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8話「水を飲む?」
しおりを挟む「ベッド運び込み完了!」
あれからしばらく色々用事をしていた。
一人暮らしだったものを二人暮らしできるように模様替えする作業だ。
「お疲れ様です、ウェネスさん」
まずはねぎらいの言葉を。
「喉が渇きました」
彼は汗を片手で拭うとぽろりとこぼした。
だがそれも無理はない。
重い物を一人で部屋から部屋へ移動させたのだから、それは当たり前のように喉だって渇くだろう。
「お水とかあるのですか?」
「ああはい、ありますよ、水は庭で汲めます」
「井戸ですか?」
「そんな感じですね。でも、飲むためのやつはあそこの棚にも置いてあります」
そう言って彼が指し示した方へと目をやれば、瓶が並んでいる棚が視界に入る。
「あの瓶だらけの?」
「そうです、あれが飲む用の水です」
何だか新鮮だ。
自力で水集めまでしているなんて。
今までずっと水くらい当たり前のように用意されているものだったけれど、あれは恵まれた環境にいたからだったのだ――今になってそう気づく。
「腐らないですか?」
「中身は定期的に変えていますから」
「交換するんですね、大変そうです……」
「腐敗を抑える効果のある葉っぱも入れているので一日二日では腐りませんよ」
「腐敗を抑える!? すごい、そんなものが……」
「味は出ませんし結構便利なんですよねあの葉っぱ」
「へえ……」
世の中にはまだまだ知らないことがたくさんあるのだ、そう思った。
「オレッタさんもお水飲みますか?」
「え、いいですよ私は……」
「怖いですか? 常温保存していた水は」
「あ……いえ、そうではないのですけど……」
いや、まぁ、正直なところちょっとは怖さもある。
それを飲んで大丈夫なのか? 腹を壊したりしないのか? 彼は慣れているから大丈夫なのだろうが。慣れていない私が口にしても体調不良になったりはしないだろうか?
色々考えてしまうところもあるけれど。
「ではお入れします」
「あ、はい」
でも、これからここで暮らすのなら、早くこの環境に慣れなくてはならない。
いつまでも贅沢なんて言っていられない。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます。……あっ、これ、美味しいです!」
恐る恐る口にした水は常温ながら優しい甘みがあって美味しかった。
これは身体にも良さそう!
飲んだ直後なのでまだ確かではないが、それでも、何となくながら感覚的にそんな気がする。
「おかしなことないですね」
思わず心のままを発してしまった。
けれども彼は不快な顔はしない。
「飲めそうですか?」
「はい! むしろとっても美味しいです!」
「お口に合ったなら良かった」
「ちょっと甘い感じもしますね」
「この辺りの水は少し甘みがあるんですよ、そういう味みたいで」
「へえ……!」
応援ありがとうございます!
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