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11-4 ロイの過去 1

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 オズワルドの命令によって地下牢へ連れていかれたロイは後ろ手にロープで縛られたまま、閉じ込められていた。

「……」

目を閉じ、無言で牢屋の床の上に座り込んでいるロイを見て牢屋番が鼻で笑った。
牢屋番の男は騎士と言う立場にあるロイが妬ましくてたまらなかったのだ。

「フン!ガキのくせにオズワルド様にちょっと気に入られているからって騎士なんぞになりやがって……だが、逆らってこのような地下牢に閉じ込められたのだろう?本当に愚かな奴だ!」

「……」

しかしロイは話を聞く気も無いのか、全く反応が無かった。

「チッ!…何処までも人を馬鹿にした態度を取りやがって…全く気に食わん生意気なガキだっ!」

牢屋番は吐き捨てるように持ち場へ戻って行った。
そこでロイはようや目を開けると、ポツリと呟いた。

「アリアドネ……」

と――。

****


今から10年前――

 ロイは『アイデン』の領地に隣接する農村地帯の領民であった。
両親を流行り病で早くに亡くしたロイは、12歳年上のミルバと言う名の姉と2人で暮らしていた。

ミルバはとても美しい女性で村の青年たちの憧れの的であった。
彼女には多くの求婚者がいたが、誰の求婚にも応じることは無かった。
何故なら大切な弟、ロイを守って行かなければならないからだ。

ミルバとロイは朝早くから畑を耕し、日が暮れるまで2人で一生懸命働いた。
とても貧しい生活ではあったが、2人は幸せに暮らしていた。




そんなある日、悲劇が起こった――。


 その日は朝から騒がしかった。

いつものように姉と2人で食卓につき、黒パンと豆のスープを食べていた時のことだった。


ドンドンドンッ!!

木の扉を激しく叩く音が聞こえて来た。

「あら?誰かしら?こんな朝から…ちょっと出てみるわね?」

ミルバが立ち上がった。

「うん」

ロイは返事をし、ミルバは扉を開けた。すると近所に住む女性が息を切らせて立っていた。

「た、大変だよっ!ミルバッ!この周辺一帯が山賊に襲われているらしいんだっ!今助けを呼んでいるらしいんだけど…。間に合うか分からない!早く何処かへ逃げるんだよっ!」

「ええっ?!さ、山賊がっ?!」

ミルバは青ざめ、ロイを振り返った。

「……?」

ロイはキョトンとした顔でミルバを見ている。

「いいかい?奴らは若い女性を狙っている。あんたは器量良しだし、見つかれば何をされるか分かったものじゃない!早くロイを連れて逃げるんだよっ!私達もこれから逃げるところなのよっ!」

それだけ告げると、女性は走り去って行った。


「そ、そんな…逃げろって言われても…一体何処へ‥‥?」

この家と畑は2人の両親が残してくれた大切な財産だった。
家と畑を失えば、生活していくことが出来ない。かといって、残れば山賊がやってくる。

「…でも命の方が大事だわ‥…何としてもロイを守らなければ……」

ミルバはロイに駆け寄った。

「ロイッ!荷造りをしてすぐに逃げるわよっ!」

「え?逃げるって‥‥…?」

ロイは目をぱちぱちさせてミルバを見た。

「どこでもいいわ!とにかくここにいては危険よっ!早く荷造りを…」

その時、遠くの方で馬の嘶きが響き渡り…あちこちで悲鳴が上がり始めた。

「そ、そんな‥‥!!もう山賊が…!」

ミルバは絶望した。
だが、自分はどうなっても何としてもロイだけは守らないといけない。

「ロイッ!!こっちへいらっしゃいっ!!」

ミルバはロイの手を引くと、部屋の奥にある掃除用具が入っている納戸に連れて行くと中に押し込めた。

「お姉ちゃん?」

「いい?ロイ。何があっても絶対にここから出ては駄目。声を上げても駄目よ。分かった?約束して頂戴」

いつも以上に真剣な眼差しのミルバにロイは震えながら頷いた。

「う、うん‥‥…」

「そう、ロイ…いい子ね?愛しているわ」

ミルバはロイの額にキスするとすぐに納戸の扉をしめた。

その矢先――。


バンッ!!

扉が乱暴に開かれ、大柄の5人の男たちがズカズカと部屋の中に入って来た。

「ほぉ~…これは美しい娘だな‥‥」

男たちが獣の目で、ミルバを見つめて舌なめずりをした。

「よし!お前に相手をしてもらうかっ!!」

男たちは恐怖で声も出せないミルバに襲い掛かった。


……それはまさに残虐非道な行為だった。
山賊たちは泣いて悲鳴を上げるミルバにお構いなしに、まだ乙女だったミルバに代わる代わる狼藉を働いた。

泣き叫ぶミルバが男たちに犯されていく姿をロイは震えながら扉の隙間から見ているしか出来なかった。



やがて…数時間に及ぶ残虐行為にミルバは耐え切れなかったのだろう。

「うわっ!この女…舌噛みきりやがった!」
「何だって?もっと遊んでやろうと思ったのに…」
「そんな…俺はまだだったんだぞ?!」
「しかし、いい女だったな…」
「惜しいことをしたもんだ」

ロイの目にミルバが口から血を流して目を閉じている姿が飛びこんできた。その姿から、大好きな姉が自ら命を絶ったのだということを悟った。

(おねえ…ちゃん‥‥!)

その時――


バンッ!!

勢いよく扉が開かれた――。


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