悪魔が夜来る

犬束

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第四夜 球体宇宙

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 土曜日の夕方、新春を迎えたとは云え、まだ暮れるのも早い時節。街には夜のとばりが降りています。
 
 アーケード街の中途の横断歩道の処で、マキくんは信号待ちをしていました。
 休日だからか、いつものカジュアルな彼とは、雰囲気が違うようです。細い銀縁の眼鏡に、グレーのバルマカーンコートと云う、随分と渋いコーディネート。

 マキくんは、ショルダーバッグから丸いガラス瓶を取り出し、まじまじと眺めはじめました。

「よお、マキくんじゃんか」と、声をかけてきたのは、バックパックを背負った悪魔です。「いつもと違う場所で遭うと、違うひとに見えるな。ああ、眼鏡が違うからか」

 二人はお行儀良く挨拶を交わし、話題はマキくんの手にした、まん丸のガラス瓶に。

「実は、姪っ子に付き添って、デパートに行ってたんです。スノードーム教室に参加したいとかで」

「手作り出来んだ。いいじゃん」

「僕としては、雪の砂漠を旅のラクダが行きました、みたいなイメージを膨らませていたんです、ですが」

「他のガキに、ラクダを横取りされたとか?」

「それどころか、具材が、“ちくしょう。造花ばかりではないか”、な状態だったんです」

「気に入らないんだ、仕上がりが」

「はい。もう、がっかり」

「じゃあさ、おいらが中身を入れ替えてもいい?」

「全然、お願いしたいです。どんな感じにするんです? 出来上がりまで内緒かな?」

「マキくんに、流れ星を取ってあげるよ」

「まじですか。シューティング・スター?」

『悪魔はロマンチックな生き物だな、生き物なのかな?』とマキくんは思いました。

「じゃあ、出来上がったら、夛利ダリ氏のカフェで……」

「いや、もう、すぐに」と、悪魔は横目になって、しばらく耳をすますと、だしぬけに腕を真上に上げて、手を握りしめました。「早く、早く。逃げないうちに、瓶をこっちに」

 マキくんは大慌てで瓶をひっくり返して、口を開けます。悪魔はそれを待ちきれないように、握った右手を瓶に押し付けました。

「閉めて、閉めて」

 大勢の人の往来する横断歩道の手前に、二人して大騒ぎしながら立ち塞がって、邪魔くさいったらない様子。すれ違いざま、じろじろ見て行く人もいます。

「ほら、いっちょ上がり」と悪魔が嬉しそうに云いました。「ミルキーウェイも、ちょっぴりだけ、オマケしといたから」

 マキくんが、スノードームを夜空にかざすと、まん丸の瓶の中も澄んだ黒い空。細かな星屑の銀河が、オーロラみたいにゆらめきながら、斜めにすべり落ちています。
 その中を、ひときわ白く輝く流れ星が、長い尾をひきながら、すごい速度で走ったり、ゆるやかに螺旋を描いたりしていました。



追記 月澄狸さんの『せめく』の『クリエイティブ』よりインスピレーションを得ました。
 月澄狸ぽん、スペシャル・サンクスです🌕


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