不夜島の少年 小話集

四葉 翠花

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タコと見習いたち 1

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「水槽を掃除したいんで、こっちの桶に移動してもらえますか?」

 アルンが水槽の中にたたずむタコに向かって声をかけると、タコはアルンの差し出す桶に向かって移動を始める。ゆったりとした動作だが、迷わず向かっているためか、意外と速度は速い。
 ちゃぷん、という音とともにタコが移動を完了すると、アルンは桶を置いて掃除に取り掛かった。


「あのタコ、僕たちの言っていることを絶対に理解しているよね」

 一通りの仕事を終え、見習いたちがくつろいでいると、コリンがふと口を開く。

「うん。僕が声をかけたら、素直に移動するし。あれって、本当にただのタコなんだろうか……」

 水槽を掃除したときのことを思い出しながら、アルンも考え込む。

「ヴァレン兄さんが連れてきたタコだもんなあ……。まあ、おかげで手間ははぶけるけれど」

 ブラムもしみじみとした声を漏らす。
 話題となっているのは、以前、ヴァレンが海岸で運命の出会いを果たしたというタコのことだ。
 ヴァレンの窮地を救うこと数回、もはやタコはヴァレンの守り神として扱われている。

 タコはヴァレンの部屋で水槽を棲家にし、一日中のんびりと過ごすのが日課だ。
 食べ物はヴァレンが与えているが、掃除は見習いたちの仕事になっている。しかし、声をかければ移動してくれるので、たいした手間ではない。
 ただ、言葉を理解しているとしか思えないタコの行動は、謎だった。タコとは、それほど賢い生き物だっただろうか。

「……まあ、ヴァレン兄さんだし」

「うん、ヴァレン兄さんのタコだもんな」

「ヴァレン兄さんなら、仕方がないよね」

 最終的な結論は、いつも同じだった。ヴァレンだから、ということで見習いたちは話を締めくくった。
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