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03.上陸
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船を下りると、簡単な身体検査があった。
武器の持ち込みは不可で、もし持っていた場合は預けなくてはいけないそうだ。
特に武器は持ち込んでいないはず……と考えながら、アデルジェスは思い出した。短剣を鞄に入れっぱなしにしておいたような気がする。
探してみると、やはりあった。ありふれた物だし、帰りには返してくれるそうだから預けるのに問題はない。
ところがいざ預けようと短剣を見てみると、違和感を覚えた。何かが違うような気がする。
もしかしたら戦場で取り違えたか、同僚のものと混じってしまったのかもしれない。
しかし後ろに列ができているし、ゆっくり確認するのも迷惑だろう。どうせたいしたことではないとあまり深く考えず、アデルジェスは短剣を預けた。
そこを通り過ぎると、大きな門が待ち構えていた。複雑に絡み合う蔓が刻まれている。繊細な彫刻で、どことなくなまめかしい。
門は開かれており、何となくきょろきょろとしながらアデルジェスは門をくぐった。
先ほど船の上で気さくな商人風の男性から、門をくぐると案内所があるのでそこで話を聞いてみるといいと言われていた。
一緒に降りてきた乗客たちが迷う様子もなく進んでいく中、アデルジェスは言われた案内所を探す。
目当ての場所はすぐに見つかった。小さいながらも丈夫そうな小屋に近づいていくと、老女が皺だらけの顔をくしゃっと歪めてにこやかに出迎えてくれた。
「いらっしゃい。初めてかい?」
「はい」
「そうかい。何か希望はあるかね?」
「いや……よくわからない」
「白花と赤花、どっちが好みだい?」
「白花と赤花……? 聞いたことはあるような気がするけれど、何だったっけ……」
「ああ、ここじゃあ男娼のことを白花、娼婦のことを赤花というのさ。つまり、男と女どっちがいいかってことさ」
「いきなりそういうことは……。まずは街中を見てみたい」
やや慌てながら、アデルジェスはどうにかそう答える。
老女は訝しむこともなく、そうかいと頷いた。
「じゃあ、簡単に説明しようかね。今見えている道が大通り、まっすぐ進むと広場がある。市場が開かれたり、昼間は芝居や大道芸が行われたりすることもある。何もないときでも露店で菓子くらいは買えるよ」
老女が指差す道を見れば、人々が歩いている。ここからでも広場らしき場所は見えた。
「こっちから見て、大通りの右側が赤花、左側が白花の区画になっているんだ。大通りに近いほど格が高い店で、裏道にはずれていくほど格が下がっていく。それと広場より手前のほうが一般向けというか、まあ普通だね。奥に行くほど特殊な趣味になっていく傾向があるよ」
「特殊?」
「変わった道具を使うのもあれば、聖職者を汚す雰囲気に浸れるところもある。他にも棺桶に入った動かない相手を犯すなんていうのもあるよ」
「棺桶? 何だ、それ」
「屍姦というやつだよ。実際は棺桶に入って死んだふりをしているだけだけれど」
「……色々な趣味があるもんだ」
アデルジェスはしみじみと呆れながら呟く。
世の中の広さをこの狭い島に着いた途端に実感するとは思わなかった。しかも、知らなくてもこの先の人生に支障がなさそうな、どうでもいい知識だ。
「まあ、裏通りの奥に行けばふりではなく、実際にできるかもしれないけれどね。ひっひっひっ……」
「……こわっ!」
知らなくてもよいというよりは、知りたくなかった知識だ。
「大通りに近い店はどこも安全だよ。まずは大通を歩いてみるといいよ。大通沿いに案内所がいくつかあるから、わからないことがあったらそこで聞いてみな」
武器の持ち込みは不可で、もし持っていた場合は預けなくてはいけないそうだ。
特に武器は持ち込んでいないはず……と考えながら、アデルジェスは思い出した。短剣を鞄に入れっぱなしにしておいたような気がする。
探してみると、やはりあった。ありふれた物だし、帰りには返してくれるそうだから預けるのに問題はない。
ところがいざ預けようと短剣を見てみると、違和感を覚えた。何かが違うような気がする。
もしかしたら戦場で取り違えたか、同僚のものと混じってしまったのかもしれない。
しかし後ろに列ができているし、ゆっくり確認するのも迷惑だろう。どうせたいしたことではないとあまり深く考えず、アデルジェスは短剣を預けた。
そこを通り過ぎると、大きな門が待ち構えていた。複雑に絡み合う蔓が刻まれている。繊細な彫刻で、どことなくなまめかしい。
門は開かれており、何となくきょろきょろとしながらアデルジェスは門をくぐった。
先ほど船の上で気さくな商人風の男性から、門をくぐると案内所があるのでそこで話を聞いてみるといいと言われていた。
一緒に降りてきた乗客たちが迷う様子もなく進んでいく中、アデルジェスは言われた案内所を探す。
目当ての場所はすぐに見つかった。小さいながらも丈夫そうな小屋に近づいていくと、老女が皺だらけの顔をくしゃっと歪めてにこやかに出迎えてくれた。
「いらっしゃい。初めてかい?」
「はい」
「そうかい。何か希望はあるかね?」
「いや……よくわからない」
「白花と赤花、どっちが好みだい?」
「白花と赤花……? 聞いたことはあるような気がするけれど、何だったっけ……」
「ああ、ここじゃあ男娼のことを白花、娼婦のことを赤花というのさ。つまり、男と女どっちがいいかってことさ」
「いきなりそういうことは……。まずは街中を見てみたい」
やや慌てながら、アデルジェスはどうにかそう答える。
老女は訝しむこともなく、そうかいと頷いた。
「じゃあ、簡単に説明しようかね。今見えている道が大通り、まっすぐ進むと広場がある。市場が開かれたり、昼間は芝居や大道芸が行われたりすることもある。何もないときでも露店で菓子くらいは買えるよ」
老女が指差す道を見れば、人々が歩いている。ここからでも広場らしき場所は見えた。
「こっちから見て、大通りの右側が赤花、左側が白花の区画になっているんだ。大通りに近いほど格が高い店で、裏道にはずれていくほど格が下がっていく。それと広場より手前のほうが一般向けというか、まあ普通だね。奥に行くほど特殊な趣味になっていく傾向があるよ」
「特殊?」
「変わった道具を使うのもあれば、聖職者を汚す雰囲気に浸れるところもある。他にも棺桶に入った動かない相手を犯すなんていうのもあるよ」
「棺桶? 何だ、それ」
「屍姦というやつだよ。実際は棺桶に入って死んだふりをしているだけだけれど」
「……色々な趣味があるもんだ」
アデルジェスはしみじみと呆れながら呟く。
世の中の広さをこの狭い島に着いた途端に実感するとは思わなかった。しかも、知らなくてもこの先の人生に支障がなさそうな、どうでもいい知識だ。
「まあ、裏通りの奥に行けばふりではなく、実際にできるかもしれないけれどね。ひっひっひっ……」
「……こわっ!」
知らなくてもよいというよりは、知りたくなかった知識だ。
「大通りに近い店はどこも安全だよ。まずは大通を歩いてみるといいよ。大通沿いに案内所がいくつかあるから、わからないことがあったらそこで聞いてみな」
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