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覚悟見せなよ。

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家に帰り、少しだけ冷静になった私を襲ったのは…とんでもなく大きくて深い、後悔の念だった。


「では、これより第n回アゼルシュタイン家家族会議を始めたいと思います」

こほん、と一つ咳払いを落として口を開く私を、父や母、三人の兄姉達はそれぞれ、面白そうに、心配そうに、呆れたように、見つめていた。


「ははっ、お前のそんなに落ち込んだ姿は初めて見るよ。なあ、母さん」

「そうねえ。何か面白いことでもあったのかしら?」

「どうしたんだ?ジゼル。お兄様に話してごらん。誰かに虐められたのか!?」

「そんな愚か者、お姉様がこてんぱんにやっつけてあげるわ。社会的に消すのと、物理的に消すのではどちらがいいかしら?」

「…家族会議なら僕抜きでも十分機能すると思うよ。いちいち全員呼び出す必要ある?」


上から父、母、長男、長女、次男である。



「実は私、イアン様に婚約解消も辞さないと啖呵を切ってまったんです。や、でもそんなこと今となっては微塵も思っていませんし、もしもその通り別れを切り出されたらショックのあまりそのまま天に召されてしまうかもしれません」

「心底どうでもいいし部屋に戻ってもいい?」

「キリク兄様は冷たすぎます!」


うちの次男はどこまでもドライである。

もう少し真剣に妹の話を聞いてくれてもいいと思うのだけど。


「私は、私はお前が死んでしまったら…っ、あの男は私の妹にこんなに辛い思いをさせるなんてただじゃおけない」

「そうね、妹を守るのはお姉様の務めだわ」


「あの、できればイアン様には何もしない方向でお願いします。お兄様、お姉様」


この二人は過激派すぎるところがあるからしっかり釘はさしてたけどおかないと。

ぷぷっと笑っている両親にはとりあえず話を聞いてもらうだけで妥協しよう。


…あら?まともな方がいないわ。



「イアン様に、王太子殿下から婚約を申し込まれたことまで話してしまいました」

「あらまぁ、ふふっ」

「笑わないでくださいお母様。愉しそうに目を輝かせるのもやめてくださいお父様」


イアン様、どう思ったかな。

考えて、頭を抱えてしまう。


「あの方は変に繊細なところがあるから、きっと殿下の手前身を引いてしまうところが容易に想像できますっ」

「まあ、殿下と争おうなんて普通の人間ならまず思わないだろうしね」


「ただでさえ私の片想いなのに、ああもうどうすれば良いのでしょう」


今更あっさりと赤の他人になんて戻れっこない。


あんなに心をひかれて、そばに居たいと願った人なんて、初めてだったんだ。

人として誰よりも尊敬できるイアン様と、私は肩を並べて生きていきたい。


生涯を彼と共にするには結婚が最善の選択肢だと思った。



「一度王太子殿下と婚約してみたらどうだ?押してダメなら引いてみろ、なんて言葉もあるくらいだ。案外彼の方から歩み寄ってくるかもしれないぞ?」

「…そうですか?」

「ふふっ、良い考えだと思うわ」


両親の提案は、あまりピンと来なかったが私よりも人生経験は豊富だろうから無下にもできないように思えた。


「いっそのことミハイルと結ばれるのはどうだ?学園時代も素晴らしい男だったぞ?」

「イアン様と結婚したらしなくても済む苦労を強いられるんじゃない?それは貴女も覚悟していたことだとは思うけど、今だってこんなことになっているんだからいっそのこと見切りをつけるのも良いことだと思うわよ?」


兄や姉の考えには賛同できなかった。

イアン様と離れることが嫌で悩んでいるというのに、乗り換え案なんて以ての外だ。


殿下がどれだけ素晴らしい人だとしても、私にとってはイアン様の足元にも及ばない。

彼は、唯一無二の存在なのだ。



「父上、母上、状況を悪化させるような提案は悪趣味だよ。殿下と婚約なんてしたらそれこそ取り返しがつかなくなるだろ。ジゼルも簡単に騙されるな。それから兄さん達も、いくら妹が可愛いからってジゼルの意思を無視するのはどうかと思うよ」


そんな冷静な声は、一番関心を示さなかったキリク兄様のもので、なんだか感動してしまった。

それと同時に両親への不信感が爆発しそうだ。

兄様達は私のことを思ってくれていることがわかるけど、彼らは面白がって私をからかっていたのだ。



「ジゼル、こんなところで家族会議なんて開いている暇があったら、イアン殿の気が変わらないうちに弁解でもなんでもしてきな?苦労して手に入れたんだろ?一筋縄でいかない相手なら捨て身でいくくらいの覚悟見せなよ」

「…キリク兄様」


「ほら、さっさと動く。てことで会議はお開きね。僕も暇じゃないんだよ」


しっしっと手をひらつかせる兄様。



「ありがとうございます、キリク兄様。みんなも、相談に乗ってくれてありがとう。イアン様に会ってきます」


先程別れたばかりではあるが、善は急げというし、彼の屋敷に戻ろう。


「なんだ、もう立ち直ったのか?」

「あらぁ、もう少し可愛い姿を見せてくれても良かったのに」

「兄としては複雑だが、私はジゼルの決めたことならなんでも応援するからな!」

「貴女には最強無敵の公爵家がついているんだから自信を持って男爵令息なんてこてんぱんにしてやりなさい」

「姉さん、こてんぱんにしに行くわけじゃないでしょ」


家族に背中を押され、私はイアン様の元へと足を運ぶのだった。






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