竜の歌

nao

文字の大きさ
上 下
21 / 40

21 五歳児の試練 9 ※

しおりを挟む
 豪華メンバーは有能な家令に任せておいて、僕は執事にお願いして客達を送り出す準備をする。
 玄関ホールに移動して、大広間から出てくるお客様一組ずつに、メッセージカードを添えたお土産を手渡し、御礼を言ってお見送りする。
 お土産は僕が作った御欠おかきだ。この世界の所謂餅米を探す所から始め試行錯誤した渾身のおやつである。他の国ではどうか分からないが、ヘーラルには醤油も無く、作るとなると大豆からで時間が必要だし、作り方もあやふやなので味付けは塩味にした。
 今日は甘い洋菓子ばかりだったからね。
 子供も大人もすごく喜んで受け取ってくれたけど、大人は違う意味で喜んでた様な気がする……。
 最後はファビオ君とイシス君だ。
 ファビオ君が右手を差し出したので僕の右手を重ね握手する。
「誕生日おめでとう。これから度々顔合わせる事になるだろうからよろしくな」
 ニカッと笑う彼は余所行きの仮面を外してお祝いを言ってくれた。
「よろしくお願いします」
「おいおい、俺達ガキ同士は堅苦しいのは無しにしようぜ、な?」
 彼は僕よりも九歳も年上なのに「同士」と言ってくれるのが嬉しい。
「ありがとう!すごく嬉しい。僕のことはルスランって呼んで下さいね」
「お、おう。そんじゃ俺の事もファビオな」
「うん……ファビオ」
 本当に嬉しい。だって身内以外で始めて出来た友達……だよね?僕は学校には通ってないからこんな機会めったにないし。
 照れてちょっともじもじしてしまった。
「お誕生日おめでとう御座います。今日はお会いできて……良かった」
 イシス君はやっぱり礼儀正しく右手を胸に当ててお祝いを言ってくれた。
「おーい、堅ぇよ。大人はいねーし会は終わったんだから、柔らかく行こーぜイシス。ルスランもその方が良いよな?」
「はい!あの、仲良くして頂ければ嬉しいです……駄目でしょうか?」
 イシス君は真面目そうだから礼儀には厳しそうだ。年下の僕と馴れ合いたくは無いと考えているかもしれない。
 恐る恐る上目で表情を確かめる。
「そ、な、駄目だなどと、そんな事はあり得ません。私などで宜しければ……」
「おー、おー、珍しいじゃねーか、お前がこんなに動揺……ぐふぅ!」
「え?大丈夫?ファビオ」
 ファビオ君が右の腰を押さえて前屈みになった。
「ルスラン様、こいつは大丈夫です。信じられない程頑丈な奴ですから。どうかお気になさらずに」
「あの……イシス様も僕のことはルスランと呼んで頂けますか?」
「あ、そ、その……わかりました……ルスラン」
「はい!」
「あ……私の事も敬称を付けずに呼んで下さい」
「有り難う……イシス」
「ぐぅっ!げほっ、げほ!」
「え、イシス?大丈夫!?」
「あーだいじょーぶだいじょーぶ、つばが気道に入って咳き込んだだけだから」
 ファビオがイシスの背中をトントン叩いている。
 そのままファビオ君がトントンしながら「じゃーなー」とイシス君を押して邸を出て行った。
「大丈夫かな……」



