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第一章 そこは竜の都
三十五話
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まだ少し遠いが、その様子がよく見えるまでには近くに来た。
浮遊する物体はそれぞれが店であるらしい。中に人が居り、声かけをしているのが見えた。そこへ竜が降りてきて、人の姿になって立ち寄る。逆に人が竜に変化し飛び立って、上にある店に入っていく。
二人入れば身動きが取れなくなりそうな、小さな所に何人も。
(中、中はどうなってるの……! そもそもどうやって浮いて、ああ下も!)
目を向けたアイリスの下に広がる、本当に正しく『広がる』市場。数々の布や簡易な箱型の出店が、大きな広場のようなそこに犇めくように立ち並ぶ。
(ここまで見て来た生活圏とは全く違う、ようにも見えるし……)
今まで見てきた、ゆったりとした竜の空間とは違って。その場を最大限に使ってこれでもかと詰め込まれたような、そんな市場だった。
空間に飽和するように、様々な声が飛び交う。店の間を縫う通り道は、上から見ると、もはや迷路の様相を呈していた。
「すごい……」
アイリスはただただ圧倒される。その景色がどんどん近くなり、
「そろそろだ」
ヘイルの一声にハッとなった。市場の上空、竜達は様子を見るように近付いてこない。下の市場の騒めきも、少し小さくなったようだった。
「降りるぞ。少し浮遊感があるが、そのままで問題は無い」
「は、はい!」
言われたものの、ヘイルの鱗にかかるアイリスの手に、知らず力がこもる。ヘイルとブランゼンがゆっくり降下し、辺りにほんの少し、金色が舞う。座ったままのアイリスはまたその滑らかな動きに驚き、
「っぇっ?」
かくん、と身体が傾いだ事に、一拍遅れて気付いた。そしてふわりと浮遊感。
(……これが言っていた……)
一瞬の恐怖の後、理解して安堵する。身体はまたすぐに安定し、アイリス達はもう既に、市場の中に立っていた。
「アイリス、平気だった?」
「はい、大丈夫そうです。ヘイルさんもありがとうござ、い、ま……」
ブランゼンにそう返し、ヘイルへと顔を向けようとして、
「…………え」
自分がヘイルに、片腕で抱かれている状態にあると、やっと気が付いた。何時もより随分、見える景色は広く、高い。
「いや」
そして、事も無げに言うヘイルの顔が近かった。いつも見上げるその顔が、アイリスのそれより下にある。
「…………?!」
ヘイルの右肩が腰に当たり、腿の下に支えのためだろう腕の感触がある事に気付く。そしてアイリスの両腕はいつの間にか、ヘイルの首と頭を軽く抱え込んでいた。
「へぁ、なん、い……?!」
アイリスは、言葉にならない驚きを口から漏らす。これは、この状態は、良いんだろうか? 駄目なのではないだろうか?!
父にも母にもしてもらった事のない体勢に、アイリスの思考は完全に停止する。
「? ……どうした?」
覗き込むように近付いて来る、どこまでも整った顔。瞳と瞳がかち合って、
「────……っ?!」
それによってか、止まった思考は強制的に動き出した。
アイリスは出来る限り身体を逸らし、ヘイルとの距離を取ろうとする。
「なんだ。落としはしないぞ?」
「いえ?! あの、えっと……?!」
上手く口が回らず、それどころかよりしっかりと抱え直された。
「……ヘイルさん、随分お久しぶりだけど……そっちはどちらさんだい?」
そんな事をしていたら、少し控えめに声をかけられた。
浮遊する物体はそれぞれが店であるらしい。中に人が居り、声かけをしているのが見えた。そこへ竜が降りてきて、人の姿になって立ち寄る。逆に人が竜に変化し飛び立って、上にある店に入っていく。
二人入れば身動きが取れなくなりそうな、小さな所に何人も。
(中、中はどうなってるの……! そもそもどうやって浮いて、ああ下も!)
目を向けたアイリスの下に広がる、本当に正しく『広がる』市場。数々の布や簡易な箱型の出店が、大きな広場のようなそこに犇めくように立ち並ぶ。
(ここまで見て来た生活圏とは全く違う、ようにも見えるし……)
今まで見てきた、ゆったりとした竜の空間とは違って。その場を最大限に使ってこれでもかと詰め込まれたような、そんな市場だった。
空間に飽和するように、様々な声が飛び交う。店の間を縫う通り道は、上から見ると、もはや迷路の様相を呈していた。
「すごい……」
アイリスはただただ圧倒される。その景色がどんどん近くなり、
「そろそろだ」
ヘイルの一声にハッとなった。市場の上空、竜達は様子を見るように近付いてこない。下の市場の騒めきも、少し小さくなったようだった。
「降りるぞ。少し浮遊感があるが、そのままで問題は無い」
「は、はい!」
言われたものの、ヘイルの鱗にかかるアイリスの手に、知らず力がこもる。ヘイルとブランゼンがゆっくり降下し、辺りにほんの少し、金色が舞う。座ったままのアイリスはまたその滑らかな動きに驚き、
「っぇっ?」
かくん、と身体が傾いだ事に、一拍遅れて気付いた。そしてふわりと浮遊感。
(……これが言っていた……)
一瞬の恐怖の後、理解して安堵する。身体はまたすぐに安定し、アイリス達はもう既に、市場の中に立っていた。
「アイリス、平気だった?」
「はい、大丈夫そうです。ヘイルさんもありがとうござ、い、ま……」
ブランゼンにそう返し、ヘイルへと顔を向けようとして、
「…………え」
自分がヘイルに、片腕で抱かれている状態にあると、やっと気が付いた。何時もより随分、見える景色は広く、高い。
「いや」
そして、事も無げに言うヘイルの顔が近かった。いつも見上げるその顔が、アイリスのそれより下にある。
「…………?!」
ヘイルの右肩が腰に当たり、腿の下に支えのためだろう腕の感触がある事に気付く。そしてアイリスの両腕はいつの間にか、ヘイルの首と頭を軽く抱え込んでいた。
「へぁ、なん、い……?!」
アイリスは、言葉にならない驚きを口から漏らす。これは、この状態は、良いんだろうか? 駄目なのではないだろうか?!
父にも母にもしてもらった事のない体勢に、アイリスの思考は完全に停止する。
「? ……どうした?」
覗き込むように近付いて来る、どこまでも整った顔。瞳と瞳がかち合って、
「────……っ?!」
それによってか、止まった思考は強制的に動き出した。
アイリスは出来る限り身体を逸らし、ヘイルとの距離を取ろうとする。
「なんだ。落としはしないぞ?」
「いえ?! あの、えっと……?!」
上手く口が回らず、それどころかよりしっかりと抱え直された。
「……ヘイルさん、随分お久しぶりだけど……そっちはどちらさんだい?」
そんな事をしていたら、少し控えめに声をかけられた。
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