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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

694:生き返ったわぁ〜〜〜!!

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 ジュルル……、ジュルルルル……

 辺りに響く、グレコが血を吸い取る音。
 金色だったグレコの髪の毛は、みるみるうちに、いつもの漆黒へと戻っていく。
 そして……

「あ……、うぁ……、あ、あ…………?」

 首元に噛み付かれ、うわ言のような声を出しながら、白目を向いている裸デブ鼠。
 ……いや、もうデブでは無いな。
 グレコに血を吸われているせいか、どんどん痩せていっている。

「ヒイィイィィッ!?!??」

 もう一人の裸デブ鼠は、腰が抜けてしまったのか地面に這いつくばっており、声にならない悲鳴を上げながら、グレコとシワシワに痩せた裸鼠から必死に離れようとしている。
 
「グ、グレコ……、ちゃん……???」

 グレコの吸血行為を初めて見るノリリアは、真っ青な顔をして呟いた。
 ガゼボにいるライラックも、ハンモックから身を起こしてはいるものの、そのまま驚いて固まっているようだ。

 まぁ……、無理も無いな。
 俺も最初に見た時は、確か腰を抜かしていた。
 美しいエルフが、生き物の首筋に噛み付いて血を吸っている姿なんて……、絵的にはかなり衝撃的だものね。
 むしろ今は、見えているのが正面じゃ無いだけマシだろう。
 吸血している時のグレコの顔って、ほんと、めっちゃ怖いから。

 俺はというと、グレコのこういう行動は何度か見た事があるので、さほど慌ててもいないし焦ってもいない。
 慣れたというか、なんというか……
 ただ心に思うのは、あ~あ~やっちまったよ……、この程度だった。

 するとグレコが……

「プハァアッ! 生き返ったわぁ~~~!!」

 めちゃくちゃ爽やかな声でそう言って、シワシワ裸鼠の首元から口を離した。
 ぐしゃりと地面に倒れ込むシワシワ裸鼠。
 まさかとは思うけど……、殺しちゃった?

 さすがに、そのまま(お口を血で汚したまま)此方を振り向くわけにはいかないと考えたのだろう。
 ズボンのポッケからハンカチを取り出し、此方に背を向けたまま、お上品に口を拭うグレコ。

 さてさて、この状況……、どうしましょう?

 シワシワ裸鼠は、地面に倒れてはいるものの、微かだが胸の辺りが上下に動いているので、息はあるようだ。
 腰を抜かしている裸デブ鼠は、ほっといたら失神しそうなほどにビビってるけど、まぁ大丈夫だろう。
 問題は、ノリリアとライラックだ。
 二人とも、声も出さずに固まっている。
 何をどう説明して、理解して貰えばいいのか……

 と、俺が悩んでいると、グレコがくるりと此方を向いた。
 その表情は明るく、顔色も随分と良くなっており、真っ赤な瞳はキラキラと輝いている。
 そして、まるで何事も無かったかのように、お口周りはとても綺麗だった。

「ノリリア! 私に考えがあるの!!」

 めちゃくちゃ声にハリがあるぅっ!
 めちゃくちゃ表情がイキイキしてるぅっ!!

 あまりに上機嫌なグレコの様子に、俺もノリリアも、激しく動揺する。
 しかしながら、そんな俺達の様子などお構い無しに、グレコは、地面に這いつくばったままの、もう一人の裸デブ鼠に視線を向けた。
 見られた裸デブ鼠は、途端に死にそうな顔になって……

「ヒィイイイッ!? たっ!?? たすっ、助けっ!?!?」

 そう叫びながら、ガタガタと全身を激しく震わせ始める。
 何とか逃げようと手足をバタバタと動かしているが、恐怖に支配されたその心では立つ事すらままならないらしい。
 
 グレコは、ゆっくりと、裸デブ鼠へと近付いていく。

 ……え? 
 まさかとは思うけど、そいつも吸っちゃう気??
 駄目だよグレコ!!!

