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第二章 竜の文化、人の文化

八話

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 皆の反応にアイリスはそう返し、

「それに……私の感覚のみですが、恐らく年齢は皆さんの方に近い……百四十くらいだと思います」

 考えるように少し眉を寄せながら、呟くようにそう続けた。

(人の一年と竜の一年を、同じ感覚で語れない事は確か。竜の方が成長が遅い……とも言い換える事は出来るけど)

 成長速度が違うからといって、成熟度がそれに沿うわけでもない。

(この発展した都と、私の……人間の生活と。健康面も技術面も、享受出来るその質や量が、全然違う筈だもの)

 俯き加減に考え始めたアイリスを見やり、シャオンが首を捻る。

「そんなもんかな? もっと上に換算しても良い気もするけど。十五、六で結婚するとか聞いてるし」
「けっこん?!」

 子供達はまた目を剥く。アイリスはそれを受け、僅かに上を向きながら、言葉を選ぶように話し出す。

「それは……少し、早い方、ですね。姉も昨年婚約して、今十七ですが……結婚の時期は早くとも来年だろうと、聞いてましたし……」

 知識と経験を元に口を動かしながら、アイリスは首を捻る。

「男性は二十歳ほど、女性はもう二つ若いくらい……いえ、でも平民ですと……特に女性は、早く嫁ぐ傾向があります。貴い身分の方々は家柄によっては、幼い頃から婚約は結びますし……でも逆に三十近くなってから婚姻する方もいらっしゃいますし……」

 うーんと首を捻ったまま、アイリスは空を睨む。

「色々いるわけだ。そこはこっちと似てるね」

 シャオンに顔を向けられ、ブランゼンは軽く頷いた後、

「まあそうね……で、それはそれとして」

 ゾンプからズィンまでを眺めた。

「貴方達、ここまでで自分達の考えはどうなったかしら? アイリスとの勉強会、と言っていたけれど」

 言われ、子供達はまた顔を見合わせる。

「……それは……」

 ゾンプも目を彷徨わせる。モアや仲間達を見、そのまま流れで反対を向いた。

「あっ?!」

 そして、顎に手を当てアイリスへ真剣な眼差しを注ぐタウネを見て、思わず叫ぶ。

「にーちゃん?! ……まさかねーちゃんからアイリスに心変わりしたか?!」
「は?!」
「え?!」

 タウネとアイリスの声が重なった。タウネは慌てたようにゾンプを見る。

「なっ違いますよ! 今の事で、アイリスさんとより対等に話が出来るのではと考え……今テイヒは関係なくないですか?!」
「なんだ、びっくりした」

 顔を赤くしながら叫び返すタウネに、ゾンプは胸を撫で下ろす。

「あの、そのお話についてなんですが……」

 アイリスは全体を見回し、続きを口にする。

「タウネさんとの事は勿論、ゾンプさん達との勉強会も、検討しても良いのではないかと……」
「アイリス?!」

 それを聞いたブランゼンは目を見開く。同様にシャオンも、少しばかり驚いた表情になった。

「まじ?!」
「良いって事ですか?」
「じゃあ今からでも」

 子供達の顔が輝き出す。

「アイリス、貴方への負担が大きいわ。教わるより教える側に回る事になるわよ」
「すみません。ブランゼンさん達は私のために言って下さっていると、分かっているのですが……」

 アイリスは僅かに睫を伏せ、声を落とす。

「でも、ゾンプさん達の行動理由は……私と同じものに思えて……」

 知りたいという想い、願い。加えて、それを行動に移せる積極性を持つ彼ら。
 アイリスは眩しそうに、羨ましそうにゾンプ達へ目を向けた。

「それを退けるというのも……それに、教えるという行為も勉強に繋がりますし……その、そういう関わりの中から、学べる事も多いと思うんです」
「ほらこんなに言ってくれてるし! 良いじゃん!」
「俺らはありがたいけど」

 アイリスの言葉とゾンプ達の煌めく瞳に、ブランゼンは浅く溜め息を落とす。

「いや、皆さん。何事にも程度や時期があります」

 タウネが気持ちを入れ替えるように頭を振り、そう言った。

「興味関心を持つ事自体は問題にはなりませんが、何であれ勢い任せにしてはいけません。アイリスさん、申し訳ありません。私の発言が元でここまで話が飽和してしまった事、このような事態になった事、それらを収めるために提案をして下さっているのなら……」

 タウネの言葉に、アイリスは首を振る。

「いえ、そういった配慮ではなく、私の意思で発言しています。トゥリバーさん、ありがとうございます」

 アイリスは子供達へ向き直り、ゾンプから一竜一竜ひとりひとり、目を合わせていく。

「実際最初は戸惑いましたが……でも皆さんのお話を聞くうちに、考えが纏まりました。私がどれだけ人間について……皆さんの関心分野に関係する部分についてお教え出来るかは、未知数ですが……」

 そして柔らかく微笑んだ。

「やってみたいと思いました。勉強会」


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