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第一章 そこは竜の都

三十一話

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「私はどうすれば……?」
「それは俺に乗れば良い」

 言われ、ヘイルを見、アイリスの目が徐々に大きくなって固まった。

「……?!」
「安定した飛行は長期の訓練がいる。アイリスにそれを今させるのは酷だ」
「……いえっあの! でもっ……畏れ多くも、私のような新参者が、それもここでは特殊な〈人間〉が、長に乗……せて頂くというのは……」

 高貴な方とダンスをするくらい? いやもっと、人に例えるととんでもない絵面になりそうで、アイリスはおののいた。

「……」

 ヘイルは黙り、どこか憮然とした雰囲気を醸し出す。

「あのねアイリス。私と一緒でも良いけれど」

 ブランゼンの言葉に、アイリスはほっと息を吐き、

「ヘイルと一緒の方が、より皆からアイリスへ注目が集まるわ」

 その息を止めかけた。

「良い意味でね。それにヘイルといるだけで、皆も何となく察しがつくし合点がいったりするから、その後がスムーズよ」

 耳に入った言葉を反芻し、ゆっくりと口を開く。 

「では、ブランゼンさんも、私は……その、ルーンツェナルグ様に、乗せて頂くべきだと……?」
「ル……そ、そうね。それが良いと思うんだけれど」

 アイリスがそうっとヘイルへ向き直ると、

「俺から言い出した事だ。咎めないし、咎めさせないし、皆もこれぐらいで何も言わないし、完璧な程に安全飛行をするぞ」

 伏せるような体勢で、ヘイルは右の羽をゆったりと動かした。

「……無理強いはしない。ここは身分の上下を緩めるよう動かしているから、乗っても断ってもアイリスが何かこうむる事もない。ブランゼンに乗っても、何も問題はない」

(いや、乗りたい、乗るのは是非してみたい。竜に乗るなんてどこかの大魔法使いみたい! いえ、そんな風に思っては失礼よ。あぁあ……ええと)

 アイリスは一旦深呼吸をし、頭の中のごちゃごちゃを隅にやる。そしてそれを一つずつ取り上げ、整理する。

「……」

 軽く呼吸を整えアイリスは、ヘイルに半歩近付き、軽く膝を曲げた。

「最初に仰った通り、乗せて下さい」
「そうか」

 ふわり、首を軽く持ち上げたヘイルから、柔らかく風が舞う。

「乗り方など気を付けますが、何かあればすぐ直します」
「……では、聞くが」

 まさかもう何かあるとは、とアイリスは身を固くした。

「何故先ほどルーンツェナルグと言ったんだ?」
「あ、それは……近くあろうとも、名で呼ぶのはやはり控えるべきかと、考えました」

 視線を下げながら、アイリスは声の調子を変えないように話す。

「それまで何度も呼んでしまったのに、とは思いましたが、今からでも気付けたのだから直すべきである、と」
「ならば、出来得ればまた、名で呼んで欲しいんだが」
「都の皆もヘイルヘイルって呼んでるわ。気にしないで大丈夫よ」

 薄々、そんな気もしていたが、この竜の都は本当に、今までと全然違う場所だ。アイリスの胸の奥で、そんな思いが淡く広がる。

「分かりました。これからも、お名前で呼ばせていただきます、ヘイルさん」

 この淡さも、もう何度目か。

「…………あー。で、乗り方だが」


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