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『聖女アマリリス、このたび婚約していた王子から婚約破棄宣言をされてしまいました。』
「貴様などろくに役に立たないただの女だ。しばらく関わってきてそう判断した。よって! 貴様との婚約は本日をもって破棄とする!」
聖女アマリリス、それこそが私の呼び名。
有事に国を護る力を持っているということが判明した私は、半年ほど前、王子エンベロービと婚約したのだった。
だがその関係はそう長くは続かなかった。
「俺には可愛い可愛いエリーナがいる。だから貴様のようなぱっとせず面白みもない女なんかは不要なのだ。聖女? そんなこと知るか。俺の人生には関係ない。だから! 貴様とはもうおしまいにするのだ!」
エンベロービは幼馴染みで恋人のような関係でもある女性エリーナのことしか考えていない。彼はエリーナのことだけしか考えられない状態だし、エリーナただ一人だけを愛している。
そんな彼からすれば形だけの婚約者である私はどこまでも邪魔でしかない存在なのだろう……恐らくは。
「じゃあなアマリリス、二度と俺の前に現れないでくれよ」
こうして私たちの関係は終わってしまったのだった。
やはり愛がないから続かなかったのだろうか?
どうしても愛が必要だった?
だが、まぁ、いずれにせよ終わったことは終わったことだ。
過ぎたことばかりに目を向けるのはやめよう。
そして繰り返し悲しむのはやめよう。
◆
あの後、私のところには他国の王家からの求婚があり、吟味した結果私は大陸で最も大きい帝国へ嫁に行くことにした。
国を出ることに対する躊躇いも多少はあった。
でも自分で選んだ道に後悔は要らない。
進むべき道を決めたならあとはただ進むだけ、それが生きるということだろう。
そうして私が帝国へ嫁いだ一年後、エンベロービらがいたあの国は滅んだ。
……否、厳密には、王家が倒れたのである。
王家の終焉、その引き金を引いたのはエンベロービと婚約したエリーナだったようだ。
エンベロービと婚約してからというものエリーナは王家のお金を使って好き放題遊び回るようになったそうで、エンベロービがそれを止められなかったこともあって王家の経済状況は急速に悪化、王家が民に嫌われたこともあってそこから王家は急激に弱っていったそう。
で、最終的には、民らによって王家は統治者の座から引きずり下ろされた。
ちなみにエンベロービとエリーナも民らの手で処刑されたそう。
私を無理矢理消し去ってくっついた二人だが、どうやら、彼らには幸せな未来はなかったようだ。
……ま、もはやどうでもいいことなのだけれど。
なんにせよ、私は私で前を向いて生きてゆく、それだけは決して変わることのない事実。
私は帝国で皆に愛されながら生きる。
そして私も国のために民のために働き生きていくつもりだ。
◆終わり◆
『幼馴染みと婚約していたのですが、職場の後輩を好きになったとか何とかで婚約破棄されてしまいました。』
「これからもよろしくね、ケイン」
「ああ、こちらこそ」
私たちは幼馴染みだった。
「結婚してもずっと……いつまでも一緒に笑顔で過ごしましょうね」
「もちろんだ!」
だから絆は確かだと思っていた。
いつまでも同じ方向へ視線を向けて歩んでゆけると信じていたのだ。
――なのに。
「悪いな、お前との婚約は破棄するわ」
婚約から数ヶ月が経ったある日の昼下がり、ケインはそんなことを言ってみた。
「そ、そんな」
信じられない展開に声が震える。
「ごめんな急で」
「理解が追いつかないわ、そんなの……どうして……!?」
いや、声だけじゃない。
脳までも震える。
身体もぶるぶると意識外で動きそうなほど。
「実はさ、職場の後輩で好きな人ができたんだ。今はもうその人のことしか考えられなくて。その子以外と結婚するとか、ごめんだけど、まったくもって考えられないんだ」
