【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮

文字の大きさ
1 / 8

第1話

しおりを挟む
「……もう一度仰って頂けます?」

「ですからシリル様の子が出来たので、シリル様と別れて欲しいんです!」

「俺からも頼むよ、アイリーン! エイダを愛してしまったんだ!」

 アイリーンは、最初は聞き間違いかと思ったが、どうやら聞き間違いではないらしい。


 ここはエヴァンス侯爵家の応接室。

 エヴァンス侯爵家の娘・アイリーン、その婚約者のシリル。

 そしてシリルの恋人のエイダ。

 
 この3人が応接室にて顔を突き合わせている。

 アイリーンは一人掛けのソファーに座り、シリルとエイダは二人掛けのソファーに二人でぴったりと体をくっつけて座っている。


 シリルの子が出来たから別れてと主張しているのは、エイダ・バーク。

 彼女はバーク男爵家の令嬢である。

 ふわふわした薄いピンク色の髪に若草色の瞳で小動物を思わせるような雰囲気の令嬢だ。


 彼女は今日、シリルの恋人だと名乗り、重要な話があるとのことで、アイリーンの家であるエヴァンス侯爵邸を訪れた。

 彼女が訪れた時、アイリーンは一人で対応しようとしたが、最近殆どエヴァンス侯爵邸に来ていなかったシリルが何の因果か今日はいたので、シリルにも関係のある話かもしれないと判断し、同席を許可した。


 アイリーンとシリルの婚約は親戚の中で都合が良いという理由で決まった。

 アイリーンはエヴァンス侯爵家の一人娘で、エヴァンス家に婿入り可能な婚約者を探していた。

 そこで白羽の矢が立ったのがシリルである。

 アイリーンの両親は他家よりも血筋的に近過ぎず遠過ぎずの親戚から婿を取る意向を示しており、シリルはエヴァンス侯爵家の遠縁にあたるマイソン伯爵家の出身だ。

 さらにシリルは兄一人弟一人の三兄弟の真ん中で、彼が婿に行くことにマイソン伯爵家にとって何の不都合もなかった。

 そのような経緯でアイリーンとシリルの婚約は成立した。

(私という婚約者がありながら、恋人を作って挙句子供まで出来た婚約者なんてこちらから願い下げですわ。シリル様の有責ということで体よくお別れ出来そうですわね。お父様も最近のシリル様のご様子から見切りをつけていらしたからこちらとしては願ったり叶ったりな状況になりましたわ)


「私とシリル様の婚約はシリル様とエイダ様の間に子が出来たということもありますし、私は婚約解消ということで構いませんわ。お父様とあなたのご実家のマイソン伯爵家の皆様にはあなたの有責で婚約を解消することにしたと伝えておきます。マイソン伯爵家とバーク男爵家には慰謝料の請求はさせて頂きますので悪しからず」

 アイリーンの言葉に、シリルとエイダは手を叩いて喜びを分かち合っている。

「わかった。エイダとのことを認めてくれてありがとう、アイリーン!」

「ありがとうございます! 私はアイリーン様がシリル様を手放してくれないかと思って不安だったの!」

「用件がこれだけならば二人ともお帰り下さい。婚約解消に伴う諸々の後処理は後日きちんとやりますので」

 アイリーンは用事は済んだとばかりにエヴァンス侯爵家にとって無関係な客人二人を追い返すことにしたが、二人は驚きの言葉を告げる。


「何を言っているんだ、アイリーン。俺達二人は今日からここで暮らすんだ。出で行くのはアイリーン、お前の方だ!」

「そうですわ。私がアイリーン様の代わりに侯爵夫人としてこの家を盛り立てていくのです。この子はエヴァンス侯爵家の跡取りですわ」

(え!? 二人は何を仰っているのかしら? 私を追い出して恋人との子を我が家の跡取りにする? エヴァンス侯爵家は私の家ですわよ? 冗談も大概にして下さいませ)
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····

藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」 ……これは一体、どういう事でしょう? いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。 ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全6話で完結になります。

いつまでも甘くないから

朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。 結婚を前提として紹介であることは明白だった。 しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。 この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。 目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・ 二人は正反対の反応をした。

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。

藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。 バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。 五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。 バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。 だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 感想の返信が出来ず、申し訳ありません。

〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。

藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。 但し、条件付きで。 「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」 彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。 だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全7話で完結になります。

【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。

五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」 オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。 シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。 ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。 彼女には前世の記憶があった。 (どうなってるのよ?!)   ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。 (貧乏女王に転生するなんて、、、。) 婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。 (ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。) 幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。 最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。 (もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

甘やかされて育ってきた妹に、王妃なんて務まる訳がないではありませんか。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラフェリアは、実家との折り合いが悪く、王城でメイドとして働いていた。 そんな彼女は優秀な働きが認められて、第一王子と婚約することになった。 しかしその婚約は、すぐに破談となる。 ラフェリアの妹であるメレティアが、王子を懐柔したのだ。 メレティアは次期王妃となることを喜び、ラフェリアの不幸を嘲笑っていた。 ただ、ラフェリアはわかっていた。甘やかされて育ってきたわがまま妹に、王妃という責任ある役目は務まらないということを。 その兆候は、すぐに表れた。以前にも増して横暴な振る舞いをするようになったメレティアは、様々な者達から反感を買っていたのだ。

処理中です...