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『婚約者である彼は私に会うたび「魔女め」「穢らわしい」などと失礼なことばかり言ってきます。~泥水を啜って生きてゆくこととなったようですね~』
私は生まれつき魔法の才能を持っていた。
しかも普通であれば属性は一つのはずなのだが私の属性は全部である。
……だが、その才能ゆえに、気持ち悪いと言われてしまうこともあった。
魔法使いとしては有能であるはず。けれどもそれはある意味異様で。普通とされる人々から見れば私は明らかに異端であり、それはつまり、差別を受けたり生理的に受け付けないと言われてしまうということでもあったのだ。
そしてまた、婚約者ミートリッヒも、私を嫌っている人たちのうちの一人であった。
彼は家の事情で私と婚約することとなったのだが、私のことは大層嫌っていて、会うたびに「魔女め」「穢らわしい」などと言ってくるのだ。
私は彼に愛されてはいなかった。
でも事情が事情だからそれでも仕方がない。
……そう思っていた、のに。
「お前との婚約は破棄とする!」
「え」
「悪いがお前とはもう無理だ。穢れた魔女と混血するなど、やはり、どうしても無理なのだ」
ある日突然告げられた終焉。
「もうお前の顔は見たくない。去ってくれ。さようなら、永遠に」
私はただ去るしかなかった。
彼に思い入れはない。
でもそれでも寂しさや悲しさはあった。
どうしてこんな目に遭わなくてはならないのだろう? こんな、理不尽な。生まれ持った能力のせいで嫌われなくてはならない運命なんて、あまりにも悲しくて辛い。……すべてはこの魔法の才能のせい。これさえなければきっと彼とも仲良くなれただろうに。何もかもすべてがこれのせいなのだ……! こんな能力、要らなかった。愛されないなら、嫌われるなら、私は普通の人で良かった。特別なんて必要ない、ただ普通の人でいたかっただけなのに……。
◆
ミートリッヒとの婚約が破棄となった日からちょうど一年ほどが経ったある夏の日、私は、王子アルフレッドより求婚された。
アルフレッドは私の全属性魔法の才能を良く思ってくれていて、それで、私を妻にしたいと言ってくれていたのだ。
だから私は彼と生きることにした。
これまでずっと足を引っ張ってきていた魔法の才能。
でも彼と歩むのならそれが役に立ってくれそう。
そして何よりも、私の能力を知ってそれでもなお受け入れてくれる人に出会えたことが嬉しかった。
そうして私はアルフレッドと結婚したのだった。
「共に国を守ってゆきましょう」
「そうですね、殿下。私の心は常に、貴方と共に在ります」
ミートリッヒはというと、私との婚約が破棄となったことで多くのものを失うこととなった。我が家から支援、我が家との繋がりによる利益、そういったものを彼とその家は喪失することとなったのである。
で、彼の家は没落していった。
彼らは今、泥水を啜るような暮らしをしているようだ。
……私と共にあるだけでもっと良い人生を歩めただろうに。
でも、もしかしたら、それでも彼は私と離れて生きていきたかったのかもしれない。
すべてを捨ててもなお自由が欲しかったのだとしたら?
