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領主の仕事(3)
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ヘンリーの手がクリスティーナの頬にそっと触れる。先ほどジュリアスが触れた所だった。
「あ……」
「婚約者の自覚があるのなら、こんな所を他人に触れさせないでくださいね。たとえ相手が殿下でも」
そのまま優しく頬を撫でられると、触れられた部分がじんわりと熱くなるのを感じた。
「も、申し訳……ありません」
「ほら、また敬語が」
「あっ、ごめんなさい」
「少しずつ慣れてくださいね」
咎めるような口調とは裏腹な温かい眼差しに、クリスティーナの緊張は少しずつ解れていった。
(さっき殿下に触れられた時とは全然違う)
主人に撫でられるペットはこんな気持ちなのだろうか、と考えてしまうくらいには心地よかった。
だけど、その心地よさも長く続けば違和感を覚える。いつまでたってもヘンリーはクリスティーナから手を離さなかったのだ。
「あのっ……!」
「何でしょうか?」
(何って! 手です、ヘンリー様!)
困惑したクリスティーナがヘンリーに目で訴えかけると、ようやく手が離れた。
自由になったクリスティーナは、安堵のため息を吐いた。
「さてと、僕はクリスティーナを褒めまくれば良いんでしたっけ?」
「え? あ、さっきの殿下の話ですか? えっと、気にしないで。大した話ではないし……」
断ったのに、ヘンリーは「そういう訳にはいきません」と言いながら、クリスティーナをソファーに座らせた。
「クリスティーナは毎日仕事熱心だし、殿下や僕の言ったことをすぐ覚えてくれます。報告書なんか細かい所まで気が利いているし、読みやすいですよ。この前頼んだ領民からの要望書もよく纏まっていました」
「あ、ありがとう」
正面に座ったヘンリーが、真剣な眼差しで褒め言葉を口にしている。それが恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
(殿下だけでなくヘンリーからも評価してもらえるなんて、すごく恵まれた立場よね)
クリスティーナが褒め言葉を噛み締めていると、ヘンリーは再び口を開いた。
「押しに弱いけれど、他人のためにすぐ動けるし、とても素直で可愛らしいです。初めて会った時も、僕の無茶苦茶な願いを聞き入れてくれましたよね」
だんだんと褒める内容の雲行きが怪しくなってきた。
伯爵としての仕事ではなく、婚約者として褒められているような気がして、聞いているのがむず痒い。
「さっきだって頬に触れた時、すごく良い表情で……」
「まっ、待って! もう十分なので!!」
クリスティーナは慌てて立ち上がり、ヘンリーの口を塞ごうと手を伸ばした。
が、クリスティーナの手はヘンリーにあっさりと捕まった。
「本当に十分ですか? 自信つきました?」
からかうような声色なのに、こちらを見つめる瞳は優しかった。
「……少し」
「少しですか。今はそれで良いですよ」
本当は少しだって自信がついた訳ではない。だけど信じてくれている人達の言葉を信じたいと思ったのだ。
(自信がある振る舞いをすれば、これから変わっていけるかもしれないし!)
「それにしても、虫除けが必要ですね……」
「え?」
「いえ、何でもありません」
ヘンリーの呟きはクリスティーナには届かなかった。それどころか、掴まれた手をしばらく観察されているのにも気づいていないようだった。
「あ……」
「婚約者の自覚があるのなら、こんな所を他人に触れさせないでくださいね。たとえ相手が殿下でも」
そのまま優しく頬を撫でられると、触れられた部分がじんわりと熱くなるのを感じた。
「も、申し訳……ありません」
「ほら、また敬語が」
「あっ、ごめんなさい」
「少しずつ慣れてくださいね」
咎めるような口調とは裏腹な温かい眼差しに、クリスティーナの緊張は少しずつ解れていった。
(さっき殿下に触れられた時とは全然違う)
主人に撫でられるペットはこんな気持ちなのだろうか、と考えてしまうくらいには心地よかった。
だけど、その心地よさも長く続けば違和感を覚える。いつまでたってもヘンリーはクリスティーナから手を離さなかったのだ。
「あのっ……!」
「何でしょうか?」
(何って! 手です、ヘンリー様!)
困惑したクリスティーナがヘンリーに目で訴えかけると、ようやく手が離れた。
自由になったクリスティーナは、安堵のため息を吐いた。
「さてと、僕はクリスティーナを褒めまくれば良いんでしたっけ?」
「え? あ、さっきの殿下の話ですか? えっと、気にしないで。大した話ではないし……」
断ったのに、ヘンリーは「そういう訳にはいきません」と言いながら、クリスティーナをソファーに座らせた。
「クリスティーナは毎日仕事熱心だし、殿下や僕の言ったことをすぐ覚えてくれます。報告書なんか細かい所まで気が利いているし、読みやすいですよ。この前頼んだ領民からの要望書もよく纏まっていました」
「あ、ありがとう」
正面に座ったヘンリーが、真剣な眼差しで褒め言葉を口にしている。それが恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
(殿下だけでなくヘンリーからも評価してもらえるなんて、すごく恵まれた立場よね)
クリスティーナが褒め言葉を噛み締めていると、ヘンリーは再び口を開いた。
「押しに弱いけれど、他人のためにすぐ動けるし、とても素直で可愛らしいです。初めて会った時も、僕の無茶苦茶な願いを聞き入れてくれましたよね」
だんだんと褒める内容の雲行きが怪しくなってきた。
伯爵としての仕事ではなく、婚約者として褒められているような気がして、聞いているのがむず痒い。
「さっきだって頬に触れた時、すごく良い表情で……」
「まっ、待って! もう十分なので!!」
クリスティーナは慌てて立ち上がり、ヘンリーの口を塞ごうと手を伸ばした。
が、クリスティーナの手はヘンリーにあっさりと捕まった。
「本当に十分ですか? 自信つきました?」
からかうような声色なのに、こちらを見つめる瞳は優しかった。
「……少し」
「少しですか。今はそれで良いですよ」
本当は少しだって自信がついた訳ではない。だけど信じてくれている人達の言葉を信じたいと思ったのだ。
(自信がある振る舞いをすれば、これから変わっていけるかもしれないし!)
「それにしても、虫除けが必要ですね……」
「え?」
「いえ、何でもありません」
ヘンリーの呟きはクリスティーナには届かなかった。それどころか、掴まれた手をしばらく観察されているのにも気づいていないようだった。
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