ケインは私ではない女性に惚れてしまっていた。
「だからお前とやっていくのは無理だって思ったんだ」
「そんなことって……」
「ごめん。けど、俺だって、こんなことになるとはずっと想っていなかったんだよ。だから嘘をついていたわけじゃない」
惚れた? それは免罪符なの? 惚れたなら、急にだったなら、何をしても許されると。そんな風に言うつもり? ……急にそんなことを言い出したら傷つく人がいることくらい想像できるでしょうに。婚約したことに対する責任は皆無なの? 破棄するわ、と言えばそれで終わり、だなんて考えが甘すぎるのではないだろうか。
「ごめんな、ばいばい」
ケインは最後そう言って、私の前から去ったのだった。
――以降、彼からの連絡はなかった。
◆
あれからしばらくして、ケインがあの後どうなったかの情報を手に入れることができた。
ケインは惚れた女性に接近し、強引に結婚を迫ったそうだ。しかし相手の女性は引いてしまって。あまりにも唐突な接近だったので、それを彼女が受け入れることはなかったそうだ。
で、ある時ついに、ケインは女性の父親に怒られてしまったらしい。
しかしそれでも折れないケイン。
その行動はより一層凄まじく積極的なものへと変わりゆく。
……だがやり過ぎた。
帰宅途中の女性を何度も待ち伏せしたり強引に触れようとしたりといったことをしたために不審者扱いされてしまい、しまいに通報されてしまったそうで。
そうしてケインは牢屋送りとなってしまったそうだ。
……馬鹿だな、本当に。
好きなのは分かる。惚れているのは。彼女しか見えない、それもまぁ人の感情だから仕方ないところはある。けれども、だからといって何をしてもいいのかといえばそうではないだろう。相手が嫌がっているならなおさらだ。
何事も相手の様子を見つつ進めなくては。
でも彼にはその知能がなかった。
だからこそどこまでも独りよがりな行動となってしまったのだろう。
◆
時の流れとは早いもので、婚約破棄からもう三年が経とうとしている。
私は先日ようやく結婚した。
一人の男性と正式に結ばれ式も挙げて夫婦となったのだ。
夫である彼はそこそこ良い家の出だ。
しかし私や私の家を見下すようなことはしない。
どんな時も誠実で、常に謙虚さを持ち、人と人の関わりを上下という型にはめて捉えることはしない――そんな人だからこそ、私は彼のことを好きになったのだ。
付き合ってからそれほど経っていない私たちなのできっとこれから知るお互いのこともたくさんあるだろうけど、でも、そういったものも含めて相手を想ってゆけたらと前向きに考えている。
◆終わり◆
「貴様などろくに役に立たないただの女だ。しばらく関わってきてそう判断した。よって! 貴様との婚約は本日をもって破棄とする!」
聖女アマリリス、それこそが私の呼び名。
有事に国を護る力を持っているということが判明した私は、半年ほど前、王子エンベロービと婚約したのだった。
だがその関係はそう長くは続かなかった。
「俺には可愛い可愛いエリーナがいる。だから貴様のようなぱっとせず面白みもない女なんかは不要なのだ。聖女? そんなこと知るか。俺の人生には関係ない。だから! 貴様とはもうおしまいにするのだ!」
エンベロービは幼馴染みで恋人のような関係でもある女性エリーナのことしか考えていない。彼はエリーナのことだけしか考えられない状態だし、エリーナただ一人だけを愛している。
そんな彼からすれば形だけの婚約者である私はどこまでも邪魔でしかない存在なのだろう……恐らくは。
「じゃあなアマリリス、二度と俺の前に現れないでくれよ」
こうして私たちの関係は終わってしまったのだった。
やはり愛がないから続かなかったのだろうか?
どうしても愛が必要だった?
