6月9日はきっと晴れるから

第2章 94 初めての迎えた朝

　翌朝――

ピピピピピ……

毎日6時に鳴るように設定していたスマホのアラームが部屋に鳴り響いた。

「う～ん…」

まだ眠い目をこすりながら、腕の中に温かい温もりを感じ……目を開けて驚いた。
ベッドの中には俺にピタリと寄り添うように彩花が眠りについていたからだ。

「……！！」

一瞬で頭が覚醒する。

「んんっ……」

アラームの音で彩花が身動ぎした。

ま、まずい！彩花が目を覚ましてしまう！

慌ててスマホを探し出し、アラームを止めたところで彩花が目を開けた。

「ん…」

彩花は一瞬、何が起きているのか分からない様子で俺を見て…次の瞬間、顔が真っ赤に染まった。

「き…きゃあああっ！」

途端に悲鳴を上げて彩花は俺に背を向けてしまった。

う～ん、確かに悲鳴を上げるのは無理も無いかもしれない。俺も彩花も裸だったし、まして彩花は未経験だったのだから男の免疫だってついていないのだから。

そこで俺は背後からそっと彩花を抱き寄せ、耳元で囁くように声を掛けた。

「おはよう、彩花。驚かせてしまったか？」

「う、うん…」

背中を向けたまま頷く彩花は耳まで真っ赤になっている。

「彩花。…こっち向いてくれるか？」

「……」

俯きながら彩花はゆっくりと俺の方を向いた。

「彩花、身体は……大丈夫か？」

彩花の細く、柔らかな身体を抱きしめながら尋ねた。

「だ、大丈夫…だよ」

「そうか、なら良かった。彩花……好きだ」

言いながら彩花の唇にキスをした。

……やっぱり、彩花の唇は小さく震えていた――。



＊＊＊＊

　彩花は余程照れくさいのか、着替えを見られたくないと訴えてきた。
そこで俺は先に部屋で着替えを済ませると、朝ごはんの準備をする為にキッチンへ向かった。

「さて、彩花は和食のほうがいいだろう」

米は昨夜のうちにタイマーセットしており、後5分で炊けるようになっている。あまり食材も無いから、今朝のメニューは炊きたてご飯に豆腐とワカメの味噌汁、卵焼きに納豆…それにレタスのサラダにすることに決めた。

「よし、早速始めるか」

俺は手早く料理を始めた――。



＊＊

20分後――

出来上がった料理をお盆に乗せて、部屋に持っていくと既に着替えを終えた彩花が神妙そうな顔つきでスマホを見つめていた。
今日の彩花はジーンズ姿にパーカーだった。

「彩花、食事が出来た。食べるだろう？」

声を掛けると、我に返ったかの様子で彩花が顔を上げた。

「あ……た、拓也…さん」

途端に恥ずかしさが込み上げてきたのか、再び真っ赤になる彩花。
その姿はなんとも言えず可愛らしかった。

「スマホ、見ていたのか？」

お盆の上の料理を次々と並べなが尋ねた。

「う、うん。また…。あの人からメールが来ていたらどうしようかと思って」

「別にどうする必要もないさ。無視しておけばいい。それより朝飯を食べよう」

「うん、ありがとう。うわ～…美味しそう」

「そうか？どれも大した料理じゃないけどさ。よし、食べようぜ」

彩花の向かい側に座った。

「そうだね、食べよう」

彩花は俺を見て笑った。

「「いただきます」」

そして2人で声を合わせ……恋人同士になって初めて迎えた朝食が始まった――。