上 下
134 / 276
・・『開幕』・・

・・インタビューと対談と・・

しおりを挟む
・・暗くなったモニターを、たっぷり60秒は観ていたように思う・・忘れていたかのように大きく呼吸して、深く座り直す・・残っていた水を飲み干してグラスを置く・・。

「・・アドルさん・・お疲れ様でした・・今回もありがとうございました・・前回にも増して、斬新で画期的で的確で素晴らしく挑戦的な提案でしたね・・期待以上でした・・本当に素晴らしかったです・・感動を禁じ得ません・・」

・・そう言ってトーマス・クライトン社長は立ち上がり、右手を差し出して来たので慌てて立ち上がって握手を交わす・・他の副社長や専務や常務の人達も立ち上がって、私を称賛しながら右手を差し出して来るので次々と握手を交わした・・。

「・・アドルさん・・最早貴方を係長とは呼べませんね・・正直に言うと、課長と言う役職名も最早貴方には相応しくないと思っています・・開幕したら、私は貴方を艦長と呼びます・・改めて宜しくお願いしますわね、アドル艦長・・」

・・グレイス・カーライル副社長も満面の笑顔で、私と握手を交わしながらそう言う・・。

「・・ありがとうございます・・こちらこそ、宜しくお願いします・・グレイス艦長・・」

「・・今日はこれから、『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社に行かれるのですね・・?・・気を付けていらっしゃって下さい・・私も今日の・・男性艦長10人へのインタビューと対談の生配信は、以前から非常に興味深い企画だと思っていましたので、じっくりと観させて頂きます・・リラックスして、いつもと同じ調子で貴方らしさを出して話せば、大丈夫だと思いますよ・・」

・・カーネル・ワイズ・フリードマン副社長も、私と握手を交わしながら笑顔で激励してくれる・・。

「・・はい、ありがとうございます・・リラックスして気負わずに話したいと思います・・そう言う訳ですので申し訳ありませんが、今日はこれで退社させて頂きます・・また開幕まで、殆ど仕事らしい仕事も出来なくなると思います・・申し訳ありませんが、宜しくお願いします・・開幕したら、頑張ります・・」

「・・そのような事を貴方が気に病む必要はありませんよ、アドル艦長・・貴方は今の貴方にしか出来ない業務を既に充分遂行しています・・貴方が社内で貢献されている内容・・貴方が個人として出されている成果は、既に天文学的なレベルなのです・・些末な事務・実務業務は、私達が腕っ扱きのサポートメンバーを可能な限りに送り込んで、遅れないように処理しますから、貴方は何も心配せず・・貴方にしか出来ない艦長としての仕事・・共同事業業務提携体制の顔としての仕事に、力を尽くして取り組んで下さい・・期待していますので、宜しくお願いします・・」

・・フローレンス・スタンハーゲン専務も、私と握手を交わしながら効果的に激励した・・。

「・・ありがとうございます、専務・・微力を尽くして、精一杯に考えて取り組みます・・」

「・・アドル艦長・・今はお疲れでしょうから、ラウンジで暫く休んでからいらして下さい・・私達はこれからまた打ち合わせがありますので、すみませんがここで失礼させて頂きます・・気を付けていらして下さいね・・それではまた・・」

・・私と握手を交わしながらベアトリス・アードランド常務はそう告げて、他の役員達と一緒に退室して行く・・ハーマン・パーカー常務とチーフ・カンデルとも固く握手を交わしたが、2人とも無言だった・・が、握手しながら左手で私の肩やら背中を叩いて労ってくれたし・・別れ際にはサムズアップをキメて見せた・・。

・・私とリサと若いエンジニアの3人だけが残された・・彼は配線を外してまとめたり、機器の片付けに忙しい・・。

「・・君も『クライトン』に乗るのかい・・?・・」

「・・はい・・機関部要員として、配属されました・・」

「・・そうか・・君が居れば『クライトン』は安心だな・・?・・」

「・・ありがとうございます・・」

「・・ああ・・じゃあ、また・・」

「・・お疲れ様でした・・お気を付けて・・」

「・・ありがとう・・君もな・・」

・・そう言い置いて、私達も退室する・・トイレに寄り手を洗って顔も洗う・・ここら辺はトイレや給湯室にもカメラがあるから、妙な事は出来ない・・取り敢えず自分達のフロアに戻ると、盛大な拍手で迎えられる・・驚きはしない・・本社全体で中継されていたのだろう・・このくらいは、予想の範囲内だ・・。

