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島国の戦士
第40話 哀悼 ~修治 1~
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昼前に母親に弁当を持たされて、車で麻乃の家に向かった。修治が家の前に着くと、ドアをたたきながら大声で面倒臭さそうに麻乃を呼んでいる洸の姿が目に入った。
「なんだ。道場の小僧じゃないか。どうしたんだ?」
声をかけると、小僧と言われたことにムッとしたのか、ふてくされた顔で洸が振り向いた。
「塚本先生に、今朝、藤川さんが姿を見せないから、今日からの予定を聞いてくるように、と言われました。でもなんかいないみたいで。鍵もかかっているし」
「いない? そんなはずはないんだけどな……すまないが、塚本先生には、明日は中央で合同葬儀があるから、今日からあさってまで中央に戻ってると伝えてくれ。帰り次第、麻乃に顔をださせます、ってな」
「わかりました」
(なんであんたがあの人の予定を決めてるんだよ)
洸の表情がそう言っているようにみえて帰っていく後ろ姿を見送りながら思わず苦笑した。
(なるほど、鴇汰のやつに似ているとはよく言ったものだ)
太刀筋や雰囲気だけじゃなく、きっと性格も似ているんだろう。あのタイプは嫌いじゃないが、どうも修治とは反りが合わない。
上着のポケットから鍵を一つにまとめたチェーンを取ると、麻乃の家の合い鍵を出してドアを開けた。
その途端、中からひどくアルコールの匂いがして顔をしかめた。
部屋を見回すと、寝室に入ろうとした寸前のところで力尽きて眠っている麻乃の姿がある。
洸のいる前でドアを開けなくて良かったと、しみじみと思う。部屋の中も戻ってから日も浅いのにもう乱雑だ。
(指導する側の威厳も何もあったもんじゃないな)
近寄って軽く麻乃の頬をたたいた。
「おい、いつまで寝ているんだ。もう昼になるぞ。そろそろでかけないと着くのが遅くなるだろうが」
麻乃はモソモソと動いて体を起こした。
「頭が痛い……気持ち悪い……」
そうつぶやき、また横になろうとしている麻乃の腕を引っ張り、どうにか椅子に腰かけさせると、台所で水をくんで手渡した。
部屋のこもった空気を入れ替えようと、窓を開け放った。
「おまえどれだけ飲んだんだ?」
「ん……ゆうべ柳堀で隊員たちと行き会って……一緒に飲み食いしたけど、あたし、そんなに飲んじゃいないよ」
麻乃はボサボサに乱れた髪をかきあげると、グラスに口をつけた。
「隊員たちって、おまえのところは誰かこっちに来ているのか?」
修治はたまった食器類を洗いながら麻乃の言葉に疑問を感じ、手を止めて振り返った。麻乃の手からグラスが落ち、まだ中に残っていた水が弾けた。
「馬鹿、なにをやってるんだ」
こぼれた水を拭こうとした手を麻乃がつかみ、なにかを思い出した表情で修治を見あげた。
「違う……あれは、あいつらだ。昨日は不自然だと思いもしなかったけど、うちの部隊のやつらは今、何人か西医療所にいる以外は中央にいるんだった。人数だって、十人どころじゃなかった……来たんだよ、あいつらが」
「そうか……おまえのところはそう来たか。俺のほうは太刀合わせに来たぞ」
「太刀合わせにしようか迷って、こっちに来ました、って言ってた」
「おまえの隊員たちらしいじゃないか。なるほどな、それでそのありさまか。おまえ、当てられたな?」
麻乃は両手で顔を覆ってため息をついた。修治も同じだけれど、麻乃は特にいろいろと思うところがあるのだろう。
「そうかな? ちょっと長めの時間、いたからかな」
「まぁ、あの人数だ。仕方ないだろうよ。俺だって気づいたら、あちこち打ち傷があったからな」
ひどい頭痛と眠気で起きているのがつらいと麻乃は言う。