それなら、まぁ、それもまた彼の人生だろう。
たとえ苦しむこととなっても。
たとえ極貧の中で生きることとなっても。
それが彼の選んだ道なら、それはそれでいいのだろう。
◆終わり◆
『晩餐会の最中に婚約破棄を告げてくるとは失礼な男ですね。~彼は呪いの餌食となったようです~』
「リーア、君は僕に相応しい女性ではない! よって、婚約は破棄とする!」
婚約者ミドルがそんなことを告げてきたのはある晩餐会の最中だった。
「こ、婚約破棄……ですか?」
「ああそうだ」
あまりにも唐突で戸惑いしかなかった。
すぐには何を言われているのかすら理解できない。
「僕はずっと君が僕に相応しい女性になるため努力するだろうと思っていた。だからこそ僕は、リーア、君を婚約者にしたんだ。まぁ顔だけは好みだったしな」
今日のミドルは不自然なほどに上から目線だ。
「え……」
思わず漏れてしまう困惑の声。
「けど、君は努力しなかった。僕に相応しい女性になろうとしなかった。だからもうやっていくのは無理なんだ」
「急に何を」
「分かったか?」
「あまりにも急で……正直、まだ、あまりよく分かっていません」
正直なところを口にすれば。
「ああやはり馬鹿なのだな」
彼はそんな言葉を返してくる。
失礼過ぎる……。
あまりにも無礼だ……。
「つまり、君との関係は今日で終わりということだ。現時点をもって、僕たちは他人となる」
こうして私はミドルに切り捨てられてしまったのだった。
◆
「何だあいつ! ミドル! あいつ裏切り者だ!」
一連の話を聞いた父は激怒した。
そして感情のままに「あんなやつ、消えてしまえ!」などと吐き捨てた。
「怒らせてごめんなさい、父さん」
「いやお前は悪くないだろう?」
「……でも、申し訳ないわ。私のせいで」
「いやいや何を言い出すんだ。お前には非は一切ないのだから、お前が自分が悪いと思う必要なんて少しもない」
――それから数日、ミドルの死を知った。
その日彼は夜中に目覚めたそう。すると周囲に、ベッドを取り囲むように、謎の黒く長い毛が垂れ下がっていたそうで。思わず絶叫してしまったそう。するとその毛は意思を持っているかのように動き出し、彼の首へと絡みつく。彼はそのまま毛に首を絞められ、朝には亡くなっていたのだそうだ。
「信じられない……」
そんな話を聞いた直後に。
「何が起きたのか、父が教えてあげようか?」
父は意味深な発言。
「え? え、ええ。でもどうして。父さんは何が起きたか知っているの?」
「呪いをかけたんだ」
「え……」
「そう、呪いだよ」
「の、のろ……って、え、呪い? 術みたいな、アレ?」
「そうだ」
「えええー……」
まさかの情報であった。
呪い、という言葉は聞いたことはある。でも信じてはいなかった。あくまでも想像上の術みたいなものだと思っていて。実際に存在するのだと、そして、実際に効果があるのだと、そんな風には捉えていなかった。
でもミドルが亡くなったということは……。
「じゃあミドルはそれで?」
「ああそうだ」
ミドルが死んだこと以上に信じられなかった。
「そうだったの……」
◆
婚約破棄とミドルの死から三年が過ぎた。
私は今日結婚式を挙げる。
相手は代々国を護る儀式を執り行ってきた家の出である、清らかで誠実な青年だ。
「リーアさん、幸せになりましょうね」
「ええもちろんです」
私たちは今日新たなる一歩を踏み出す。
◆終わり◆
『聖女フィリアーニア、婚約破棄される。~二人にとっては邪魔者でも、民らにとっては偉大なる乙女なのです~』
聖女フィリアーニアは婚約破棄された。
「悪いがお前との婚約は破棄とさせてもらう」
フィリアーニアの婚約者である王子ルッキーは、婚約者にして聖女であるフィリアーニアよりも幼馴染みネネを大事にしていたのだ。
「お前! ネネを虐めていたそうじゃないか! ああ、まったく、何ということだ……聖女ともあろうお前が、俺の幼馴染みだというだけの理由でネネを虐めていたとは。ああ、もう、信じたくないような話だ。何と心の狭い聖女か……!」