 ノーヴァ家には各々家の馬車で来たが、帰りはオーヴァン家の馬車にファビオが乗り込み、デラボア家の馬車は後から付いてくる。
 ちなみにファビオが勝手に断り無くオーヴァン家の馬車に乗り込んだ。
「いや、参った……滅茶苦茶可愛いかったなおい」
 ファビオは左手を額にあててさっき至近距離で見たノーヴァ家の四男の顔を思い出す。
「学校にも綺麗なのは一杯いるし、それこそ世の中より良く見せる為にしこたま金掛けてる奴らがごまんと居るけど、ありゃ本物だ」
 イシスも同感だった。あれほど純粋な美しさを持つ者を見たことが無い、と。
「つかお前、よくも脇腹突いてくれたな。お前の鞘クソ重いだろーが!」
 イシスは鍛錬の為に通常の物より鞘の重量を重く作らせている。刀身自体も通常より二割程重い。
「その鞘から剣を抜かなかった事を有り難いと思え」
「いやだってお前、めずらしくオロオロしてたじゃないか」
「していない」
「あの子の可愛さにやられたんだろ?ほっぺた桃色にして、うるうるお目々で上目使いに見つめられて名前呼ばれりゃ……な?」
「下衆の勘繰りはやめろ」
「じゃあお前、何も感じなかったっての?」
「それは当然、とても容姿に恵まれた子だとは思う」
「えー?咳き込んでたじゃん」
「やめろ。馬車から落とすぞ」
「名前呼ばれた時、雷に打たれたみたいに全身固まってたぞ?」
 イシスが自分と反対側の馬車の扉を開けてファビオをぐいぐい足蹴にして外へ落とそうとする。
「わ!馬鹿お前、危ねえ!危ねえって!」
 必死に両手で馬車にしがみつき、体勢を立て直して扉を閉める。
「はあ、はあ、お、おまえ……今半分本気だったろ」
「フン」
 イシスは根っからの真面目な性格だからもしかしたら本当に自分の感情の動きに気付いていないのかもしれないが、六歳から八年の付き合いになるファビオからすれば明らかなのだが。
 たしかにルスランは稀に見る美人だが、ファビオは知っている。ノーヴァ家の面々がどれだけ怖い存在かを。
 ファビオもイシスも自身のみならず両家ともにドラグーンはおらず、イシスにおいては身近にも居ない為あまりその本質を実感した事がない。
 だがファビオはノーヴァ家に訪れる度に言葉にはできない威圧感を感じた。

 世に言う竜気である。

 公爵とその息子三人は竜気を抑えて日々過ごしているが次男と三男はまだ若く、何度かぞっとする程の恐怖を感じたことがある。
 見た目にはまったく変化が無いのに、明らかに死に繋がる恐怖というものを彼らから感じたのだ。
 多分ファビオに向けられたものではないだろうが、そんなことは関係が無い。
 竜気は命あるもの全てに影響を与えるのだ。
 だから出来るだけ公爵家の男四人の機嫌を損ねることはしない様にファビオは心掛けている。
 会の間中、大の男が小さなルスランだけを見つめていた。それはそれは熱い眼差しで。
 家同士の付き合いでこれからも顔を合わせることは避けられないだろうから、あの四人とルスランの間に入る事だけはしないと今日ファビオは心に誓った。
 だがイシスはノーヴァ家の男達のことを知らない。まだ未成年で社交界にも出ていない為今日まで会ったことが無かったのだ。
 自分はあの家の面々とは深入りしたくはないが、親友がもし本気になったとしたら、イシスを応援したいとファビオは思うのだ。
「ほら私の邸に着いたぞ。自分の馬車に戻れ」
 オーヴァン家の門前で馬車が止まり、御者がファビオ側の扉を開けてくれる。
 よっこいしょと馬車を降り、後ろで待つデラボア家の馬車に向かおうとしてイシスに向き直る。
「俺はお前の味方だよ」
「は?あ、おいファビオ?!」
 言える事は色々あるが、それはイシスが本当の本気になった時に言えば良い。
 今言ったとしてもイシスが自分の感情を認めないだろう。
 自分の馬車に乗り込み溜息を吐く。
「お前が望むなら力になってやるよ。……俺はおっかなくてとてもじゃないが手を出す気にはならないけどな……」
 ノーヴァ家の男達の竜の瞳を思い出してファビオの体はぶるりと震えた。



