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第2章 1 初恋の女性

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 俺にはずっと忘れられない初恋の女性がいる―。



「お姉ちゃん…いやだ…死なないで…死んだらいやだよぉ…」

ボロボロ泣きながら路上に血だまりの中、横たわるお姉ちゃん。胸には包丁が突き刺さり、他にも腕や背中を刺されて酷い有様だった。
お姉ちゃんをめった刺しにしたアイツは、人が駆けつけてくる足音を聞いてあっという間に逃げてしまった。

ピーポーピーポー…

そして近づいてくる救急車の音…。

「た、たっくん…」

お姉ちゃんは血の気の失せた顔で僕に微笑みかけた。

「何?!お姉ちゃんっ!」

ボロボロ泣きながら僕はお姉ちゃんに返事をした。

「ぶ、無事で‥良かった‥。たっくんを守れて…私…たっくんともっと一緒に…いたかっ…」

お姉ちゃんは声を振り絞るように僕に語りかけてくる。

「うん、お姉ちゃんのお陰だよ。僕が無事なのは…。だから死なないでよぉっ!」

「たっく…ん…ご、ごめん…ね‥‥」

そこでお姉ちゃんは目を閉じてしまった。

「お姉ちゃん…?」

「…」

けれど、お姉ちゃんはもう二度と目を開けてくれない。
僕を笑顔で見ることも…名前を呼んでくれることも無い。

「おねえちゃーんっ!いやだ、死なないでよっ!僕とずっと一緒にいてくれるって約束してくれたよねっ?!死んじゃやだよーっ!!

僕はお姉ちゃんにすがって泣き続けた。周囲にいた大人たちが何か必死になって呼び掛けているけれども、僕の耳には何一つ入って来なかった。

ピーポーピーポーピーポー…

救急車は…すぐ傍まで近づいていた―。



****


ピピピピピピ…ッ!

午前6時半―

携帯にセットしたアラームが8畳間のロフト付きワンルームマンションに鳴り響く。

「…夢か…」

目を開け、ぼんやり天井を見つめながらポツリと呟いた。頭が酷くズキズキと痛む。頬に触れると涙の乾いた跡があった。

「…泣きながら寝ていたのか…」

気怠い身体を無理に起こし、布団から出ると梯子を下りて朝の支度を始めた―。


「あ~…調子悪いな…」

電気コンロの上にフライパンを置き、卵とウィンナーを焼きながら首をコキコキ鳴らした。


俺の名は上野卓也、現在25歳。

早いもので、俺の大切な女性…南彩花が無残にアイツに殺されてから15年の歳月が流れ…ついに彼女と俺は同じ年齢になっていた。

「彩花…俺、君と同じ25歳になったよ…」

そう、今日は6月9日。俺の…誕生日だった―。



「いただきます」

出来上がった料理をカウンターテーブルに運び、テレビをつけると食事を開始した。

今朝のメニューはご飯にほうれん草の味噌汁。目玉焼きにウィンナー、そしてきゅうりの浅漬けだ。

どんなに忙しくて時間の無い朝でも朝食だけはしっかり食べるようにしていた。
それは彩花が、俺にそう言い聞かせてきたからだ。

彼女は良く俺に言っていた。

『いい?たっくん。朝ご飯は1日の始まりに欠かせない大切な食事なんだから…絶対に抜いたりしたら駄目だよ?』

と。

そして、俺はその教えを15年間ずっと守っている。



 食事を終えると、手早く後片付けを済ませて回しておいた洗濯物をベランダに干すと、もう仕事へ行く時間だった。

着替えを済ませて、玄関へ出ると壁に掛けた彩花の写真を見る。
写真の中の彩花は優しい笑みを浮かべてこちらを見ている。

この写真は…俺と2人で水族館に行った時の写真だ。

「彩花、仕事行ってくるからな」

そして俺は職場へ向かった―。

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