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第5章 昔の事を少しだけ

04 事故の調査

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あの事故を起こした機体の整備記録を確認した結果、特に異常は見つからなかった。
機体が中国系航空会社所属だったので改ざんの可能性はまだあるとしても、さすがにこれ以上は追及しても何も出て来ないだろう。

という事は…あの機体は、何も問題が無かったにもかかわらず、少しばかり強めの低気圧の影響圏に入り込んだだけで、空中でエンジンが爆発する様な事故を起こした…と。

でもそんな事がありえるのだろうか?

あの機種のエンジンはバードストライク 対策 エンジンが搭載されていたから鳥などが干渉したとは思えない。それ以前に地域の管制官とのやり取りの記録からその様な話も確認されなかった。
もしかしたら火山性の噴火などが同地域であったとすれば火山灰が原因のエンジンの固着などがありえるが…それも確認したが無かった。

周辺海域での捜索ではフライトレコーダーは見つからなかった。
機械には水中に沈んだ場合に備えて発信機が付いているはずなのだが、その信号もまったく確認されなかったらしい。そして発信機の寿命が水没後1か月程度であった事から、一応その後1か月間ほど捜索は続いたが、捜索は打ち切られた。

周辺地域のアリューシャン海溝は最大水深が7000mを超えるそうだが、飛行機が落ちた場所はもう少し陸に近い辺りで、平均水深は100mから深い所で300m程度。
海溝部まで200kmほどの距離。

と、いう事は、誰か…何者かが持ち去った可能性が高い訳なんだが…

残骸の中にあるフライトレコーダーを回収できるのは、人かそれに近い知性を持つ生物…もしかしたら機体がバラバラに壊れていた事で露出したフライトレコーダーのビーコン信号に興味を持った海生哺乳類などが持ち去ったという事も…

「アーサー、またあの事故の事を考えているのですか?」
アーサー・K・ミューアが資料をまとめてあるオンラインデータストレージのフォルダーから引っ張り出した映像とPDFデータを見ながら考えていたら、あの時、事故のアシスタントとして同行したマイケルが近づいてきてコーヒーを片手に聞いてきた。

「あぁ、どうも気になる事が多くてな。もう一回初期の情報を見返していた所だ」
「そう言えばあの事件関係者も1人…2人でしたか?確か死んでましたね」
マイケルが言ってるのはセシリア・E・クランマーとその同僚の男の事。

「あぁ、その女性の車はハイウェイの路肩に転がってるのが確認されたが、運転手と持ち物の幾つかが見つからなかった」
「女性の知り合いらしい病院の警備員が犯行した可能性が高い状態で死んでるのが確認されたんでしたよね」
「確か…あぁ、これだ。セシリアの車が発見された翌日から病院に仕事に出て来なくなって…約1か月後にセシリアのバッグと共に森の奥で死体で見つかったとある」
ディスプレイには発見現場の腐乱死体の写真が数枚と発見されたバッグと内容物が個別に撮られた写真が順に表示されていた。

「確かセシリアの死体は見つかってないんですよね?」
「あぁ、見つかったのはバッグだけだな。あとは彼女が最後に使った携帯電話が1つだけ見つかってるな。一応怨恨か金銭トラブルかまでは確認されてないが、ボブ・P・ヴェルナーがセシリア殺害の犯人という事で被疑者不明のまま半年後に操作は打ち切り、お蔵入りって感じだ。どうもセシリアの借りていた部屋からボブ・P・ヴェルナーの体液と、それ以外にも色々発見されたのと、セシリア本人の血液反応がバスルームからかなりの量が見つかった事で、そこが殺害された場所と断定されたみたいだが…」

アーサーが資料を見ながら考え始めた。
セシリアが契約していた携帯電話は2機。1つはプライベート用で、もう1つはどうもあまり評判の良くない連中と連絡を取る為に使っていたらしいことまでは確認できたが…そちらだけ持ち去る…ボブはそっち側の関係者と見られているが、でもじゃぁなぜ最後に電話をしたのが個人用の携帯電話だったのか…そして持ち去られた携帯電話をどこの誰が…

「そう言えばアーサー、週末はどうするのですか?」
思考が堂々巡りを始めそうになった時にマイケルから声がかかった。
「んっ?なんだ?週末?」
「もう忘れてるみたいですね、はぁ…奥さんと娘さん達と一緒に旅行に行くってこのあいだ言ってたじゃないですか。延期にでもなったんですか?」
「あぁ、あれなぁ…昨今のウイルス関係の渡航制限がかかって取りやめになったんだ。メアリーとフィアンナは車で行けるアンナの実家に行く事になったよ。俺はあっちで長居するのがどうにも億劫なんで居残りだ」
「あらら…そしたらアーサーは週末から先1人ですか?もしあれならどうです?僕の予定してる知り合いの持ってるクルーザーでトローリングとか♪けっこう楽しいですよ?」
リールを巻く様な動きをしつつ竿を引っ張る感じに動いて何かを思い出してる顔のマイケル。
どうも大物を何度か釣った事があるらしい。

「トローリングなぁ…場所はどこなんだ?」
アーサーは釣りには特に興味を持ってなかったが、大物を釣る様なスポーツフィッシングは気になっていた。たまに暇な時に見るYoutu〇eなどの動画では見ていてけっこう興奮したものだ。あんな大物が釣れたら面白いだろうな、などと思う程度には興味を持っていた。

「クルーザーを持ってる人が居るのがアラスカなんでそっちに飛行機で行く事になりますけど」
「…トローリングってハワイとかフロリダなんかでやるのが普通なんじゃないのか?」
アーサーが知ってるトローリングというスポーツはトロピカルな海でカジキなどを釣る遊びだった。
「それはアーサーが知らないだけですよ。アラスカ海ではシルバーサーモンフィッシングやハリバットフィッシングが熱いですよ」
「ハリバットって何だ?」
「でっかいヒラメとかカレイみたいな奴です。人の身長を超える様なサイズがとんでもない数釣れますから楽しいですよ♪」
「それは楽しそうだな。それなら…あーでもさすがに週末に向けてチケットは無理じゃないか?明日か明後日にはこっちを発つ感じだろ?」
「そこはお任せください。実はここに一人分のアラスカのアンカレッジ空港まで行く飛行機のチケットがありましてね?」
「なるほど、お前が俺を誘う理由がそのチケットの代金回収目的だった事を理解したよ」
「まぁそう言わずにどうせすか?大量に釣れたらチケット代もそっちの売値で元が取れたりする事があるって話ですからここは男同士少しばかりギャンブルでもしてみては?」
「まぁいいだろう。どうせ暇な休日を一人寂しく過ごす予定だったんだ。お前の趣味に少しばかり付き合うとするか」
「まいどありぃ~♪一応チケットの代金は先払いでよろしくお願いしますね。後で回収できなかったとかって話になったら遺恨を残しますから」
「あぁ」
アーサーとマイケルが少しの間スマホの操作をして金額の授受が完了した。

「じゃぁアーサー、一応替えの下着と靴下ぐらいは用意して飛行場に来てください。では~♪」
マイケルが飲み終わったコーヒーの入っていた紙コップを潰しながら部屋から出て行った。
「あいついつまで一人でいる気なんだろうなぁ…」


そして…独立記念日から2週間ほど後、アーサー・K・ミューアがアラスカ湾で死体で浮いているのが見つかった記事が地方紙に小さく載ったらしい。
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