 王家と将軍以外の全ての客を送り出して扉が閉まる。
「ニア」
 後ろに控えていた侍従を呼ぶ。
「はい、ルスラン様。何でしょうか?……ルスラン様?」
 返事が無いのでニアが前に回り込んでくる。
「ごめん……気分が……」
 くらりと目眩がしてニアが僕の両腕を掴んで支えてくれた。僕はよろめいたらしい。
「ルスラン様、熱が!今タイニーさんを……」
 有能家令を呼びに行こうとするニアの手を掴んで引き留める。
 有能な家令は難しい問題を解決するのに忙しいのだから邪魔をしてはいけない。彼はその有能さを発揮できる場所で働いているのだから。
 決して魔窟に放り込んだ人身御供ではない、決して。
 ニアの手を借りて部屋へ……行こうとしたらおんぶされてしまった。
 着替えは自分で出来るからと、ニアには飲み水を用意してもらう。多分たっぷり必要になるだろうからボトルで何本か持ってきてもらう。
 いつもよりゆっくりとした動きで寝間着に着替えてベッドに入る。
「ふぅ~……」
 本当なら王族の方々こそお見送りしなければいけないんだろうけど、あれが限界だった。彼らの一悶着に終わりは見えなかったし、あのまま待っていてもぶっ倒れていただろう。
 きっとタイニーが上手く立ち回ってくれる筈。
 会の予定時間はかなり超過していたし、予定外で予想外の事が沢山起こって精神的負荷もかなりのものだ。
 熱が上がってきているのが分かる。
 ああ、しまった。横になる前に薬を飲んでおけば良かった。
 でも今更起き上がる気力は無い。
 諦めて目を瞑った。



