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第1章

第15話 6階層のモンスター

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[──12月29日 14:30  6階層 森の中]

「こっちの方に川があったはず……ん、水の音が聞こえてきたな。」

 サワサワと水の流れる音が聞こえてくる。爽やかな水の匂いに釣られ川の見える場所へと足が動く。森の中とは違い、砂利で挟まれた開けた場所にある川はそこまで見える程に綺麗だ。

「ほんと綺麗だなぁ……え、魚泳いでる?!」

 川の中には手よりも少し大きい程度の魚が泳いでいた。見た目はヤマメのような魚だが、川の中で煌めく鱗の色が金色に光っているので普通の魚では無さそうだった。

「モンスター……?でも何も感じないから普通の生物?いや普通ではないんだろうけど……あ!【鑑定】!」

 水中を泳ぐ魚に【鑑定】をかける。


―――――――――――――――――――――――

金山ヤマメ
位階:G

6階層の元金山の麓に流れる川に生息する魚。
水中にある砂金を取り込んだことによって体表に金色が入った。
非常に美味。

―――――――――――――――――――――――


「おおっ!いや、そうだよな!ダンジョンの中なんだから生物も、てかモンスターも【鑑定】できるはずだよなぁ。」

 いままでモンスターは見つけ次第すぐに戦闘して倒していたので、【鑑定】をしていなかった。スライム達のこともちゃんと【鑑定】すれば説明を見れたのだろう。

「ちゃんと1回1回【鑑定】すればよかったな。」

 そう言いながら京介は水中から目を離し、川下の方へ目を向ける。途中で大きく右に曲がっているので奥まで見ることはできないが、川幅が結構あるのですぐに終わることは無さそうだった。

「ふぅ……さて、このまま川沿いを進むか。」

 京介は立ち上がると、川下に向かって進み始める。時折、川の中を魚が泳いでいるのを横目に歩いていると左手の森の中からガサガサと物音がする。京介は腰の回天に手を掛け物音のした方向をジッと見つめいつでも動けるように待ち構える。

 ガサガサガサッ!

 音からして2足歩行の生物が走っている様な音だった。

「ゲギャッ!」

 そして遂にその姿が森の中から現れる。緑色の体色に小学校低学年程度の体躯、お世辞にも武器とは言えない棒を持ち、粗末なボロ布の服を纏ったモンスターがそこには立っていた。

「こいつは……ゴブリン?!っ、【鑑定】!」

 京介はすかさず目の前のモンスターに【鑑定】を行う。


―――――――――――――――――――――――

森ゴブリン
位階:E

森林に棲むゴブリン。
森の緑に紛れるように体色が緑色になった。
群れで行動するが、知性が低いためはぐれる個体がしばしば見られる。

―――――――――――――――――――――――


「戦闘面の情報ゼロかよ!」

 回天を抜きながら目の前の森ゴブリンへと切りかかる。急なことに森ゴブリンは驚き、足元の砂利に足を取られ後ろ向きに転んでしまう。すかさず京介はゴブリンの喉元を切り裂き、頭と胴を別々にした。

「はぁっ、はぁっ……」

 スライムとは違う、初めての生きた肉を断つ感触に京介の手が震える。スキルの補正により武器の扱いや行動自体は達人のように動けるが、精神面に関しては素のままなので初めての殺生に京介は吐き気を催していた。

「うっ、ふぅふぅ……覚悟はしてたけどこんなに気持ち悪いものなのか。」

 京介は光に変わって消えていく森ゴブリンを見ながら回天を鞘へ仕舞い、少しだけ水を飲んで一息つく。気分が落ち着いてきたところで周囲を確認して森ゴブリンのドロップを確認する。

「ん、魔石かな?【鑑定】。」


―――――――――――――――――――――――

魔石
位階:E

位階:Eにあたるモンスターの魔石。様々な素材として使用可。
また、魔力を抽出することでエネルギーとして使用することができる。

―――――――――――――――――――――――


「属性無しの魔石か。でも位階が上がって少し大きくなってるみたいだ。」

 位階:Eの魔石はGの魔石よりも一回り大きく、心なしか少し煌めいているように思う。拾った魔石をリュックに仕舞って狼煙の立っている仮拠点の方向を確認する。それなりに移動してきたようで、最初に見ていた方向よりも左側に煙が見えた。

「ふぅ、とりあえずここの木に色付きのスカーフを巻いて目印にして……よしっと。一回仮拠点に戻ってみようか。」

 そう言って森の中へ入っていく京介。森ゴブリンがいることを考えて【身体強化】を使用して周囲を警戒しながら森の中を進んで行く。モンスターの気配はしないが、今までの洞窟とは違い森の中は敵がどこから襲い掛かってくるか分からないため、今まで以上に気を付けて進む。

「ん?遠くから反応、仮拠点の方か?でもこの反応って……とにかく行ってみよう!」

 京介は反応のする方へと走りだす。京介が感知した反応は全てで6つある。だが、そのうちのひとつが何故か他の反応と戦っているのだ。だが多勢に無勢なのかかなり追い込まれているようだった。

「っ!見えてきた!あれは森ゴブリンと……人?!」

 仮拠点の近く、なだらかな平原に森ゴブリンが5体おり1人を取り囲んでいるところだった。短剣を持ってなんとか凌いでいるようだが、5体の森ゴブリンは下卑た笑いをしながら弄るように1人を追い込んでいた。

「クソがっ!【魔弾】!」

「ギャッ!」

「グギョ!」

 京介は回天を抜き放ち一番手前にいた森ゴブリンの首を撥ね、その次に近い森ゴブリンの頭を【魔弾】で撃ち抜く。一瞬で2体の森ゴブリンを屠ったことで他の森ゴブリンの注意を引くことに成功した。京介はそこで止まらずに、襲われていた人の横を通り過ぎながら一番奥にいた森ゴブリンに肉薄する。

「しっ!おら、【飛斬】!」

 【身体強化】によって尋常ではない速度によって肉薄した京介はそのままの勢いで回天を振り上げ森ゴブリンを切り裂く。そして勢いを利用して振り向きざまに【飛斬】を飛ばし人の背後に忍び込もうとしていた森ゴブリンを倒す。これで残っている森ゴブリンはあと1体だ。

「ゲギャギャ!」

「逃げんな!【魔弾】!」

 数的有利が消え、一瞬で不利な状況になった森ゴブリンは踵を返し森の中へ逃げようとするが、京介はすぐさま【魔弾】を放ち森ゴブリンの背後からその頭を撃ち抜いた。

「ふぅ……あ、え~っと大丈夫です……か?」

 回天を鞘をしまい、一応助けたと言ってもいい状況になったところでこの場に残っていた人に話しかける。そこで 京介は気付いた。襲われていたのがことに。

「た、たすけてくれたの?」

 こちらを伺うような涙目の表情。どうやら助けた相手は女性のようで、整った容姿をしている。皮鎧のような装備にウェストポーチのような小さな鞄、短剣をしまうための鞘は太ももにベルトで固定されている。だが京介の視線はそういったところではなく彼女の頭上に固定されている。

「ね、ネコミミだと……っ?!」

 助けた彼女は読んで字の如し、だったのだ。
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