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番外編その2 木澤彰吾、パパになる

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「おかえりなさい」
 にこやかに玄関で出迎えてくれた花梨を、俺はたまらず抱きすくめた。

「ただいま。メールもらってから、もうずっとこうしたかった」

 花梨とお腹の我が子への愛おしさがこみあげてきて、抱きしめる腕に力が入ってしまったようだ。

「彰吾さん、ちょっと苦しい」
「あ、ああ、すまん」
 俺はあわてて花梨を解放した。
 
 花梨は俺をソファーに坐らせ、自分も隣に坐った。

「もう3カ月目なんだって」

 そして、俺の手をそっと自分の腹の上にのせた。
 それから、メモ帳ぐらいの大きさのモノクロ画像を見せてくれた。

「この、ちっちゃいお豆みたいのが赤ちゃん」

「そ、そうか。これか。よくわからんな。おい、体の調子は? つらくはないか」

「うーん、少し胃がムカつくけど」

「そりゃいかん。このまま座っとけよ。食事の準備は俺がやるから」

  花梨は目をまんまるにして、それからにっこり微笑んだ。

「ありがと。でも平気。お医者さんから普通に生活して大丈夫って言われたから」

「……信頼できるのか、その医者は」
「とっても良い先生だったよ。女医さんで優しい感じの」
 
「ああ、女医なのか。良かったな」
「うん、いろいろ相談しやすそう」

 俺がほっとしたのは別の理由。

 たとえ医者といえ、他の男に花梨を触れさせるのは……嫌だったのだ。

 まあ、でもそんなこと言ったら、さすがに引かれるだろうから、口にはしないが。
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