ネネの嘘を信じ込んだ彼は、一方的にフィリアーニアを悪であると決めつけていて。
「お前のような悪女は今すぐここから去れ! 城から! そして国から! この国には聖女とは名ばかりの悪女など要らないのだから」
そうしてフィリアーニアは婚約破棄のみならず国外追放という罰を受けることとなった。
◆
フィリアーニアが国を去った後、ルッキーはすぐにネネと婚約した。
しかしその頃から国が徐々におかしくなってゆく。
やたらと天災に見舞われるようになったり、不幸な出来事が連発したり、とにかくろくでもないことが多数起こり始めたのである。
――それは、国神様の怒りであった。
やがて国は傾き、怒った民らによって王家は倒される。
国王はもちろんのこと、王妃も、そして王子王女も。その多くが民の手によって捕えられて処刑された。もちろんそこにはルッキーも含まれている。若い王族女性の中には売り飛ばされ奴隷になることで命だけは救われた者もいたことはいたが、いずれにせよその後が地獄であることには変わりなかった。
ルッキーは民らによって八つ裂きの刑に処された。
また、ネネはというと、王子をたぶらかし国を穢した女として魔女と呼ばれ、怒る民らの目の前で罵声を浴びせられながら火刑に処されたのであった。
フィリアーニアを追放してまで結ばれることを選んだ二人だが、その未来に希望の光はなかった。
◆
王家が倒れた後、フィリアーニアは再びその地へと戻ることとなった。
そこには民からの強い希望があったのだ。
その地で暮らす人々は新しい光を求めていた。
他国へ出ていっていたフィリアーニアだったが、民の言葉に心を動かされ、生まれ育った国へと帰還する。
「フィリアーニア様! おかえりなさい!」
「愛していますっ」
「女神さまのようですっ」
「ずっと待っていました! 貴女のような素晴らしき乙女を!」
「偉大なる指導者!」
帰還の日、フィリアーニアは、多くの民に迎えられた。
「「「おねえちゃん、おかえりなさーい!」」」
こうして生まれ育った国へと戻ったフィリアーニアは、その地を愛をもって良き形で治め、その後数千年にわたり繁栄する幸福に満ちた国を築いたのであった。
◆終わり◆
『少し変わった能力のせいで婚約破棄されたのですが、後にその能力が王子の命を救うこととなりました。』
瑞々しい肌を持つ美女リリクリアは生まれつき皮膚から大量の水を噴出することができる。
それは画期的な能力。
見る者を必ずと言って問題ないほど驚かせるもの。
しかし、彼女の婚約者である青年アミットは、その能力を良く思っておらず。
「体液みたいでキモイ。肌が綺麗で良い女だと思ってたけど、その能力はムリ。てことで、婚約は破棄するから」
彼はある日突然そんな風に言ってリリクリアとの関係を終わらせた。
◆
あの一件以降、リリクリアは大層落ち込み、毎日のように泣いていた。
この能力さえなければ。
こんなものを生まれ持たなければ。
彼女はいつもそう言っていた。
彼女にとってその特殊能力は幸福への道を邪魔する存在でしかなかったのである。
――だが、ある時、火災から王子クセリッセオを救い出すことに成功。
「リリクリアさん、本当に、本当に……ありがとう、助けてくれて」
「いえ……」
救助の際、リリクリアは肌から水を噴出させた。それによって火の勢いを弱め、少しできた通り道を抜けてクセリッセオを助け出したのである。本来能力を使うことをよしとはしないリリクリアだが、その時は必死だったので反射的に能力を使っていた。
「気持ち悪い、ですよね……こんなの。私みたいな女。すみません殿下、私はもう……これで、消えます」
少しでも早く立ち去ろうとするリリクリアの手を。
「待ってください!」
クセリッセオは強く掴んだ。
「え……」
「貴女にお礼がしたいのです!」
その時のクセリッセオの瞳は真っ直ぐな光を宿していた。
