上 下
49 / 138

49.唐突

しおりを挟む
「あぁ……昨日の子、きみ付きの見習いだったのかい。花代なんて、別にいいよ。わざわざ謝りに来てくれてありがとう」

「そういうわけにはいきません。見習いの失態は上役である自分の失態だとおっしゃったのは、ミゼアス兄さんでしたよね」

「……きみも変なところで生真面目だねぇ」

 ミゼアスは苦笑しながら、軽くため息を漏らす。

「厳しい上役に躾けられましたから」

 少年は屈託の無い笑みを浮かべる。

「……それじゃあ、花代じゃなくてひとつ頼まれてほしいことがあるんだけれど」

「はい、何でしょう」

「実はね……」

 殊勝に頷く少年に、ミゼアスは昨日の願掛けをしていた子供のことを話した。ミゼアスに飴を投げつけたことなどは省き、簡潔に説明する。

「……ということは、俺はその子のことを調べればいいんですか?」

「うん、やってもらえる?」

「任せてください。それにしてもエアイールも相変わらずですね。何となく、理由はわかるような気がしますが」

「理由、わかるのかい?」

 ミゼアスが首を傾げる。

「まあ、あいつとは同い年で同級生でしたし、俺なんてよくいじめられたもんですよ。俺をいじめたのと根本的な理由は同じじゃないんですかね」

「きみをいじめたのと同じ理由?」

「ミゼアス兄さんは知らなくていいことですよ。あいつのどろどろした思いなんて。それよりも長くお邪魔してしまってすみません。食事が冷めるから、さっさと召し上がってください」

 そう言って、少年は軽やかに立ち上がった。

「せっかくお二人でいちゃいちゃしていたところ、お邪魔してしまい申し訳ありませんでした。邪魔者は消えるので、どうぞご存分にいちゃいちゃを再開してください」

 少年はにやりとした笑みを浮かべる。

「きみねぇ……」

「まあまあ、先ほど言っていた子のことはお任せください。それと……よかったですね、ミゼアス兄さん。ジェスさん、ですよね? ミゼアス兄さんのこと、よろしくお願いします」

 アデルジェスに対し深々と頭を下げると、現れたときと同じくらいの唐突さで少年は去っていった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:284pt お気に入り:7,538

【ケーキバース】彼氏が僕を甘やかす理由

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:159

維新竹取物語〜土方歳三とかぐや姫の物語〜

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:35

推ししか勝たん!〜悪役令嬢?なにそれ、美味しいの?〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,984pt お気に入り:362

本好き魔導士の溺愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:125

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

恋愛 / 完結 24h.ポイント:418pt お気に入り:3,565

 仔犬拾いました 〜だから、何でも言えってのっ!〜

BL / 連載中 24h.ポイント:874pt お気に入り:6

処理中です...