不夜島の少年～兵士と高級男娼の七日間～

122．意趣返し

「そういえば、領主様に会ったんだよね。ずっと姿を見かけたことがないって言っていたように思うけれど」

「うん。領主様……にお会いしたのは今回が初めてだよ」

「どんな方だった？」

「あー……うん、まあやっぱり変わった方だったかな」

　ミゼアスは視線をそらして答える。
　そういえば島一番の変態という説があると以前言っていたはずだ。本当にそうだったのだろうか。

「まさか……いやらしいことを要求されたとか？」

「いや、それはないよ。……多分。少なくとも、僕の基準では」

　どうも言い方が怪しい。アデルジェスが訝しげな視線を向けると、ミゼアスはため息を漏らした。

「……きみは、例えば僕が『今日は良い天気だね』なんて立ち話をしている姿に性的興奮を覚えることができるかい？　『今朝はパンを食べた』という言葉に欲情できるかい？」

「……はあ？」

「これらを『いやらしいこと』と定義するのなら、されたのかもしれない」

「…………」

　よくわからない。ただ、領主は普通の基準とは違った視点を持っているらしいことだけは、何となくわかった。
　とりあえず、ミゼアスの身に何かをされたわけではなさそうなので、無理やり納得しておく。

「よくわからないけれど……ミゼアスにとって問題がないのならいいんだ……」

「まあ、貞操は大丈夫だから、安心して。ちょっと……いや、大分変わっているけれど、島の白花や赤花のことは大切に思っているみたいだった。今回、僕に要求されたのはグリンモルド伯爵に対する意趣返しなんだ」

「え？」

「今回のフェリス騒動、さらにはニドムレン男爵の野望についてまで、もしかしたら黒幕はグリンモルド伯爵かもしれないよ。最初の予想は間違っていたのかもしれない」

「ど……どういうこと？」

　最初の予想というのは、ニドムレン男爵と伯爵夫人のジャニスが手を組んでどうのといったことだろうか。それともフェリスに関することなのか、アデルジェスにはよくわからなかった。