194 / 311
うちはうち よそはよそ
7
しおりを挟む「伊邪那美様にお会いしたんだって? 大丈夫だった?」
「……うん」
「なに? 今の間は」
「その子、忘れてたんじゃない?」
「そいつならあり得るな」
「きこえてる! きこえてるから! それとも、それ、きこえるようにいってる!?」
薫くんも海斗さんも、ちょいちょい喧嘩するくせに、ちょいちょい仲良くなるよね!? 主に私への誹謗中傷で!
今度こそいじけてやろうか。そして巳鶴さんに怒られてしまえばいい。そんで、今度瑠衣さんのお店に行った時に黒木さんにチクってやる。
「やってもいいけど、その日からオヤツ抜きだからね」
「しないよ? しない。ぜったいしない」
誰? 薫くんにそんな酷いことしようと考えたのは。
けしからん。実にけしからんよ、まったく。
……あぶなかったー。読唇術ならぬ読心術が使えたんだった、ココの人達は。
今度教えてって言ったら教えてくれるかなぁ。海斗さん辺りは意地悪して違うことを教えてきそうだから、劉さん辺りに頼もっかな。
ふっふっふ。神様の力も使えて、奏様に怪我とかの治療方法とか聞いて修行して、目も耳も鼻も良くて、幼児ばりの愛嬌もあって。そこに読心術も使えるとか。大活躍ですやん、私。
どうしよう。今まで以上に引っ張りだこになっちゃう? モテてモテてツライ。一生のうちで一回は言ってみたい言葉、言えちゃう? 言えちゃうの? んふふー。
「顔、にやけててキモイんだけど」
おっとー。薫くんは料理の腕だけじゃなくて、言葉の方も新年早々冴えてるねぇ。めっちゃ研ぎ澄まされてるよ。痛い。痛いよ、心が。
「その分だとなんとかなったみたいね。良かった。……そうだ。雅の様子を見れて結果オーライだけど、どうしてこっちの世界に繋げたの?」
「コレの姿を見れば少しは大人しくなるだろうと思ってな」
「これ? 自分の娘を、これ? アンタって人……じゃあないけど、どうしてそう一々私の気に障ることを」
おぉっと、私の頭上で第二ラウンドが始まったようです。カーンと高らかに試合開始のゴングが鳴り響きましたー。実況はこの私、雅が精一杯務めさせていただきまっす!
が、この勝負、結果は目に見えている。もちろん、言わずもがなのヤツですとも。
「……しばらく私、貴方と口きかないから」
「なん、だと?」
「前も言ったけど、娘を危険な状況に陥らせるようなことをする父親、父親失格よ」
「口を、きかぬ、と? きかぬ、とは? きかぬとは、どういう……」
お母さんに追い縋るような目を向けるアノ人。
「雅、どういう状況でそうなったのか教えてくれる?」
「……はーい」
お母さんはわざとらしくよろけるアノ人を完全無視しだした。
部屋の隅によろよろと向かい、膝から崩れ落ちたアノ人は何やらブツブツと呟いていて、正直怖い。
ほんの僅かの間、蚊帳の外に置かれていた夏生さん達は、ほんの少しアノ人へ憐憫とも呆れとも取れる表情を向けていた。けれど、お母さんが殊の外真面目に聞く体勢に入ったので、それぞれ居住まいを正した。
「いざなみさま、わたしに、はなしあいてになってくれないかっていってた」
「話し相手? それから?」
「うーん。あのひとがきて、いざなみさまがおこっちゃって、あやめをよんだらおこしてくれたー」
「そう。綾芽さん、どうもありがとうございました」
「いや。かまへんよ。そういう約束やったし」
お母さんが綾芽に向かって頭を下げると、綾芽も手をヒラヒラと振って見せた。
綾芽、面倒くさがりだけど、こういう約束はちゃんと守ってくれる。さすが、一つの部隊?を任されているだけあるんだよなぁ。面倒くさがりだけど、やる時はやる、みたいな。
「約束?」
「あ、うん、そう。あのね、わたしのゆめにね、おんなのひとがでてくるの。きものをきたおんなのひと。たぶんこどもだとおもうけど、あのこをあいしていたのって。だから、わたしがつたえればいいじゃんって。いま、せっとくして、どんなこをさがしてるのか、じじょーちょうしゅちゅう。それで、なにかあったときにちゃんとゆめからでられるように、あやめがおこしてくれるってやくそくだったの」
「……また、自分から首をつっこんで」
完全に呆れ返っているお母さんに、さりげなく周りを見ると、海斗さんも大きく何度も頷いていた。
でもさ、でもさ。そんなこと言ったって。
お母さんの膝の上で足を抱え、身体を前後に揺らした。
「だって、ないてたから。かわいそうだったから」
「……そう。あまり無理はしないようにね」
「だいじょーぶ!」
お母さんなら分かってくれると思ってた!
やっぱりお母さんだよなぁ。……ん?
いつからか、アノ人が私とお母さんをじっと見ていたから、お母さんにギュッと抱き着いて見せてやった。
どうだ。羨ましかろう? お母さんに抱き着いて怒られないのは私だけだもんねー。ふふん。
「お前は父親と和解したかと思えば喧嘩して、喧嘩したかと思えば和解して。忙しい奴だな」
「わかい? ことばむずかしくてわかんない」
だって私、小さいから。
キリッとした顔で言うと、夏生さんは何とも言えない顔つきをして目をそらした。
「問題が山積みすぎて、なんかヤな感じだな」
「問題の一つを引き込んできた奴が言う台詞じゃないよね」
「コトバムズカシクテワカンナイ」
私がさっき言った言葉を真似した上に、なんか腹立つ顔芸付き。おちゃらける海斗さんに、薫くんが冷たーい視線を送ってる。
……おバカなことしてるなぁ、と、ちょっと大人になった気持ちで生温かい目で見てあげた。上から目線だけど、海斗さん相手ならいいっかなって。ダメかな?
クフフって笑ってると、上からお母さんの溜息が聞こえてきた。
「伊邪那美様の方はあの人に責任持ってどうにかしてもらうとして、その女の人が探している子を見つけなきゃ。いつまでも夢の中に出てこられても困るから」
「キーは鱗、だな。それ以外はそこら中にいる」
「存外、お前だったりしてなー」
「残念。それはないわ」
海斗さんが机に肘をついて綾芽に顔を向けた。
それに綾芽は肩を竦めて返した。
「自分をあの子言う女に覚えないし。第一……あ、いや、なんもないわ」
お母さんの膝の上から目を向ける私と目が合い、綾芽はたまに浮かべるよく分からない笑みを浮かべて自分の言葉の続きを遮った。
寂しいような、悲しいような。
私は綾芽の笑顔が好きだけど、この笑みはあんまり好きじゃない。ウソ。全然好きじゃない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
809
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる