不夜島の少年～兵士と高級男娼の七日間～

124．ミゼアスの過去

　今日はミゼアスからとんでもないことを聞かされてばかりだ。
　アデルジェスが二つの方向から殺されそうになっていたとは、どういうことなのだろうか。

「それはまだ推測なんだけれどね。でも、領主様はそうだと思っていた。僕もそう思う。……まあ、もう少ししたら全部わかるよ。グリンモルド伯爵とお話すればね」

　ミゼアスはそう言って、アデルジェスの疑問を封じてしまった。

「グリンモルド伯爵とのお話は僕に任せて。きみは黙っていてもらえればいいから」

「う……うん……」

　アデルジェスには何がどうなっているのか、さっぱりわからない。ミゼアスに任せるよりないだろう。
　そこでいったん、その件についての話は終わりとなった。

　それからは昔の話など、他愛もないことを話した。アデルジェスの今までの話をミゼアスは目を細めて、楽しそうに聞いていた。学校に通っていた頃のこと、兵士になったときのことなど、色々と話す。
　しかしミゼアスの話は、アデルジェスにとっては聞くのが辛いものだった。

「きみとまた明日ねと約束した日の夜、父さんに言われたんだ。『お金持ちの家で、下働きの仕事がある。そこでしばらく働いてくれないか』って。僕はきみとの約束もあったし、せめて一言きみに言ってからと思ったんだけれど……」

　ミゼアスは苦しそうに俯く。

「父さんは『そこで働けば、いっぱい食べ物がもらえるんだ。一生懸命働いて、ジェスくんにお土産を持って帰ってきて、驚かせたらどうだ』って言ったんだ。だから……僕は頷いて働きに出ることにした……」

「そんな……」

　まさか自分を口実にされていたとは。そしてミゼアスはアデルジェスにお土産を持って帰ってくるため、働きに出たというのか。

「そして僕は島に売られた。そこで初めて、自分が売られたことを知ったよ。まあ驚きはしたけれど、村があんな状態だったし仕方ないのかとも思った。ただきみとの約束を破ることになったのが残念だった。……愕然としたのは、自分が何をすることになるのかを知ったときだね」

　俯いたまま、かすかにミゼアスは震える。
　西方よりの村で生まれ育ったミゼアスなら、アデルジェスと同じくこの国の一般的な基準よりも貞操観念が強かったはずだ。

「嫌で嫌で仕方なかった。見習いの頃はまだよかった。勉強して、本当に下働きの仕事さえしていればよかったからね。それでも、僕はそこで生きていくしかなかった。だから、せめて少しでも上に行こうと思って、自分をごまかすことを覚えた……」

　ミゼアスの震えが強くなる。