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幸せな結婚式(2)
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「手が冷たいですね。緊張していますか?」
「そりゃあ……してるわ。急に実感が湧いたっていうか、昨日の今頃は普通に仕事していたし、明日も普通に仕事があるし……」
昨日も夜遅くまで、アクファミアと椅子のデザインについて話し合いをしていたのだ。安く売る代わりにデザイン修正を手伝ってほしい、というドロシーの要望を受けて、デザイン会議に参加していた。
椅子だけでなく他の作業道具も同様の改良を行うことになり、これから忙しくなるところなのだ。
(さらに使いやすくなったと思うのよね。早く皆に使ってもらいたいわ!)
それに、明日には別の仕事が待っている。ユリウスとともに爵位継承の法整備を進めることになったのだ。イレギュラーな自分の存在が役に立つならと、ユリウスに志願したところだった。
(ユリウス殿下はかなりやる気だったわ。私も頑張らないと)
「昨日……? おかしいですね。式前日は仕事を休むと言っていませんでしたか?」
「あっ……!」
ヘンリーには黙っていたのに、ついうっかり口を滑らせてしまった。ヘンリーは握っていた手の力を強めて、クリスティーナの手を持ち上げた。ヘンリーの顔を恐る恐る見上げると、口元は笑っていたが目は怒りに満ちていた。
「今日式も挙げることですし、はっきりさせましょうか。僕は貴女の夫になるのですよね?」
「はい……」
「僕は貴女の仕事の仕方に、口を出す権利を得たということですよね? 今後、徹底的に仕事を管理させていただきます。あまりに酷いようなら休職させます。僕は本気ですからね」
「……はい」
『新郎新婦の入場です』
クリスティーナが返事をしたと同時に、入場のアナウンスが響いた。扉が開き、ヘンリーにエスコートされて会場に足を進める。直前の会話のおかげで、緊張感はどこかに飛んで行ってしまった。
ちらりと客席を見ると、ジュリアスがソフィアとカーミラの隣を陣取っている。仲良く談笑していたが、クリスティーナと目が合うとにっこりと勝ち誇ったように微笑まれた。
(どうやら殿下の思惑は成功したようね)
ジュリアスは、穏健派の公爵家をうまく取り込んだようだ。
ソフィアとカーミラが主導しているハーブの塗り薬販売は軌道に乗ったようだし、王族とのパイプが出来たら貴族への販路も楽に開けるだろう。
「クリスティーナ」
ヘンリーにそっと囁かれハッとした。気がつくと、もう神父が誓いの言葉の問いかけを始めていたのだ。
「…いかなる時も互いを尊重し、愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「「誓います」」
「では、誓いのキスを」
ヘンリーがクリスティーナのヴェールを上げる。先ほどまでの怒りはすっかり収まったようで、優しく微笑んでくれている。
「クリスティーナ、愛しています」
「私も愛しているわ、ヘンリー」
ヘンリーの顔がゆっくりと近づいてくる。柔らかい唇が触れると、歓声が上がった。
なんだか恥ずかしくてうつむくと、ヘンリーが耳元で囁いた。
「明日の仕事は減らします。今日の夜は、覚悟してくださいね?」
その声に慌てて顔を上げると、今まで見たことがないくらい幸せそうな顔で笑っているヘンリーが、そこにいた。
【完】
「そりゃあ……してるわ。急に実感が湧いたっていうか、昨日の今頃は普通に仕事していたし、明日も普通に仕事があるし……」
昨日も夜遅くまで、アクファミアと椅子のデザインについて話し合いをしていたのだ。安く売る代わりにデザイン修正を手伝ってほしい、というドロシーの要望を受けて、デザイン会議に参加していた。
椅子だけでなく他の作業道具も同様の改良を行うことになり、これから忙しくなるところなのだ。
(さらに使いやすくなったと思うのよね。早く皆に使ってもらいたいわ!)
それに、明日には別の仕事が待っている。ユリウスとともに爵位継承の法整備を進めることになったのだ。イレギュラーな自分の存在が役に立つならと、ユリウスに志願したところだった。
(ユリウス殿下はかなりやる気だったわ。私も頑張らないと)
「昨日……? おかしいですね。式前日は仕事を休むと言っていませんでしたか?」
「あっ……!」
ヘンリーには黙っていたのに、ついうっかり口を滑らせてしまった。ヘンリーは握っていた手の力を強めて、クリスティーナの手を持ち上げた。ヘンリーの顔を恐る恐る見上げると、口元は笑っていたが目は怒りに満ちていた。
「今日式も挙げることですし、はっきりさせましょうか。僕は貴女の夫になるのですよね?」
「はい……」
「僕は貴女の仕事の仕方に、口を出す権利を得たということですよね? 今後、徹底的に仕事を管理させていただきます。あまりに酷いようなら休職させます。僕は本気ですからね」
「……はい」
『新郎新婦の入場です』
クリスティーナが返事をしたと同時に、入場のアナウンスが響いた。扉が開き、ヘンリーにエスコートされて会場に足を進める。直前の会話のおかげで、緊張感はどこかに飛んで行ってしまった。
ちらりと客席を見ると、ジュリアスがソフィアとカーミラの隣を陣取っている。仲良く談笑していたが、クリスティーナと目が合うとにっこりと勝ち誇ったように微笑まれた。
(どうやら殿下の思惑は成功したようね)
ジュリアスは、穏健派の公爵家をうまく取り込んだようだ。
ソフィアとカーミラが主導しているハーブの塗り薬販売は軌道に乗ったようだし、王族とのパイプが出来たら貴族への販路も楽に開けるだろう。
「クリスティーナ」
ヘンリーにそっと囁かれハッとした。気がつくと、もう神父が誓いの言葉の問いかけを始めていたのだ。
「…いかなる時も互いを尊重し、愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「「誓います」」
「では、誓いのキスを」
ヘンリーがクリスティーナのヴェールを上げる。先ほどまでの怒りはすっかり収まったようで、優しく微笑んでくれている。
「クリスティーナ、愛しています」
「私も愛しているわ、ヘンリー」
ヘンリーの顔がゆっくりと近づいてくる。柔らかい唇が触れると、歓声が上がった。
なんだか恥ずかしくてうつむくと、ヘンリーが耳元で囁いた。
「明日の仕事は減らします。今日の夜は、覚悟してくださいね?」
その声に慌てて顔を上げると、今まで見たことがないくらい幸せそうな顔で笑っているヘンリーが、そこにいた。
【完】
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