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7話「新たな局面」

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 ウェネスに招かれてたどり着いたのは山に近い位置にある一軒家だった。
 木材で作られたような外観のシンプルな二階建て。

「ここが……ウェネスさんの家なのですか?」
「そうです、ほぼ山なのでいろんな意味で申し訳ないですが」

 ウェネスに一緒に暮らさないかと誘われて、行くあてもなかったので取り敢えず着いてきてみた。

 ここへ来たこと後悔はない。
 だって圧をかけられたとかで無理矢理連れられてきたわけではないから。

 私は私の意思で今ここにいる。

「いえ……そういうことを言おうとしたのではありません。それに、山の中の家というのも良いものではないですか」

 意見を述べてから「虫はちょっと怖いですけど……」と思い出したかのように付け加えれば、彼は「はは、フォローありがとうございます」と苦笑した。

 でも悪い雰囲気ではない。

 空気は澄んでいて美味しいし、静かで疲れないし。

 それに何よりも、バトレッサから逃れるにはこういうところが良いかもしれない、とは思うのだ。

「馴染みはないですけど、こういうのも良いものですよね」
「では中へ案内します」
「ありがとうございます。……ちょっと緊張してきました」
「他には誰もいないので緊張不要ですよ」

 彼は乾いた色みの木でできた扉をそっと開けた。そしてすたすたと土足で中へ入ってゆく。私は恐る恐る彼の背に続いて中へ。歩くと床が軋むので最初のうちはそのたびに心臓が鳴った。が、それにも次第に慣れて。いつしか、そのひからびたような音は気にならなくなってゆく。

「僕が使っているのは基本この部屋だけです」

 そう言って紹介してもらったのは、予想よりずっと綺麗な一室だった。

 床には古そうながら一応歩きやすいように絨毯が敷かれている。木製のテーブルとイスが置かれ、また、一人用のベッドも設置されていた。小さめの窓にはカーテンがつけられて、外から中が丸見えとならないようになっている。

「え、意外と綺麗……」

 しかも、どこか酸味のあるような良い香りが漂っている。

 柑橘系の香りだろうか。

「って、あ! すみませんっ、意外となんて言って。申し訳ありませんっ……失礼でしたよね、そんなことを言って!」

 即座にフォロー。
 私たち以外誰もいないところで唯一の人であるウェネスを怒らせてしまったら大変だ。

「いえいえ、気にしていませんよ」
「良かった……でも、本当に、素敵なお部屋ですね」
「そう言っていただけると嬉しいです」

 いや、実際、この部屋は思っていたよりずっと綺麗だった。

 清潔感がある。
 目立ったごみが落ちていない。

 それだけでも凄いことだ、独り暮らしならなおさら。

「本心です!」

 強めに主張すれば。

「疑っていませんよ」

 彼はそう言って笑った。

「これから私はここに住ませていただけるのですか?」
「そうですね。ただ、さすがに一緒のベッドで寝るのはまずいですから、隣の部屋にあるベッドをここへ運び込みましょう」

 未来は分からない。
 私は神ではないから。

 でも手探りでやっていく、徐々にでも着実に前へ。

 絶対的な居場所がなくなった今、もうそうやって生きていくしかない。

 使えるものは使う。
 頼れる相手がいるなら頼る。

 若干失礼かもしれないが仕方のないことだ、そうやって進むしかない。

「でも私、家賃とか払えませんよ? 手持ちはもう限られています」
「お金ですか?」
「はい……」
「お金なら気にしなくて良いですよ、ここでの暮らしではお金はそれほど使いませんし」
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