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(11)攻防戦的なアレコレ

一体どう言うシチュエーションだよ

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 身体ごとこちらへ寄せてグイグイ迫ってくる信武しのぶをギューッと腕を突っ張ってあちら側へ押しやりながら懸命に言ったら「はぁ!?」と頓狂とんきょうな声を浴びせられる。

「まさか俺、記憶喪失の間に不能になっちまったって事か!?」

 言うなり心配そうに自分の下腹部を見下ろす信武に、日和美ひなみは思わず「そんなことありません!」と叫んでから、とんでもないことを口走ってしまったと真っ赤になる。

 いや、でも……確かに日和美がルティとして添い寝を余儀なくされたあの朝。
 恥ずかしかったので考えないようにしていたけれど、不破ふわの下腹部からは確かに男性としてのいわゆる朝の生理現象があったのを何となく肌で感じたのを覚えている日和美だ。

 だからこそ不破だってきっと、あのとき日和美に不埒ふらちなことをしなかったか心配したのだろう。


「なぁ、その口ぶりからすると……もうその辺はとお試し済みってこと?」

 何故か「何か……すげぇムカつくんだけど」と付け加えられた日和美は、全身がカッと火照るのを感じながら首をぶんぶん振った。

「そっ、そんなわけないじゃないですかっ。不破さんは付き合ってもいない女の子にそういう下世話なことをする人じゃありません! ――あ、あの日は……色々あってただ添い寝しただけです!」

「……添い寝?」

 日和美ひなみは恥ずかしさをそそぎ落としたい一心だったから、自分が告げた不用意な発言で信武しのぶの眉が不機嫌そうにピクッと動いたことになんか微塵みじんも気付けなかった。

「なぁ、その添い寝とやらは一体どっちから仕組んだんだ?」

「え? どっちから……って」

 信武の声があからさまにワントーン低められたことに気が付いてやっと。恐る恐る彼の顔を見上げたら、怖いくらい真剣な目で見下ろされていて……期せずして心臓がトクンと跳ねてしまう。

 これはきっと怖くてそうなったに違いないと、必死に自分へ言い聞かせながら、日和美は懸命に言い募った。

「わ、私がっ。……眠ってる不破ふわさんのお顔を不用意に覗いたりしたから……その、る、ルティちゃんと間違えられて……。それで……グイッと」

「は? お前……寝てる男の顔覗き込んだのか。……一体どう言うシチュエーションだよ」

「あ、あのっ、信武さんが思ってらっしゃるような変なアレじゃなくて……。ただっ、不破さんのことが色々心配だったので、つい……。その……ほんのでちょっぴりだけ彼の上に覆い被さってしまったに過ぎないんですっ。……断じて他意はありません!」

 しどろもどろ。
 テンパるあまり言わなくてもいいことまでバカ正直に交えながら。

「――あの時の私っ、本当に下心はしかなかったんですっ!」
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