「そして……貴女に、貴女の勇気に、惚れました」
クセリッセオはどこまでも真っ直ぐな瞳で目の前の今にも逃げ出してしまいそうな彼女を見つめる。
「え? あ、や、えとあの……」
困惑の海に沈みそうなリリクリア。
紅に染まる二つの瞳が揺れている。
「リリクリアさん、僕は貴女に惚れてしまったみたいです」
「詐欺ですか?」
「違いますよ! 詐欺なんかじゃ!」
「……分かりました、では恐らく、気が動転されているのですね」
なかなか受け入れないリリクリアに。
「違う!」
クセリッセオは調子を強める。
「貴女が好きなんです!!」
彼はついに本心を明かした。
◆
あれから少しして、リリクリアはクセリッセオと結婚した。
クセリッセオからの猛烈アプローチがあってそこへ至ったのだが――リリクリアは今、幸せに、いつも笑って生きている。
一方アミットはというと、複数の女性を家に招いて男女でいちゃつく会を開いていたある日の晩に謎の発火による火事が発生し、それに巻き込まれて落命した。
◆終わり◆
私は生まれつき魔法の才能を持っていた。
しかも普通であれば属性は一つのはずなのだが私の属性は全部である。
……だが、その才能ゆえに、気持ち悪いと言われてしまうこともあった。
魔法使いとしては有能であるはず。けれどもそれはある意味異様で。普通とされる人々から見れば私は明らかに異端であり、それはつまり、差別を受けたり生理的に受け付けないと言われてしまうということでもあったのだ。
そしてまた、婚約者ミートリッヒも、私を嫌っている人たちのうちの一人であった。
彼は家の事情で私と婚約することとなったのだが、私のことは大層嫌っていて、会うたびに「魔女め」「穢らわしい」などと言ってくるのだ。
私は彼に愛されてはいなかった。
でも事情が事情だからそれでも仕方がない。
……そう思っていた、のに。
「お前との婚約は破棄とする!」
「え」
「悪いがお前とはもう無理だ。穢れた魔女と混血するなど、やはり、どうしても無理なのだ」
ある日突然告げられた終焉。
「もうお前の顔は見たくない。去ってくれ。さようなら、永遠に」
私はただ去るしかなかった。
彼に思い入れはない。
でもそれでも寂しさや悲しさはあった。
どうしてこんな目に遭わなくてはならないのだろう? こんな、理不尽な。生まれ持った能力のせいで嫌われなくてはならない運命なんて、あまりにも悲しくて辛い。……すべてはこの魔法の才能のせい。これさえなければきっと彼とも仲良くなれただろうに。何もかもすべてがこれのせいなのだ……! こんな能力、要らなかった。愛されないなら、嫌われるなら、私は普通の人で良かった。特別なんて必要ない、ただ普通の人でいたかっただけなのに……。
◆
ミートリッヒとの婚約が破棄となった日からちょうど一年ほどが経ったある夏の日、私は、王子アルフレッドより求婚された。
アルフレッドは私の全属性魔法の才能を良く思ってくれていて、それで、私を妻にしたいと言ってくれていたのだ。
だから私は彼と生きることにした。
これまでずっと足を引っ張ってきていた魔法の才能。
でも彼と歩むのならそれが役に立ってくれそう。
そして何よりも、私の能力を知ってそれでもなお受け入れてくれる人に出会えたことが嬉しかった。
そうして私はアルフレッドと結婚したのだった。
「共に国を守ってゆきましょう」
「そうですね、殿下。私の心は常に、貴方と共に在ります」
ミートリッヒはというと、私との婚約が破棄となったことで多くのものを失うこととなった。我が家から支援、我が家との繋がりによる利益、そういったものを彼とその家は喪失することとなったのである。
で、彼の家は没落していった。
彼らは今、泥水を啜るような暮らしをしているようだ。
……私と共にあるだけでもっと良い人生を歩めただろうに。
でも、もしかしたら、それでも彼は私と離れて生きていきたかったのかもしれない。
すべてを捨ててもなお自由が欲しかったのだとしたら?