 心配でドキドキする俺。
 するとグレコは、恐怖する裸デブ鼠の前にしゃがみ込み、相手と目線を同じ高さにしてこう言った。

「ねぇ、あなたさっき言っていたわよね? 自分達が楽して生きる為に、他の仲間は見殺しにするんだって」

 ニコニコと話すその仕草が逆に怖いですグレコさん。
 しかも、裸デブ鼠達は、そこまで露骨な言い方はしていませんでしたよグレコさん。
 
「でも、ここでは水も食べ物も、勝手に、際限なく現れるのでしょう? なら、仲間がみんなここへ来ても、何とかなると思わない??」

 優しくグレコに問い掛けられるも、もはや震える事しか出来ない裸デブ鼠。

「なのに、二人じめにするなんて……。あなた達こそ、地獄へ行くべきだと私は思うわ」

 キャアッ!?
 笑顔で言うセリフじゃないわよグレコさん!!?
 その笑顔、とっても怖いわよグレコさん!?!?

「なっ!? なななっ!?? 何がっ、望みだっ!?!?」

 ガタガタと震えながら、裸デブ鼠はそう言った。

「今から私達、さっきの砂漠まで戻って、他の仲間達を迎えに行くわ。だって彼らに罪は無いのだもの、あんな場所に、いつまでもいる必要無いのよ。だけど、地獄の門の先にあるのは実は楽園だ、なんて……、私達だけだと、話の信憑性がないでしょう? こっちの彼は痩せちゃったし……。だから、太っているあなたも一緒に来てちょうだい。あなたの体型を見れば、本当に水も食べ物も豊富にある楽園が存在するって、みんな信じてくれるはずだもの!」

 キラキラとした表情で、提案するグレコ。
 もはや、どこから突っ込めばいいのか分からないが、とりあえず……
 こっちの彼は痩せちゃったしって、それはあんたのせいでしょうがっ!!!

「ね!? いい考えだと思わない!!? まぁ……、それでもあなた達が、二人だけでここで暮らしたい、他の仲間はどうでもいいって言うのなら……。邪魔だから、消えてもらう事になるけれど、いいかしら?」

 怖い怖い怖いっ!
 舌舐めずりしないでグレコさんっ!!
 これ以上吸っちゃダメだよグレコさんっ!!!

「ヒャアァアアアァァァァァッ!?!!?」

 あっ!? あ~あ、やっちゃったよ……

 グレコの脅しに、完全にノックアウトしてしまった裸デブ鼠は、悲鳴を上げながら失禁した。
 床には、かぐわしい黄色い水溜りが出来る。

「話は決まりね♪ さてと……。ノリリア、モッモ、ライラックも、いいかしら?」

 一人で血を吸って、一人で脅して、一人で決めて……
 グレコは俺たちの元へと戻ってきた。
 ライラックも、ガゼボを出て此方へとやって来た。

「ポ……、ポポゥ、グレコちゃん……。だ、大丈夫……、ポか?」

 かけるべき言葉が見当たらなかったのだろうノリリアは、どう見ても大丈夫なグレコに対してそう言った。

「えぇ、大丈夫よ。ごめんなさい驚かせてしまって。もうちょっと限界だったの。あれ以上我慢しちゃうと……、ねぇ?」

 グレコはそう言って、俺に視線を向けた。
 その言動は、まるで俺に同意を求めているかのようだが……
 俺には吸血衝動なんて無いから、同意は無理ですよっ!

「ポポゥ、なかなかに……、厄介なのポね」

 言葉を選んだつもりだろうが、本音がダダ漏れなノリリア。
 まぁ、厄介だよね、ほんとに……、うん。

「三人とも、リブロ・プラタの言葉を覚えている? ほら、ノリリアがリブロ・プラタに質問したでしょう?? この封魔の塔の試練で、私達はいったい何を試されているのかって」

 問い掛けるグレコ。

「ポッ、確か……。具体的な事は教えてくれなかったポが、心の強さがどうとか……、言っていたはずポね」

 ほう? そんな事を言っていたのかね??
 残念ながら……、記憶に無いですな!

「そう、心の強さ。正直、抽象的過ぎて、どういう事なのか分からなかったけど……。恐らく私達は、逆境に立たされた時に、如何に正しい道を選べるか! という事を試されていると思うの。だから、この第六の試練に打ち勝つ方法があるとしたら、それは一つだけ」

 一つだけ……、それは如何にっ!?

「あの砂漠に残されている罪も無い鼠達を、一人残らず、あの地獄から救う事。それを成し遂げればきっと、私達はこの第六の試練に打ち勝てるはずよ!」
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