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第三章 生誕祭
一話
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「随分上達したな。スムーズに翼有りになれるようになってきた」
ヘイルの言葉に、
「ありがとうございます!」
亜麻色の鱗とヘーゼルの瞳の竜は、翼を動かし、尻尾を振って、元気よく答える。
「後は、しっかりと安定した飛行、着地が出来るように、練習を重ねるだけだ」
「はい、頑張ります!」
ヘイルの言葉に、亜麻色の竜──アイリスは、嬉しそうに返事をした。
モア達に、竜の勉強を教えてもらい始めてから一週間ほど。アイリスはその勉強と並行して、翼有りの姿──要するに、人が言う竜の姿──へと移行する練習も始めていた。
もちろんこの事はウェイレにも話してあり、承諾を得ている。その際、竜の姿になったアイリスをファスティが読み取ったら、体内構造が竜のそれと同じだという事が判明し、ウェイレはもとよりアイリスもヘイル達も、それに驚く事になったが。
「おーい、ヘイルー。そっちが一段落したんなら、こっちにも手を貸してよー」
シャオンが、間延びした声でこちらに呼びかけてくる。
「じゃあ、ここからは私が見るわ。良いかしら? アイリス」
「はい、大丈夫です。ブランゼンさん、お願いします」
竜の姿のまま、コクリと頷いたアイリスを見て、ブランゼンはヘイルを見やる。
「ですってよ?」
「ああ、分かった。じゃあ、シャオンの応援に向かうか」
ヘイルはシャオン達、というか、シャオンにまとわりつく子竜達へと視線を向け、そしてまた、アイリスへと顔を向け直した。
「それじゃあ、何かあったら言うんだぞ」
「はい、分かりました」
「何かって何よ。私に不安でもある?」
「いや、そういう訳では無いんだが」
ブランゼンとそんなやり取りをし、
「では、頑張れよ」
と、アイリスの頭を、鱗と角に沿って撫でる。
「は、はい」
それにドギマギするアイリスを置いて、ヘイルは改めて、シャオン達の元へと歩いていった。
「……それにしてもアイリス。あなた本当に、飲み込みが早いわね」
休日に呼び出されたシャオンと、そちらへ向かうヘイル。二竜に竜の体術を習おうとせがんでいるゾンプ達を見ていたアイリスは、ブランゼンのその言葉に振り返る。
「いえ、そんな。ここまで来れたのは皆さんのおかげです」
フルフル、と首を振り、アイリスはめいっぱい翼を広げる。
「でも、〈飛ぶ〉という行為は、やっぱりイメージが掴みにくくて……全然進まなくて、すみません……」
「謝る事なんてないのよ、アイリス。あなたは私達とは、今まで生きてきた環境が違うもの」
ブランゼンはそう言って、アイリスの頭を撫でる。
「竜はならほとんどは、生活の中に飛行がある。だから自然と、その動きと魔力の流れが身に付いていく。けれど、あなたは人間。生まれながらにして飛ぶという行為からは遠いんだって、アイリスも自分で分析していたでしょう?」
「……はい」
そうは言われても、やはり少し落ち込んだままのアイリスへ、ブランゼンは微笑み、目線を合わせるためにしゃがみこんだ。
「アイリス。あなたは努力してる。その結果も出てる。翼無しから翼有りになれるんだから、基礎は出来てるのよ。……さあ、自分の魔力の流れを感じてみて?」
「はい」
アイリスは、集中するために目を閉じる。そして、自分の内外に流れる魔力を感じようと、感覚を研ぎ澄ませた。
(……体全体を包み込んでいる、これが、魔力。そこまでは、分かるんだけど……)
アイリスは少し唸る。
いつも、そこからが難しいのだ。
(これを、飛行の補助に使う……。ヘイルさんにも、ブランゼンさんにも、シャオンさんやみんなにも見せてもらった。……あの、魔力の流れ方を……)
透明で亜麻色な翼に、魔力を纏う。角の先から尾の端までを、満遍なく魔力で覆う。