「・・お疲れ様でした、先輩・・とうとう全社知名度NО1に躍り出ましたね・・?・・」

「・・ああ・・まあ、そう言う事なんだろうね・・全部流れた・・?・・」

「・・勿論、全部流れましたよ・・しっかりとね・・社長より目立ってたじゃないスか・・?・・」

「・・ああ・・まあ、言い出しっぺなんだから、引っ張り出されるんだろ・・?・・処で、悪いけど俺達はもう退社するから・・ここで昼飯を食ってから出たんじゃ、時間的に厳しいからさ・・向こうで控室に入る前に、少し体も休めたい・・悪いけど後は頼む・・それじゃ、また明日な・・」

「・・気を付けて行ってらっしゃい・・14:00からですよね・・?・・その服で出るんですか・・?・・」

「・・ああ、そうだけど・・?・・」

「・・ネクタイは持って来ました・・?・・」

「・・持って来てるけど・・?・・」

「・・まあ、ネクタイ締めりゃ大丈夫っしょ・・?・・頑張って下さいね・・?・・」

「・・おう・・それじゃあな・・」

・・そう言って帰り支度を済ませ、コートを着込み、バッグを携えて、リサと一緒にフロアを出る・・1階まで降りてラウンジに入ると、また盛大な拍手で迎えられる・・厨房も含めてラウンジスタッフの全員で出迎えてくれている・・。

「・・料理長・・社長と幼馴染だったなんて、人が悪いですよ・・」

「・・いや、済まなかったね・・別に隠していたと言う訳でも無かったんだが・・あまり堂々と大袈裟に言うような事でも無かったしな・・それより今回も大活躍だったね・・アドル艦長・・?・・そして君の活躍はまだ終わらない・・これからがクライマックスだって言う話じゃないか・・?・・今日は全部、観させて貰うよ・・それでどうする・?・ウチで昼飯を食って行くのか・・?・・」

「・・いや、生配信が14:00からなので、ここで昼食を摂ってから行くとギリギリなんですよ・・なので、お茶を一杯頂いたら直ぐに出て・・途中で何か食べて行きますよ・・」

「・・アドル艦長・・2人分のランチボックスなら、そこでお茶を飲んで貰っている間に、取って置きを作って持たせてやるから、少しだけ待っていてくれ・・途中のどこかで食べれば好いよ・・変な食べ物屋で変な料理を食べさせるよりよっぽど好い・・それじゃあ、待っててくれ・・直ぐだからな・・誰か、お茶を淹れてやってくれ・・!・・」

・・そう言い置くと料理長は、直ぐに厨房に引っ込んだ・・言葉を返す暇さえ与えてくれない物言いと、その勢いに呆気に取られて立ち尽くしていると、ラウンジスタッフの1人が傍に来る・・。

「・・あの・・お茶は何を差し上げましょうか・・?・・」

「・・ああ・・悪いね・・じゃあ、ダージリンを濃い目に淹れて、アプリコットジャムを下さい・・」

「・・私もそれでお願いします・・」

・・と、リサが言う・・。

「・・分かりました・・では、お好きな席でお待ち下さい・・」

「・・ありがとう・・」

・・そう応えて、リサと一緒に喫煙エリアの席に座る・・。

「・・料理長の性格が漸く判ってきたね・・成程なあ・・確かにぶつかりやすい一面はあるだろうね・・が、まあ・・見込んで貰えているんだろうから、好しとするか・・」

・・そう言いながら灰皿を引寄せて煙草を取り出すと、一本を咥えて点ける・・。

「・・ふう~・・終わってみると、あっと言う間だね・・これでトップミーティングは暫くないだろう・・実務協議には呼ばれないだろうし、こっちに集中できるかな・・?・・」

「・・そうですね・・」

・・そんな頃合いで、紅茶とジャムが運ばれてくる・・ダージリンの香りが、鼻腔を心地良く刺激する・・本来、ロシアンティーにダージリンは用いないのだが、ちょっと強めの刺激で自分に活を入れたい・・やはり、少し睡眠不足なのだろうか・・。

・・アプリコットジャムを2杯取って溶かし込み、口を付ける・・うん・・好い味わいだ・・二口飲んでカップを置き、一服燻らせる・・彼女は3杯取って溶かし込んで飲んでいる・・10時の休み時間を過ぎている頃合いだからか、ラウンジで飲食している社員はほぼいない・・この時の私は・・トップミーティングの中で自分が喋った内容が、どれ程の影響を内外に与える事になるのか・・知る由も無かった・・。

