばかりの夜はまだまだ寒い。なのにたっくんは上着も着ないで外階段に座っていたのだ。
「う、うん…今日、児童相談所ってところから…大人の人達がやってきて、お父さんに会いに来たんだけど…虐待なんかしていないし、今僕は家にいないからってお父さん、追い返しちゃったんだ」
「児童相談所の人が…」
メディカルセンターの先生が通報したから早速来たんだ…。
「それで、その人達が帰った後…お父さんが怒って暫く外に出て反省していろっ!て追い出されて…」
「え?そ、それって…何時頃の話なの?」
「うん…お昼を食べた後だったから…1時頃だったかな…。それで追い出されちゃったんだ。その後、駅の近くに図書館があったのを思い出して、そこに行って本を読んでいて…もう図書館がしまっちゃったから仕方なく家に帰ったら鍵がかかっていて入れなかったんだよ。ドアを叩いても、チャイムを鳴らしても出てこなくて…それで今は部屋が真っ暗なんだ。だから…何処かに出かけてしまったのかも」
「な、何ですって…?」
私は自分の身体が震えるのを感じた。何て無責任な親なのだろう?まだたった10歳の子供を上着も着せずに追い出した挙げ句、自分は何処かへ出掛けてしまうなんて…。もう、我慢出来なかった。
「たっくん、お姉ちゃんの部屋へおいで。お腹空いたでしょう?お姉ちゃんもこれから夜ご飯なんだ。2人で一緒に食べよう?」
私はたっくんの右手を握りしめた。
「え…?で、でも…」
たっくんの目に戸惑いが浮かぶ。
「大丈夫、お姉ちゃんに任せて?こう見えても料理…意外と得意なんだから。さ、行こう?」
繋いだ手に力をこめて、たっくんを見つめた。
大丈夫…何があっても必ず私が守ってあげるから…。
私は心に、そう決めた―。
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