 ベッドの片側が沈むのを感じて目が覚める。
「……パパ?」
「しー……いいからそのまま。お熱が出ちゃったね」
 両頬とおでこと唇にキスした父様は可哀想にとおでこを合わせる。
 父様も寝間着に着替えているから多分そのまま一緒に眠ってくれるんだ。
 風邪を引いても父様や兄様達はいつも一緒に眠ってくれる。感染してしまうからいいよと言っても、自分たちは丈夫だから平気だと言って寄り添ってくれるのだ。
 実際、父様達がその後風邪を引いた事は一度も無い。
 喉が渇いて父様の方を見ると心得たようにサイドテーブルに置いてあるボトルからグラスへ水を注ぐ。
 ベッドに戻って僕の上半身を起こし右腕を回して支えながら、父様がグラスの水を口に含んだ。
 回した右手の人差し指で僕の顎を持ち上げて上を向かせ、ゆっくりと唇を合わせる。
 熱が出て喉が腫れると水すら飲むのも大変になる。
 そんな時は父様が水を飲ませてくれる。
 竜族の舌は個人差はあるが伸縮させる事が出来る。
 合わせた唇から父様の舌が入ってきて、細く長くなった先が僕の喉を優しく抑えて水を通す道を開いてくれる。かなりの細さなので嘔吐えづいたりはしない。
 開いた喉をぬるくなった水が父様から僕へと注がれていく。
「ん……ん、ん……」
 ボトルの半分程を飲ませてもらうとかなり楽になった気がするし、いつも水を飲ませてもらうと頭の中がほわほわして気持ち良くなる。
 何故か父様に飲ませてもらう水は普段より美味しく感じて、気付けば水を飲むと同時に繋がっている父様の肉厚な舌をちうちうと吸ってしまう。
 そうするともっと水が美味しくなるのだ。
「ふふ、美味しかったかい?」
「うん……パパ……ありがとう……」
 僕の唇に残る水分をちゅうっと吸い上げた父様は、サイドテーブルの引き出しから薬の入った紙袋を取り出した。
「今日はとても大変な一日だったからね。念の為にお尻にお薬入れようね」
 とうとうこの日がきた。
 フェンネル先生は解熱剤として飲み薬と座薬の両方をくれたのだ。高熱が出たら飲み薬よりも座薬を使いなさいと言われている。
「パパ……痛い?」
 実は僕は前世でも座薬を使ったことが無い。
「大丈夫だよ。パパがルゥに痛い事する筈ないだろう?パパに任せて、ね?」
「うん……」
 父様の言葉の通り僕は自分で動く必要が無かった。
 体の右側を下に横向きにされて、下着と寝間着のズボンを一緒にするりと剥かれる。
 父様は左手で僕の左足を軽く持ち上げ、僕の後ろに顔を近づけた。
 息を感じるほど近い。
「や……パパ、そんなに見ないで」
「駄目だよルゥ。ちゃんと、しっかり、パパが見て確認しないと。ルゥを傷付けたりしたら後悔してもしきれない」
「ん……」
 兄様達は丈夫で健康だから、父様も薬をお尻にいれるのは初めてなのかもしれない。だから凄く慎重に気を遣ってくれているのかな。
 父様の強い視線を感じながら、袋から出した白くて細長い薬が僕の後ろの窄まりに当てられているのが分かる。
「じゃあ入れるよ」
「うん……にゃっ!」
 ちゅぷっ、と薬ごと指が入った瞬間、勝手に口から変な声が出た。
 父様の指の形がリアルにわかる。
「痛くないかい?ルゥ」
「んん……う、ん」
 頷くと、ぐぐぐっとさらに奥へと指が入り込む。
 薬を入れているのに太くてゴツイ父様の指しか分からない。
「ああ、ん」
 今まで感じたことのない感覚にどうすれば良いのか分からなくなる。
 苦しい様な気がするけれど、我慢が出来ないほどの酷い感覚でもなく、何だかとても……たまらない感じ。
「ああ、ほらほらルゥ、そんなに力を入れたら駄目だよ。お薬が出てきちゃうよ」
「うぅん、ん」
 そうは言われてもしようと思ってやってる訳じゃない。体の中が勝手に動くんだ。
「ちょっと待ってて。イキんじゃ駄目だよ」
 こめかみにキスした父様はサイドテーブルの引き出しから綺麗な細工のガラス瓶を取り出した。
「お薬が中に入っていないと意味がないから、もっとお尻の奥の方に入れようね」
 クチュリ。
 再び入ってきた父様の指は濡れていた。
 さっき出した瓶に入っていた物で濡らしたんだろう。
「ルゥ、痛くないかい?」
「うん、痛くない、ん」
 薬を奥へ奥へと送るように指先がくにゅくにゅと小刻みに動く。
「あ、あ、ん」
「痛くない?」
 うん、うん、と頷く。
 指が小刻み動くからそれに合わせて体もビクビク反応してしまい、お尻をきゅうぅっと窄めて指をきゅうきゅうと締め上げる。
 そうすると父様の硬さや太さ、関節の節なんかを視覚でとらえるよりも何故かはっきりと認識出来てたまらない気持ちになる。
 もっときゅうっとすれば、もっと硬くて太いことを感じることが出来るかもと体が判断してしまうみたいだ。
「……じゃあ……気持ちいいのかな?」
「う、ん……きもち、い……あ」
「ルゥ……」
「あ……パパ……」
 たまらなくなって、なんだかよく分からなくなってきて、自分の人差し指の関節を噛みしめる。
「だめだめ、ルゥの可愛い指が傷ついちゃうよ。噛むならパパの指を噛みなさい」
 外された指の代わりに父様の指を歯の間に挟まれてつい噛んでしまった。
 急に何倍もの太さの指に代えられたから歯が深く刺さってしまう。
 ビックリして自分が付けた傷を直そうと舐める。
 舐めて歯形が消える訳でもないのにめる気にはならない。
 父様の指を舐めるペチャペチャという水音と僕のお尻の中でクチュクチュと動く父様の指の音が体の中を通って頭の中に響き渡る。
 僕は何かしっかりしたものに縋りたくて、舐めていた指を口に含んで舌で捕らえ、確かな存在を得る為にちうちうと吸い始めた。
 後ろから大きな体で包まれると父様の体温と匂いと竜玉の優しさに守られて得体の知れない不安が消えていき、産まれて初めての感覚に飲み込まれていく。
 それはだんだん大きくなって爆発してしまうと思った瞬間、僕は白い世界に包まれた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

甘い婚約~王子様は婚約者を甘やかしたい~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:385

地下組織の優秀な性欲処理係

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:263

女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:686

嫌われ者の長男

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:809

婚約破棄させてください!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:3,011

処理中です...