それでも出かけなければならないので、無理やり立ちあがらせると、シャワーを浴びさせ、急いで身支度をするように言い含めた。
ノロノロと麻乃が支度を始めたあいだに、部屋の中を片づけて待つことにした。
「なんだ。道場の小僧じゃないか。どうしたんだ?」
声をかけると、小僧と言われたことにムッとしたのか、ふてくされた顔で洸が振り向いた。
「塚本先生に、今朝、藤川さんが姿を見せないから、今日からの予定を聞いてくるように、と言われました。でもなんかいないみたいで。鍵もかかっているし」
「いない? そんなはずはないんだけどな……すまないが、塚本先生には、明日は中央で合同葬儀があるから、今日からあさってまで中央に戻ってると伝えてくれ。帰り次第、麻乃に顔をださせます、ってな」
「わかりました」
(なんであんたがあの人の予定を決めてるんだよ)
洸の表情がそう言っているようにみえて帰っていく後ろ姿を見送りながら思わず苦笑した。
(なるほど、鴇汰のやつに似ているとはよく言ったものだ)
太刀筋や雰囲気だけじゃなく、きっと性格も似ているんだろう。あのタイプは嫌いじゃないが、どうも修治とは反りが合わない。
上着のポケットから鍵を一つにまとめたチェーンを取ると、麻乃の家の合い鍵を出してドアを開けた。
その途端、中からひどくアルコールの匂いがして顔をしかめた。
部屋を見回すと、寝室に入ろうとした寸前のところで力尽きて眠っている麻乃の姿がある。
洸のいる前でドアを開けなくて良かったと、しみじみと思う。部屋の中も戻ってから日も浅いのにもう乱雑だ。
(指導する側の威厳も何もあったもんじゃないな)
近寄って軽く麻乃の頬をたたいた。
「おい、いつまで寝ているんだ。もう昼になるぞ。そろそろでかけないと着くのが遅くなるだろうが」
麻乃はモソモソと動いて体を起こした。
「頭が痛い……気持ち悪い……」
そうつぶやき、また横になろうとしている麻乃の腕を引っ張り、どうにか椅子に腰かけさせると、台所で水をくんで手渡した。
部屋のこもった空気を入れ替えようと、窓を開け放った。
「おまえどれだけ飲んだんだ?」
「ん……ゆうべ柳堀で隊員たちと行き会って……一緒に飲み食いしたけど、あたし、そんなに飲んじゃいないよ」
麻乃はボサボサに乱れた髪をかきあげると、グラスに口をつけた。
「隊員たちって、おまえのところは誰かこっちに来ているのか?」
修治はたまった食器類を洗いながら麻乃の言葉に疑問を感じ、手を止めて振り返った。麻乃の手からグラスが落ち、まだ中に残っていた水が弾けた。
「馬鹿、なにをやってるんだ」
こぼれた水を拭こうとした手を麻乃がつかみ、なにかを思い出した表情で修治を見あげた。
「違う……あれは、あいつらだ。昨日は不自然だと思いもしなかったけど、うちの部隊のやつらは今、何人か西医療所にいる以外は中央にいるんだった。人数だって、十人どころじゃなかった……来たんだよ、あいつらが」
「そうか……おまえのところはそう来たか。俺のほうは太刀合わせに来たぞ」
「太刀合わせにしようか迷って、こっちに来ました、って言ってた」
「おまえの隊員たちらしいじゃないか。なるほどな、それでそのありさまか。おまえ、当てられたな?」
麻乃は両手で顔を覆ってため息をついた。修治も同じだけれど、麻乃は特にいろいろと思うところがあるのだろう。
「そうかな? ちょっと長めの時間、いたからかな」
「まぁ、あの人数だ。仕方ないだろうよ。俺だって気づいたら、あちこち打ち傷があったからな」
ひどい頭痛と眠気で起きているのがつらいと麻乃は言う。
それでも出かけなければならないので、無理やり立ちあがらせると、シャワーを浴びさせ、急いで身支度をするように言い含めた。
ノロノロと麻乃が支度を始めたあいだに、部屋の中を片づけて待つことにした。
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