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117.経緯1

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 さすがにその場にはいづらくなり、船内に逃げ込んできた。空いている個室があったので、そこで今までのことを話すことにする。

「ここに来るまでの経緯だけれど……」

 ミゼアスはゆっくりと話し出す。

 もともとミゼアスは借金をかなり前に返し終わっていた。しかしミゼアスは稼ぎ頭で、桁が違う。そのため、簡単に離してもらえるとは思っていなかったのだ。
 それでも昨日の明け方、寝ようとしていた娼館主をつかまえて話を切り出した。当然却下されるかと思ったのだが、渋い顔をしながらも『領主様のところに行け』と言われたのだ。

 明け方のとんでもない時間だったが、ミゼアスは領主屋敷に向かった。するとそんな時間にも関わらず、領主が待ち構えていたのだ。
 領主はあっさりとミゼアスが島を出ることを承諾した。ウインシェルド侯爵からも聞いている、と。ミゼアスは島を出たいとの旨をウインシェルド侯爵に手紙で伝えていたのだ。
 ただ、手続きなど色々とあるので、島を出られるのはそれからだと言われた。それでも島を出られることは決まったので、ミゼアスに文句はなかった。

 領主と今後の話をし、見習いたちはヴァレンに託すことにした。見習いを抱えるにはそれなりの費用がかかるのだが、三人が店に出るまでの分はミゼアスの貯蓄から引くということにした。
 ヴァレンや見習いたちにその話をすぐにしておけと言われ、他にも挨拶しておきたい人がいればしておけと言われたので、ミゼアスはその日駆け回ることになった。
 途中で一回部屋に戻ってきたときは、まだアデルジェスは寝ていた。娼館主からフェリス騒動のその後が思わしくないという話を聞いて、苛々したのもそのときだ。このとき、アルンに会ったので『夕方まで帰ってこられない』との伝言を託した。

 それからは挨拶しておきたい人たちのところを駆け回り、ヴァレンに見習いたちのことを託し、見習いたちにもそのことを言った。
 本当は一人前になったときに渡すはずだった、見習いたちのために用意した花月琴もそのときに渡した。
 ようやく一息ついた夕方、ウインシェルド侯爵に会った。ウインシェルド侯爵はもう帰るところだったのでほとんど話はできなかったが、『アデルジェス君と幸せになりなさい』と言われたのだ。
 それから部屋に戻り、アデルジェスと過ごした。

「そのあたりは言わなくてもわかると思うけれど」

 そう言ってミゼアスは意味ありげな笑いを浮かべる。
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