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第一章

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「……国王、もう一度お願いします」
「ふん、何度も言わせるな。アレクサンド=ウィーザルド辺境伯爵よ。此度の功績素晴らしかった」
「はい」
「そなたの功績によりこの地は救われた」
「はい」
「故にそなたを我が国ラスバルト王国から追放することが決まった」
「いや!何でそうなるんですか?!!」

 いや、理解できない。何で功績を残したら追放になるんだ?
 確かに俺、大川衛改めてアレクサンド=ウィーザルドは大きな功績を納めた。

 ああ、言い忘れてた。
 実はあの後、俺はこの世界の神様に頼み事をされて転生した。
 まぁ、8つになるまで忘れてたけどな。転生したことも頼み事も。

 それより今はこの事態だ。
 この場に宰相がいないことがなんとなく気掛かりだ。

 そうしていると慌ただしくこの国の宰相が入ってきた。国王は顔面蒼白だ。宰相は走ってきたこともあって鬼神の様相だ。
 こわ!

「国王、いったいどういうつもりですか?」
「ラ、ラグーン=フォントン宰相」
「私に何の相談もせずにこんなことを決めるとは。ましてや彼は功労者。本来は爵位の昇格、褒美などを与えるはずなんですよ!」
「わ、分かっておる」
「ならば、なぜこんなことをしたのですか!?私が納得できる説明があるんですよね?」
「あ、いや、その~」
「まさか、また将軍ですか?今度やったら私、この国から出ていくって言いましたよね?」
「ま、待て!待ってくれ!!」

 うん、このやり取りから全てが予測できた。
 つまり、またあの困った将軍がでしゃばってきたんだな。
 これには俺も呆れた。この人は何であんなヤツの言うことを聞いてしまうだろうか?
 幼馴染みで宰相であるラグーンや昔馴染みの俺を差し置いて。
 うん、決めた。
 俺はこの国を出よう!その方がこの人のためだ。
 さすがにラグーンがいなくなったら国が一気に傾く。それはさせられない。

「国王、いくつかの条件を飲んでくださるのなら、私は追放でもいいですよ」
「な?!何を言ってるんだ!正気か?!アレク!!」
「ラグーン、俺は正気だし、自棄も起こしていない」
「なら……」
「ラグーンがいなくなればこの国は破滅する。それも急速にな」
「っ!」

 うん、そんな悔しそうな顔をしてもダメだぞ。
 お前は昔とは違う、ラグーンを失えばただの操り人形になってしまう。
 お前が俺やラグーンよりあの将軍を優先している限りな。

「だが」
「いいんだ、ラグーン。この方が」
「……お前は言い出したら聞かないんだから」
「ああ、知っているだろ?」
「ああ、知ってるさ」

 これでいい。
 ラグーンじゃないとこの人はダメなんだよな。
 まったく、困ったものだ。

「して、条件とはなんだ?」
「国王!!」
「はは、簡単ですよ。新たに国を作るので領地をそのまま譲渡し、建国を認めて貰いたいのです」
「アレク?国?」
「そうですよ、ラグーン。新たに建国するので私の領地の一部をそのまま譲渡して頂きたいのです」
「え?い、いや…それは……」
「何ですか?元々彼の先祖が開拓した土地なのですよ?何で歯切れが悪いんですか?」
「ああ、あの将軍に私の土地も狙われていましたか。ですが、あんなのに管理できませんよ?開けた土地ならともかく、あの森はね……」
「確かに」
「…………」

 そう、俺が所有している領地には広大な森がある。そこは多くの国と接しているが誰にも立ち入れない。
 何故ならその森が魔獣などが闊歩する危険地域なのだ。
 だから、どこの国に接していても誰も通れないんだけどな。

「まぁ、いいですよ。私はあの森さえ残れば」
「アレク!何を言ってるんだ!」
「まぁまぁ、ラグーン。落ち着いて」
「これが落ち着けるか!!」
「我が領地全てを管理なんて出来ないんですから。誰にもね」
「そうだが、あの土地はお前の一族が…」
「そうですね。でも、あの将軍にただでは渡しませんよ。土地・・はあげます」
「……ああ、そういうことか」
「ええ」

 どうやら俺の意図がラグーンには伝わったようだ。国王はいまだに分からないようだがそれでもいい。
 それに伝えたいことはまだまだあるのだから。
 宰相であるラグーンが理解しているのだから大丈夫だろう。

「次に私の国が興った際はラグーンを外交責任者にして頂きたい」
「何?」
「他の誰より信頼できるので」
「それは私もお願いしたいですね。数少ない心を許せる友人がこの国からいなくなるのだから」
「……わかった」

 うん、渋々だが了承されたな。
 言質さえ取れればいいのだ。
 それを残す魔法も俺は習得済みなのだから。

「それで全てか?」
「そうですね。後は移動と説明にかかる時間として7日後には出ていきます」
「7日後だな」
「ええ、開けた土地はお渡しします。ですが、森は私の国として所有させて貰います」
「わかった」
「はい。では、ラグーン、お願いしますね」
「わかったよ。すぐに契約書を用意する。国王、暫し離れます。これ以上余計なことはしないでください」
「余計なこと……」

 ラグーンはそう言い残して契約書製作のために出ていった。
 それが終わるまで俺もここからは出れない。
 もう、この人と話すことはしばらくないのか、少し寂しいな。
 だが、本当の追放になったら、俺はここに帰れないし、立ち寄ることもできなくなる。
 つまり、2度と会えないという意味だ。
 それがお互い国の頂点として会うことも出来るようになるのだ。こっちの方がいいだろう。

「国王、いや、グラン」
「……なんだ?」
「分かってやっていたのか?俺を追放すれば、2度と俺と会えなくなるんだぞ?」
「っ!?」

 ああ、本気で驚いてる。これは分かってなかったな。これがこの国の現状なんだ。
 なぜか、国王ことグランディウスは考える力が無くなってきている。
 魔法とは無縁の将軍にグランディウスを操ることはできない。なのに、グランディウスは知能退化の魔法をかけられたように深く考えられなくなってきている。
 この国に何か起こっているのだろうか?

「そんなはずは……追放してもそれを取り消せば」
「1度追放した相手を受け入れることはできない」
「なっ?!」
「それをすれば国の非を認めることになる。だから、取り消すにしても何代もあと、最低7代は過ぎないと出来ない」
「…………」

 ああ、俯いてしまった。
 そう、途方もない功績でもあげない限り、追放を取り消すことは出来ない。
 俺の場合、理由などない。だからこそ、取り消すなんて出来ないんだ。
 俺が今回あげた功績以上のことはほぼ起きないんだから。

「だから、今回のことは追放ではなく俺の独立を認めたことにすればいい」
「は?」
「そうすれば追放じゃないから会えるだろ」
「アレク」
「あなたはもっと俺やラグーンを信じるべきだ。俺たちはあなたを裏切ったりしないのだから」
 
 グランディウスはゆっくりと頷いた。
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