だが、まぁ、いずれにせよ終わったことは終わったことだ。
過ぎたことばかりに目を向けるのはやめよう。
そして繰り返し悲しむのはやめよう。
◆
あの後、私のところには他国の王家からの求婚があり、吟味した結果私は大陸で最も大きい帝国へ嫁に行くことにした。
国を出ることに対する躊躇いも多少はあった。
でも自分で選んだ道に後悔は要らない。
進むべき道を決めたならあとはただ進むだけ、それが生きるということだろう。
そうして私が帝国へ嫁いだ一年後、エンベロービらがいたあの国は滅んだ。
……否、厳密には、王家が倒れたのである。
王家の終焉、その引き金を引いたのはエンベロービと婚約したエリーナだったようだ。
エンベロービと婚約してからというものエリーナは王家のお金を使って好き放題遊び回るようになったそうで、エンベロービがそれを止められなかったこともあって王家の経済状況は急速に悪化、王家が民に嫌われたこともあってそこから王家は急激に弱っていったそう。
で、最終的には、民らによって王家は統治者の座から引きずり下ろされた。
ちなみにエンベロービとエリーナも民らの手で処刑されたそう。
私を無理矢理消し去ってくっついた二人だが、どうやら、彼らには幸せな未来はなかったようだ。
……ま、もはやどうでもいいことなのだけれど。
なんにせよ、私は私で前を向いて生きてゆく、それだけは決して変わることのない事実。
私は帝国で皆に愛されながら生きる。
そして私も国のために民のために働き生きていくつもりだ。
◆終わり◆
『幼馴染みと婚約していたのですが、職場の後輩を好きになったとか何とかで婚約破棄されてしまいました。』
「これからもよろしくね、ケイン」
「ああ、こちらこそ」
私たちは幼馴染みだった。
「結婚してもずっと……いつまでも一緒に笑顔で過ごしましょうね」
「もちろんだ!」
だから絆は確かだと思っていた。
いつまでも同じ方向へ視線を向けて歩んでゆけると信じていたのだ。
――なのに。
「悪いな、お前との婚約は破棄するわ」
婚約から数ヶ月が経ったある日の昼下がり、ケインはそんなことを言ってみた。
「そ、そんな」
信じられない展開に声が震える。
「ごめんな急で」
「理解が追いつかないわ、そんなの……どうして……!?」
いや、声だけじゃない。
脳までも震える。
身体もぶるぶると意識外で動きそうなほど。
「実はさ、職場の後輩で好きな人ができたんだ。今はもうその人のことしか考えられなくて。その子以外と結婚するとか、ごめんだけど、まったくもって考えられないんだ」
ケインは私ではない女性に惚れてしまっていた。
「だからお前とやっていくのは無理だって思ったんだ」
「そんなことって……」
「ごめん。けど、俺だって、こんなことになるとはずっと想っていなかったんだよ。だから嘘をついていたわけじゃない」
惚れた? それは免罪符なの? 惚れたなら、急にだったなら、何をしても許されると。そんな風に言うつもり? ……急にそんなことを言い出したら傷つく人がいることくらい想像できるでしょうに。婚約したことに対する責任は皆無なの? 破棄するわ、と言えばそれで終わり、だなんて考えが甘すぎるのではないだろうか。
「ごめんな、ばいばい」
ケインは最後そう言って、私の前から去ったのだった。
――以降、彼からの連絡はなかった。
◆
あれからしばらくして、ケインがあの後どうなったかの情報を手に入れることができた。
ケインは惚れた女性に接近し、強引に結婚を迫ったそうだ。しかし相手の女性は引いてしまって。あまりにも唐突な接近だったので、それを彼女が受け入れることはなかったそうだ。
で、ある時ついに、ケインは女性の父親に怒られてしまったらしい。
しかしそれでも折れないケイン。
その行動はより一層凄まじく積極的なものへと変わりゆく。
……だがやり過ぎた。
帰宅途中の女性を何度も待ち伏せしたり強引に触れようとしたりといったことをしたために不審者扱いされてしまい、しまいに通報されてしまったそうで。
そうしてケインは牢屋送りとなってしまったそうだ。
……馬鹿だな、本当に。
好きなのは分かる。惚れているのは。彼女しか見えない、それもまぁ人の感情だから仕方ないところはある。けれども、だからといって何をしてもいいのかといえばそうではないだろう。相手が嫌がっているならなおさらだ。
何事も相手の様子を見つつ進めなくては。
でも彼にはその知能がなかった。
だからこそどこまでも独りよがりな行動となってしまったのだろう。
◆
時の流れとは早いもので、婚約破棄からもう三年が経とうとしている。
私は先日ようやく結婚した。
一人の男性と正式に結ばれ式も挙げて夫婦となったのだ。
夫である彼はそこそこ良い家の出だ。
しかし私や私の家を見下すようなことはしない。
どんな時も誠実で、常に謙虚さを持ち、人と人の関わりを上下という型にはめて捉えることはしない――そんな人だからこそ、私は彼のことを好きになったのだ。
付き合ってからそれほど経っていない私たちなのできっとこれから知るお互いのこともたくさんあるだろうけど、でも、そういったものも含めて相手を想ってゆけたらと前向きに考えている。
◆終わり◆
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