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第一章 そこは竜の都

二十七話

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「例えば……あれは十年林檎だ」
(……じゅうねん、りんご?)

 まだ少し気を詰めたまま、ヘイルが指し示した先へ顔を向ける。そして目を見張った。

(え?!)

 数本植わるそれらは、葉や枝ぶり、樹皮から見れば確かに林檎の木。けれど、あちらの木は花を咲かせ、隣は若い実ばかりのもの、また別の木は熟して赤く艶やかな実をつけ……。

(え、なんで、季節が……いえ、そもそもこれだけ近くのものをずれた生育、生育なの?)

 今が初夏である事と、自身が持つ知識と、目の前の光景が一致しない。アイリスはふらふらと、十年林檎と呼ばれた木に近付く。

「えぁ……あの、林檎、ではあるんですよ、ね……?」

 垂れた枝の先、アイリスの顔より僅かに高い位置にある一玉。

「ああ、一年で生る木が多いが、これは十年一回りで実が出来る」

 アイリスは、その熟れた林檎と鼻が触れそうなほど顔を寄せる。そして覗き込むようにして観察する。

「初めて知りました……十年林檎……その成長の仕方をする何か、理由は……」

 表面の紅は深く、艶とは別に星屑のような煌めきが捉えられた。

「これは人間には馴染みが無いのね。……理由ねぇ……」
「あまり考えた事はなかったな……だが、美味いぞ」

 側に来たヘイルが、少し上に生った林檎を無造作にもぐ。そしてとても濃い紅のそれを、アイリスに差し出した。

「え」
「ヘイル。こう、せめて綺麗にして、食べ易く」
「ああ、悪い」

 途端、林檎は白く大きな花弁に包まれる。その蕾が溶けながら開かれると、林檎は薄く花の形に盛られていた。

「ふぉ……!」

 白の花弁は皿になり、脇には小さなフォークが添えられて。

「これなら食べ易いか?」
「え、あっはい! ありがとうございます!」

 差し出された皿からフォークを取り、それほど大きくない一かけに刺す。

(中の色も濃い、蜜も凄い……)

 香りも少し爽やかさが強いだろうか。そんな事を考えながら、あまり口を開けないようにして林檎を食べる。

「…………!」
「私も一つ」

 横から伸びるブランゼンの手にも、いつの間にか小さなフォーク。

「結構良いのに当たったな」

 ヘイルは指で摘まんでいた。

「ええ、美味しい! ねえアイリス……アイリス?」

 アイリスは零れんばかりに目を見開いて、ひたすらにその一かけをもぐもぐと。

「アイリス?」
「! ……っん、失礼しました!」

 二人の視線に、アイリスは林檎を慌てて飲み込む。

「気に入ったか?」
「ええその、甘味と酸味のバランスがとても……! 果汁もどこまでも溢れて! それにっ!」

 アイリスは一度溜めて、力を込めて言った。

「凄い力が湧いてくるんです! 体が軽くなって、頭が鮮明になって、魔力を頂いた時みたいなぐわあって……!」
「……迂闊だったな」

 頬を紅潮させ勢い良く喋るアイリスを見て、ヘイルは呟く。

「これも何かしら、人に影響があるのか」


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