アイリスは、目を開き、翼を広げ、
「……行きます」
柔く逆巻く風の中心で、羽ばたいた。
ヘイルの言葉に、
「ありがとうございます!」
亜麻色の鱗とヘーゼルの瞳の竜は、翼を動かし、尻尾を振って、元気よく答える。
「後は、しっかりと安定した飛行、着地が出来るように、練習を重ねるだけだ」
「はい、頑張ります!」
ヘイルの言葉に、亜麻色の竜──アイリスは、嬉しそうに返事をした。
モア達に、竜の勉強を教えてもらい始めてから一週間ほど。アイリスはその勉強と並行して、翼有りの姿──要するに、人が言う竜の姿──へと移行する練習も始めていた。
もちろんこの事はウェイレにも話してあり、承諾を得ている。その際、竜の姿になったアイリスをファスティが読み取ったら、体内構造が竜のそれと同じだという事が判明し、ウェイレはもとよりアイリスもヘイル達も、それに驚く事になったが。
「おーい、ヘイルー。そっちが一段落したんなら、こっちにも手を貸してよー」
シャオンが、間延びした声でこちらに呼びかけてくる。
「じゃあ、ここからは私が見るわ。良いかしら? アイリス」
「はい、大丈夫です。ブランゼンさん、お願いします」
竜の姿のまま、コクリと頷いたアイリスを見て、ブランゼンはヘイルを見やる。
「ですってよ?」
「ああ、分かった。じゃあ、シャオンの応援に向かうか」
ヘイルはシャオン達、というか、シャオンにまとわりつく子竜達へと視線を向け、そしてまた、アイリスへと顔を向け直した。
「それじゃあ、何かあったら言うんだぞ」
「はい、分かりました」
「何かって何よ。私に不安でもある?」
「いや、そういう訳では無いんだが」
ブランゼンとそんなやり取りをし、
「では、頑張れよ」
と、アイリスの頭を、鱗と角に沿って撫でる。
「は、はい」
それにドギマギするアイリスを置いて、ヘイルは改めて、シャオン達の元へと歩いていった。
「……それにしてもアイリス。あなた本当に、飲み込みが早いわね」
休日に呼び出されたシャオンと、そちらへ向かうヘイル。二竜に竜の体術を習おうとせがんでいるゾンプ達を見ていたアイリスは、ブランゼンのその言葉に振り返る。
「いえ、そんな。ここまで来れたのは皆さんのおかげです」
フルフル、と首を振り、アイリスはめいっぱい翼を広げる。
「でも、〈飛ぶ〉という行為は、やっぱりイメージが掴みにくくて……全然進まなくて、すみません……」
「謝る事なんてないのよ、アイリス。あなたは私達とは、今まで生きてきた環境が違うもの」
ブランゼンはそう言って、アイリスの頭を撫でる。
「竜はならほとんどは、生活の中に飛行がある。だから自然と、その動きと魔力の流れが身に付いていく。けれど、あなたは人間。生まれながらにして飛ぶという行為からは遠いんだって、アイリスも自分で分析していたでしょう?」
「……はい」
そうは言われても、やはり少し落ち込んだままのアイリスへ、ブランゼンは微笑み、目線を合わせるためにしゃがみこんだ。
「アイリス。あなたは努力してる。その結果も出てる。翼無しから翼有りになれるんだから、基礎は出来てるのよ。……さあ、自分の魔力の流れを感じてみて?」
「はい」
アイリスは、集中するために目を閉じる。そして、自分の内外に流れる魔力を感じようと、感覚を研ぎ澄ませた。
(……体全体を包み込んでいる、これが、魔力。そこまでは、分かるんだけど……)
アイリスは少し唸る。
いつも、そこからが難しいのだ。
(これを、飛行の補助に使う……。ヘイルさんにも、ブランゼンさんにも、シャオンさんやみんなにも見せてもらった。……あの、魔力の流れ方を……)
透明で亜麻色な翼に、魔力を纏う。角の先から尾の端までを、満遍なく魔力で覆う。
アイリスは、目を開き、翼を広げ、
「……行きます」
柔く逆巻く風の中心で、羽ばたいた。
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