・・対面に座ってロシアンティーを飲んでいる彼女をじっと観る・・自分も一口飲んで、一服燻らせる・・彼女が気付いて目が合うと少し恥ずかしそうにはにかむ・・。

「・・何ですか・・?・(微笑)・」

「・・いや・・君が居てくれて、本当に良かったと思っているよ・・」

「・・アドルさん・・〔かなりの小言で〕・・今の私は・・昨日の私の10倍以上、貴方が好きです・・」

「・・うん・・」

・・ロシアンティーをもう二口飲んで、煙草を揉み消す・・。

「・・好い笑顔ですよ・・アドルさん・・今日はどんなお話をされるんですか・・?・・」

「・・うん・・ああ・・それは質問とか問い掛けとか・・話の振られ方によるだろうね・・今の処、あまり能動的に話すつもりはないよ・・」

「・・そうですか・・」

「・・リサ・・さん・・『ディファイアント』と『ロイヤル・ロード・クライトン』の関係を揶揄するような話をする人がいるかも知れないけど・・僕は何を言われても怒らないからね・・」

「・・はい・・」

「・・今日の対談の中で、僕は彼らの人柄と為人を観る・・そして・・話をするにしても僕らの共通項を前提として踏まえてするから、口論とか言い合いにはならないと思うよ・・」

「・・分かりました・・」

・・2人ともロシアン・ティーを飲み終えて数分経った頃合いで、厨房スタッフの1人がランチ・バスケットを持って来た・・。

「・・お待ち遠さまでした・・料理長渾身の一作です・・どうぞ、落ち着ける場所でごゆっくりお召し上がり下さい・・お飲み物としましては、ミルク・オレンジジュース・ジンジャーエール・野菜ジュース・コーヒー・紅茶を入れさせて頂きました・・料理長はもう社員の皆さんの昼食の準備に取り掛かっておられまして、自分でお持ち出来ないのが申し訳ないと仰っておられました・・その代わりにここで応援しているので、頑張って欲しいと仰られました・・」

・・私は立ち上がって彼からバスケットを受取り、テーブルに置くと両手で彼の右手を握る・・。

「・・本当にありがとう・・これに込められている応援の想いと一緒に、味わって頂きます・・料理長に宜しくお伝え下さい・・」

「・・分かりました・・料理長に伝えます・・頑張って下さい・・それでは、お気を付けて・・」

「・・ありがとう・・」

・・彼は会釈して手を振り、厨房に戻った・・。

「・・それじゃ、行こうか・・?・・」

「・・はい・・」

・・ランチ・バスケットを右手で持って歩き出す・・ラウンジから出て駐車スペースに入り、バスケットは車の後部座席に入れて運転席に滑り込む・・。

「・・それで、どうするんですか・・?・・」

・・と、助手席でリサが訊く・・。

「・・『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社の近くまで行ったら、ホテルを探して入る・・飯を食ったら2時間寝るよ・・起きたら急いでシャワーを浴びて出て、控室に入る・・取り敢えずそこまでだな・・」

・・言い終わった時に、最初の交差点を左折する・・。

「・・分かりました・・」

・・『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社まで、あと20分と言う頃合いの処で手頃なショートステイ・ホテルが道沿いに観えたから、そこに入る事にした・・シングルベッド2台のツインルームだ・・ランチバスケットをテーブルに置き、コートと上着を脱いでハンガーに掛ける・・運転中にデータ着信音があったので携帯端末を観ると、今日公開される番組PVの動画データが送られて来ていた・・。

「・・ふ・・当日に送って来るとはね・・今迄編集してたのかな・・?・・そうだ・!・リサ・・このランチバスケットは彼らへの差し入れにして、俺達は向こうのラウンジで昼飯を食べよう・・?・・」

「・・分かりました・・それじゃ、直ぐ寝すみますね・・?・・」

「・・うん、そうと決まればとっとと寝よう・・2時間で起こしてくれ・・そうしないと食事する時間が無くなるから・・」

「・・分かりました・・その間に服をプレスして来ますので脱いで下さい・・」

「・・分かった・・」

・・そう言って服を脱いで彼女に預けると、下着のままでベッドに入る・・やはり疲れが残っていたらしい・・100秒も経たない内に眠りに落ちた・・。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

わたくし、異世界で婚約破棄されました!?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:3,844

悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28,012pt お気に入り:6,010

【本編完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:74,852pt お気に入り:10,376

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:11,232pt お気に入り:9,147

わがまま令嬢は、ある日突然不毛な恋に落ちる。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,620pt お気に入り:18

処理中です...