それなら、まぁ、それもまた彼の人生だろう。
たとえ苦しむこととなっても。
たとえ極貧の中で生きることとなっても。
それが彼の選んだ道なら、それはそれでいいのだろう。
◆終わり◆
『晩餐会の最中に婚約破棄を告げてくるとは失礼な男ですね。~彼は呪いの餌食となったようです~』
「リーア、君は僕に相応しい女性ではない! よって、婚約は破棄とする!」
婚約者ミドルがそんなことを告げてきたのはある晩餐会の最中だった。
「こ、婚約破棄……ですか?」
「ああそうだ」
あまりにも唐突で戸惑いしかなかった。
すぐには何を言われているのかすら理解できない。
「僕はずっと君が僕に相応しい女性になるため努力するだろうと思っていた。だからこそ僕は、リーア、君を婚約者にしたんだ。まぁ顔だけは好みだったしな」
今日のミドルは不自然なほどに上から目線だ。
「え……」
思わず漏れてしまう困惑の声。
「けど、君は努力しなかった。僕に相応しい女性になろうとしなかった。だからもうやっていくのは無理なんだ」
「急に何を」
「分かったか?」
「あまりにも急で……正直、まだ、あまりよく分かっていません」
正直なところを口にすれば。
「ああやはり馬鹿なのだな」
彼はそんな言葉を返してくる。
失礼過ぎる……。
あまりにも無礼だ……。
「つまり、君との関係は今日で終わりということだ。現時点をもって、僕たちは他人となる」
こうして私はミドルに切り捨てられてしまったのだった。
◆
「何だあいつ! ミドル! あいつ裏切り者だ!」
一連の話を聞いた父は激怒した。
そして感情のままに「あんなやつ、消えてしまえ!」などと吐き捨てた。
「怒らせてごめんなさい、父さん」
「いやお前は悪くないだろう?」
「……でも、申し訳ないわ。私のせいで」
「いやいや何を言い出すんだ。お前には非は一切ないのだから、お前が自分が悪いと思う必要なんて少しもない」
――それから数日、ミドルの死を知った。
その日彼は夜中に目覚めたそう。すると周囲に、ベッドを取り囲むように、謎の黒く長い毛が垂れ下がっていたそうで。思わず絶叫してしまったそう。するとその毛は意思を持っているかのように動き出し、彼の首へと絡みつく。彼はそのまま毛に首を絞められ、朝には亡くなっていたのだそうだ。
「信じられない……」
そんな話を聞いた直後に。
「何が起きたのか、父が教えてあげようか?」
父は意味深な発言。
「え? え、ええ。でもどうして。父さんは何が起きたか知っているの?」
「呪いをかけたんだ」
「え……」
「そう、呪いだよ」
「の、のろ……って、え、呪い? 術みたいな、アレ?」
「そうだ」
「えええー……」
まさかの情報であった。
呪い、という言葉は聞いたことはある。でも信じてはいなかった。あくまでも想像上の術みたいなものだと思っていて。実際に存在するのだと、そして、実際に効果があるのだと、そんな風には捉えていなかった。
でもミドルが亡くなったということは……。
「じゃあミドルはそれで?」
「ああそうだ」
ミドルが死んだこと以上に信じられなかった。
「そうだったの……」
◆
婚約破棄とミドルの死から三年が過ぎた。
私は今日結婚式を挙げる。
相手は代々国を護る儀式を執り行ってきた家の出である、清らかで誠実な青年だ。
「リーアさん、幸せになりましょうね」
「ええもちろんです」
私たちは今日新たなる一歩を踏み出す。
◆終わり◆
『聖女フィリアーニア、婚約破棄される。~二人にとっては邪魔者でも、民らにとっては偉大なる乙女なのです~』
聖女フィリアーニアは婚約破棄された。
「悪いがお前との婚約は破棄とさせてもらう」
フィリアーニアの婚約者である王子ルッキーは、婚約者にして聖女であるフィリアーニアよりも幼馴染みネネを大事にしていたのだ。
「お前! ネネを虐めていたそうじゃないか! ああ、まったく、何ということだ……聖女ともあろうお前が、俺の幼馴染みだというだけの理由でネネを虐めていたとは。ああ、もう、信じたくないような話だ。何と心の狭い聖女か……!」
ネネの嘘を信じ込んだ彼は、一方的にフィリアーニアを悪であると決めつけていて。
「お前のような悪女は今すぐここから去れ! 城から! そして国から! この国には聖女とは名ばかりの悪女など要らないのだから」
そうしてフィリアーニアは婚約破棄のみならず国外追放という罰を受けることとなった。
◆
フィリアーニアが国を去った後、ルッキーはすぐにネネと婚約した。
しかしその頃から国が徐々におかしくなってゆく。
