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可愛い妹

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 俺にはふたつ年下の可愛い妹がいる。
 と言っても、血の繋がりはない妹だ。
 たまたま、住んでいたマンションの隣に住んでいる一家と、うちの一家が家族ぐるみで付き合いがあっただけ。
 その縁で、その家に住む俺の同級生の妹が、俺にも本当の兄妹きょうだいのように懐いているというだけの話。

「ハルにいぃ~。カナにいがオトメはかわいくないから、だれのおヨメさんにもなれないっていうのっ」
 目に涙を一杯浮かべて、小さな女の子が俺の服の端をキュッと握りしめる。

 あれは確か俺が小1、音芽おとめが幼稚園年中の頃だったかな。

奏芽かなめ音芽おとめが可愛くて意地悪してるだけだよ」
 視線を合わせるように彼女の前にしゃがみ込んでそう言ったら、「ほんとう?」と俺を見つめてくる。
 大きな瞳と、くっきりとした二重まぶた。
 髪の毛をふたつにわけて、ちょこんと飾りゴムで結んだ姿が年相応で本当に愛らしい。
 この子の実兄で幼なじみの悪友、奏芽かなめと似た面差しを持つこの女の子が、血の繋がらない俺の妹だ。

「うん、本当だよ。それにね、音芽おとめ。音芽は大きくなったら俺のお嫁さんになるんだろう? だったら奏芽かなめの言うことなんて気にする必要ないじゃないか」
 優しく言って頭を撫でると、ふわっと花開くように音芽が微笑んだ。
 俺は彼女の小さな唇に、触れるか触れないかのかすめるようなキスを落として、近くに咲いていた花で指輪を作って音芽にあげた。

「うん! オトメ、おっきくなったらハルにいのおヨメさんになるっ!」

 可愛い可愛い俺の妹。

 音芽をギュッと抱きしめながら、ママゴトの延長のような生温かさを不意に不安に感じたのを覚えている。
 いつまでこの子はこんな風に俺に甘えてくれるんだろう?って。


 音芽おとめの実兄の奏芽かなめは、気に入った女の子をいじめたい性質のある奴で、クラスでも可愛い女子たちを中心に、あれこれ仕掛けては毎日のように悲鳴を上げさせている。

 やめとけよ、って言っても全然聞く耳を持たない。

 俺はクラスの女子たちはともかく、可愛い妹の音芽だけは……奏芽かなめに泣かされていたら絶対に慰めてやろう、と心に決めていた。
 そうしている限り、音芽おとめは俺を頼ってくれるから。

 ハルにい、あのね……と小さな手で服の裾とか握られると、兄ちゃんが絶対に守ってやるからな、と強く意識させられる。心の底から愛しい、と思わされる。

 奏芽かなめは何でこんな幼気いたいけ音芽いもうとをいじめるんだろう。

 俺はそれが不思議でたまらなかった。

「分かってねぇなぁ、ハル。かわいい女子の泣き顔ってさ、すごくドキドキするもんだろ?」

 一度理由を聞いてみたけれど、奏芽かなめの答えは俺にはさっぱり理解不能だった。


 もしも俺のせいで大好きな子が泣いたりしたら――。
 俺はたぶん、怖くてその子に近づけなくなる。

 大好きな子ほど、笑っていてくれるのがいいに決まってる。

 普通はそういうもんだよな?
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