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第10話 心の清算

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『今日、暇?』と、アリスから連絡が来る。


 アリスのほうから連絡が来るなんて珍しいな。


 部屋でゴロゴロしながら携帯をいじっていると、コンコンとノックされる。


「ん?何?」


「坊ちゃま。少し時間よろしいでしょうか?お父様がお呼びです」と、執事の小川さんの声がする。


 ...このタイミングでか...。


「うん。わかった」


『少し遅れるかもだけど17時ちょいすぎからならいけそう』とだけ、返信し部屋を出る。


「何の用?」


「申し訳ございません。私も詳細はうかがっておりませんので...」


 そのまま父の部屋に到着する。


 コンコン、「坊ちゃま連れてまいりました」


「入れ」


 そのまま部屋に入り扉を閉める。


「慎二、お前今彼女いるのか?」と、思わぬ角度からの質問に一瞬困惑する。


「えっ、彼女?いないけど...」


「そうか。ならちょうどいい。実はちょっとした縁談があってだな」


「縁談って...お見合いってこと?」


「いや、そこまでの話ではないんだが。お前に会ってみたいっていう子がいてな。明後日の放課後、空けておけ」


「...俺、今好きな人がいるんだよ」


「そうか。けど、すでにセッティングは済んでる。断るのは一回あってからでも遅くないだろ」


「そんな勝手に「俺の名義のクレジットカードを使ってるのは誰だ?」


「そんなの...」


「話は以上だ。もう出ていいぞ」


 このタイミングでかよ...。と思わずつぶやく。


 ――――――


「慎二、お待たせ」


「おう、ちょっと待ったぞ」


「そこは今来たところだよじゃないの?」


「俺は気を使わない主義なもんでな」


 こうやって二人で遊ぶのは結構久々である。


「それで今日は何するんだ?」


「うーん。そうだねー...。普通に公園に行こう!」と、アリスは言った。


 アリスが海斗のこと好きなことは会ったその日にわかっていた。


 だから、俺はひたすらにサブに徹した。
二人の恋を応援するふりをしたのだ。
昔からこういう立ち回りは得意なほうであった。


 そんなある日、海斗に彼女ができたと聞いた。
俺は少しだけ喜んでしまった。最低だっていうのは自覚している。


 けど、結局俺はアリスに何もすることはできなかった。
二人でいるときでさえ、話題はいつも海斗だったから。


 多分、アリスは俺の気持ちを知らない。
だからこのままでも良いのかなって思っていた。


 けど、ダメだった。これ以上辛そうなアリスを見るのは。
この関係が壊れてでも、俺は告白しようとそう思っていた。


 そうして、昔よく来ていた公園のベンチに腰掛ける。


「今日はなんで俺のことを誘ったの?」


「久々に二人で話したいなーって思ったから」


「そっか。そういえば、アリスってもう習い事してないの?」


「してないねー。いろんなのやったけど、結局わたしの肌には合わなかったなー。ほら、私って意外と飽き性じゃん?」


「...意外か?」


「え?飽き性っぽい見た目してる?」


「見た目は知らんけど...結構飽き性じゃないか?」


「うーん...そうかなー?」


 そんな他愛のない会話をする。
正直俺はタイミングのことばっかり考えていて、あまり内容は頭に入らなかった。


 それから少しして、沈黙が流れた瞬間に俺は切り出した。


「...あのさ...俺実は...アリスに話があったんだ」


「何?」


「俺...実は...ずっと...ずっと前から...アリスのことが好きだった。だから...俺と付き合ってほしい」


「...ごめんね。私好きな人がいるから」


「...知ってる」


「...私ね...ここで告白されたの。海斗に」


「...知ってる」


「...この前、海斗にアリスが好きだって言ってるの聴いちゃったんだ」


「...え?」


「このことは本当は黙っていようって思ったんだけどさ...そんな時に海斗に告白されてさ...。海斗が何を考えているのか分からなくなったの。元カノの傷が癒えていないだけなのか、慎二に私が取られそうになったから告白したのかな...とか」


「それは違う。俺が言ったんだ。アリスとのことちゃんとしてほしいって」


「...そう...だったの」


「あいつなりに一生懸命考えて出した答えだったんだよ」


「そっか...私最低だな」


「...けど、あいつにも悪いところはあるから」


「私には責められないかな。多分海斗が私にしていたこと、私も慎二にしてたから」


「...そう...だな」


「苦しかったよね。ごめんね。私が一番その気持ちを知ってるはずだったのにね...」


「...ううん...っ」


「ずっと悩んでたんだよね。誰にも相談できなくて...」


「...うんッ」


「ありがとう。慎二」と、頭を撫でられた。


 その後は涙が止まらなかった。ただただ悲しくて。


 けど、心の中にあったもやもやが晴れたのは間違いなかった。
前に進めていないのは俺も同じだった。
結局、告白する勇気もないくせに、ずっと海斗を逆恨みしていたにすぎなかたった。
このままでいいなんて自分に嘘をついてまで。
最低は俺も一緒だった。


 泣き止んだのはそれから30分後くらい経った後だった。


「...ありがとう」


「ううん、お礼を言うのは私のほう」


「心配しなくていいぜ。俺はもう吹っ切れたから。俺はアリスの友達で、海斗の親友だから」


「...ありがとう」


「あーそうだそうだ。父さんからお見合いを頼まれてたんだった。これで気兼ねなくお見合いできるぜ!」


「...慎二」


「うん?」


「ありがとう」
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