やたらと天災に見舞われるようになったり、不幸な出来事が連発したり、とにかくろくでもないことが多数起こり始めたのである。
――それは、国神様の怒りであった。
やがて国は傾き、怒った民らによって王家は倒される。
国王はもちろんのこと、王妃も、そして王子王女も。その多くが民の手によって捕えられて処刑された。もちろんそこにはルッキーも含まれている。若い王族女性の中には売り飛ばされ奴隷になることで命だけは救われた者もいたことはいたが、いずれにせよその後が地獄であることには変わりなかった。
ルッキーは民らによって八つ裂きの刑に処された。
また、ネネはというと、王子をたぶらかし国を穢した女として魔女と呼ばれ、怒る民らの目の前で罵声を浴びせられながら火刑に処されたのであった。
フィリアーニアを追放してまで結ばれることを選んだ二人だが、その未来に希望の光はなかった。
◆
王家が倒れた後、フィリアーニアは再びその地へと戻ることとなった。
そこには民からの強い希望があったのだ。
その地で暮らす人々は新しい光を求めていた。
他国へ出ていっていたフィリアーニアだったが、民の言葉に心を動かされ、生まれ育った国へと帰還する。
「フィリアーニア様! おかえりなさい!」
「愛していますっ」
「女神さまのようですっ」
「ずっと待っていました! 貴女のような素晴らしき乙女を!」
「偉大なる指導者!」
帰還の日、フィリアーニアは、多くの民に迎えられた。
「「「おねえちゃん、おかえりなさーい!」」」
こうして生まれ育った国へと戻ったフィリアーニアは、その地を愛をもって良き形で治め、その後数千年にわたり繁栄する幸福に満ちた国を築いたのであった。
◆終わり◆
『少し変わった能力のせいで婚約破棄されたのですが、後にその能力が王子の命を救うこととなりました。』
瑞々しい肌を持つ美女リリクリアは生まれつき皮膚から大量の水を噴出することができる。
それは画期的な能力。
見る者を必ずと言って問題ないほど驚かせるもの。
しかし、彼女の婚約者である青年アミットは、その能力を良く思っておらず。
「体液みたいでキモイ。肌が綺麗で良い女だと思ってたけど、その能力はムリ。てことで、婚約は破棄するから」
彼はある日突然そんな風に言ってリリクリアとの関係を終わらせた。
◆
あの一件以降、リリクリアは大層落ち込み、毎日のように泣いていた。
この能力さえなければ。
こんなものを生まれ持たなければ。
彼女はいつもそう言っていた。
彼女にとってその特殊能力は幸福への道を邪魔する存在でしかなかったのである。
――だが、ある時、火災から王子クセリッセオを救い出すことに成功。
「リリクリアさん、本当に、本当に……ありがとう、助けてくれて」
「いえ……」
救助の際、リリクリアは肌から水を噴出させた。それによって火の勢いを弱め、少しできた通り道を抜けてクセリッセオを助け出したのである。本来能力を使うことをよしとはしないリリクリアだが、その時は必死だったので反射的に能力を使っていた。
「気持ち悪い、ですよね……こんなの。私みたいな女。すみません殿下、私はもう……これで、消えます」
少しでも早く立ち去ろうとするリリクリアの手を。
「待ってください!」
クセリッセオは強く掴んだ。
「え……」
「貴女にお礼がしたいのです!」
その時のクセリッセオの瞳は真っ直ぐな光を宿していた。
「そして……貴女に、貴女の勇気に、惚れました」
クセリッセオはどこまでも真っ直ぐな瞳で目の前の今にも逃げ出してしまいそうな彼女を見つめる。
「え? あ、や、えとあの……」
困惑の海に沈みそうなリリクリア。
紅に染まる二つの瞳が揺れている。
「リリクリアさん、僕は貴女に惚れてしまったみたいです」
「詐欺ですか?」
「違いますよ! 詐欺なんかじゃ!」
「……分かりました、では恐らく、気が動転されているのですね」
なかなか受け入れないリリクリアに。
「違う!」
クセリッセオは調子を強める。
「貴女が好きなんです!!」
彼はついに本心を明かした。
◆
あれから少しして、リリクリアはクセリッセオと結婚した。
クセリッセオからの猛烈アプローチがあってそこへ至ったのだが――リリクリアは今、幸せに、いつも笑って生きている。
一方アミットはというと、複数の女性を家に招いて男女でいちゃつく会を開いていたある日の晩に謎の発火による火事が発生し、それに巻き込まれて落命した。
◆終わり◆
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