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5話「前に一度会ったことがあるらしく」
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「実は前に一度お会いしたことがあるのです。貴女は気づいてはいらっしゃらなかったかと思われますが」
ティーカップを傾けながらオルフォは話し出す。
「数年前のことです。我が国にて開かれたとあるパーティーに参加されたこと、ありましたよね?」
オルフォに言われて、記憶の中を確認して回ってみる。
「あ、ええと……」
するとやがてたどり着いた。
その答えに。
「はい! そういえば! 参加しました、あれは確か……王族の方の成婚パーティーでしたっけ」
「ええそうです」
「やはり……! ああ良かった、記憶違いでなくて」
ここで間違ったことを言ってしまったらまたまた恥ずかしい思いをするところだった。
「あの時、バルコニーで休憩されているところをお見かけしたのですが」
「え、見られてました……!?」
「その横顔がとても美しくて、惚れてしまったのです」
「ええっ」
まさかの話の展開に驚く。
だがまぁそんなところか。
あちらは知っていてこちらは知らないとなるとそういうような状況だろう、大体は。
「ただ、貴女には婚約予定があったのだと後に知り、さすがにそこに割り込むことはできないなと思いまして……それで一旦は諦めたのです、縁がなかったと思おうと考えていました」
「それで、婚約破棄後に?」
「はい。婚約が破棄となったという情報が耳に入り、これはもう頼んでみる外ないなと」
目の前にいる彼は私を好んでくれている。
でも見た目だけ?
中身はただの情けない女で幻滅したのでは?
「……がっかりしたのではないですか?」
自然にそんな言葉が口から出て。
気づいた時には不安げな顔をさせてしまっていた。
「私は優秀な女ではありません。平凡ですし、周りと上手くやる技量もないですし、今日もあったようにたびたび変な失敗もやらかします」
「しませんよ、がっかりなんて」
「私、自分でも分かっています、情けなくてみっともない人間だと……」
言いかけて、ハッとする。
言葉を呑み込んだ。
「……す、すみません。このようなお話、面白くありませんよね。このような後ろ向きな話をしてしまって……申し訳ありません」
こんな感じで関わっていては駄目だ、暗い女と思われる。
もしかしたら王女としての役目を果たせるかもしれないこの大きな機会を逃すわけにはいかない。
「いえ、お話聞かせていただけるのは嬉しいですよ」
彼はそう言ってくれたけれど、何だか申し訳なくて。
「そ、それでは! そろそろ! どこかへ行きましょうかっ」
だから敢えてテンションを上げて話の方向を変える。
「よければまた城内を案内しますよ、どういうところが良いでしょう? まだご案内できていないところ……第二中庭とか? いかがでしょうか、あそこは一年中花が咲いています!」
言えば、彼は頬を緩めた。
「一年中花が――それはとても素敵ですね、行ってみたいです」
答えは前向きなもので。
「よ、良かった……! ではそちらへ行きましょう、ご案内します!」
心の中のもやが晴れてゆく。
何とか上手くやれている感じだろうか? ……定かではないが。
「一年中花が咲いているとはまた興味深い状態ですね」
「あそこは人工的に温度管理がされていますので」
「なるほど、そういうことですか。人為的に温度など調整されているのですね」
「はい!」
目的地へ到着するまでの間、私たちはそんなどうでもいいようなことを喋っていた。
でもその方がいい。
深い話をするよりどうでもいいような話をする方が心理的には楽だ。
ティーカップを傾けながらオルフォは話し出す。
「数年前のことです。我が国にて開かれたとあるパーティーに参加されたこと、ありましたよね?」
オルフォに言われて、記憶の中を確認して回ってみる。
「あ、ええと……」
するとやがてたどり着いた。
その答えに。
「はい! そういえば! 参加しました、あれは確か……王族の方の成婚パーティーでしたっけ」
「ええそうです」
「やはり……! ああ良かった、記憶違いでなくて」
ここで間違ったことを言ってしまったらまたまた恥ずかしい思いをするところだった。
「あの時、バルコニーで休憩されているところをお見かけしたのですが」
「え、見られてました……!?」
「その横顔がとても美しくて、惚れてしまったのです」
「ええっ」
まさかの話の展開に驚く。
だがまぁそんなところか。
あちらは知っていてこちらは知らないとなるとそういうような状況だろう、大体は。
「ただ、貴女には婚約予定があったのだと後に知り、さすがにそこに割り込むことはできないなと思いまして……それで一旦は諦めたのです、縁がなかったと思おうと考えていました」
「それで、婚約破棄後に?」
「はい。婚約が破棄となったという情報が耳に入り、これはもう頼んでみる外ないなと」
目の前にいる彼は私を好んでくれている。
でも見た目だけ?
中身はただの情けない女で幻滅したのでは?
「……がっかりしたのではないですか?」
自然にそんな言葉が口から出て。
気づいた時には不安げな顔をさせてしまっていた。
「私は優秀な女ではありません。平凡ですし、周りと上手くやる技量もないですし、今日もあったようにたびたび変な失敗もやらかします」
「しませんよ、がっかりなんて」
「私、自分でも分かっています、情けなくてみっともない人間だと……」
言いかけて、ハッとする。
言葉を呑み込んだ。
「……す、すみません。このようなお話、面白くありませんよね。このような後ろ向きな話をしてしまって……申し訳ありません」
こんな感じで関わっていては駄目だ、暗い女と思われる。
もしかしたら王女としての役目を果たせるかもしれないこの大きな機会を逃すわけにはいかない。
「いえ、お話聞かせていただけるのは嬉しいですよ」
彼はそう言ってくれたけれど、何だか申し訳なくて。
「そ、それでは! そろそろ! どこかへ行きましょうかっ」
だから敢えてテンションを上げて話の方向を変える。
「よければまた城内を案内しますよ、どういうところが良いでしょう? まだご案内できていないところ……第二中庭とか? いかがでしょうか、あそこは一年中花が咲いています!」
言えば、彼は頬を緩めた。
「一年中花が――それはとても素敵ですね、行ってみたいです」
答えは前向きなもので。
「よ、良かった……! ではそちらへ行きましょう、ご案内します!」
心の中のもやが晴れてゆく。
何とか上手くやれている感じだろうか? ……定かではないが。
「一年中花が咲いているとはまた興味深い状態ですね」
「あそこは人工的に温度管理がされていますので」
「なるほど、そういうことですか。人為的に温度など調整されているのですね」
「はい!」
目的地へ到着するまでの間、私たちはそんなどうでもいいようなことを喋っていた。
でもその方がいい。
深い話をするよりどうでもいいような話をする方が心理的には楽だ。
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